■AAA『とある機械都市の惨劇』■



「どうした、さっさと報告しろ!」

マイクに向かって施設長のベロニー博士は声を荒げた。
第四製作工場職員の男は酷く怯えた様子で、ボソボソと話す。
「分からない、分からないんです。あいつ等が…」
「あいつ等とは、誰の事だ!?」
「私にはもう…たすけ…ぎゃあああぁぁ!!!」
「おい!」
またか。
いくら返答を待ったところで、それきりだった。
職員からの反応は帰ってこない。






異常事態だった。
この研究施設では今までにも
ガスが漏れただとか、ボヤが起こっただとかで軽い騒ぎになった事はある。
しかし、今回のはそんな生易しい事態ではなかった。


始まりはベロニーがモニター監視のエランとモニター室で談笑していた時だった。
話をしながらエランがモニターを横目で見、おかしな動きに気づいた。
薄暗い部屋にズラリと並べられた監視用モニター。
そこには急がしそうに歩き回り働く職員達の姿が映っている。
その中の一つ、第一製作工場廊下のモニターに赤いものが舞った気がしたのだ。
「…何でしょう、今の?」
「ん?何か見えたのか?」
「モニターが一瞬赤く覆われたんです」
カメラを移動してみろ。ベロニーは言った。
エランはパネルを操作して、廊下の天井近くに設置されたカメラを器用に動かす。
カメラのほぼ真下…床にそれはあった。
「「なっ…!?」」

それはバラバラに切断された人間の身体だった。

床に流れてゆく血の海の中で、職員と思われる人間の身体が散らばっている。
事故や自殺とは到底思えない。明らかに何かによってたった今、切断されたのだ。
赤いものの正体を知った二人は愕然とした。
おそらくさっきエランが見たのは、噴出した血であったに違いない。
吐き気をもようしたエランは口を手で覆い、画面から目を逸らした。

このように瞬間的に人体を切断するなど、人間業ではない。
まさか魔物でも入り込んだというのか?
今の時代、人気の多い場所に魔物が現れるなどおかしな話ではあるが…。
そもそも研究施設のみならず都市全体は非常に強力な結界が張り巡らされている。
とてもそんな事は信じられなかった。
「他のモニターに何か映ってはいないか!?」
そう言われたエランは、眉に皺を寄せながら顔をパネルへと向き直した。
エランは遠く離れたカメラを動かし、ベロニーと共にモニターを一つ一つを調べていった。
しかし何もとらえる事は出来なかった。
無理か…まさか相手は死角が分かっているのだろうか。
「ならばエラン、生体反応を調べてくれ!」
「は…はい!」

この施設で働く人間は、全てネームプレートに内蔵されたナンバーで管理されている。
生体反応を確認するエランのモニターに、そのナンバーとMAPが簡易に表示された。
施設内MAPで生体反応を調べれば、侵入者の居場所が突き止められるだろう。
そう、侵入者であればナンバーは表示されないからだ。
エランは焦りながらも室内を一つずつ確認していった。

だが…

「侵入者らしき反応はありません」
一通り確認し終えたエランが言った。
「馬鹿な!明らかに何者かに職員が殺されているのだぞ!?」
「そう言われましても、ナンバリングされた職員しか表示されないんですよ!」
二人がもう少しで口論を始めそうになったとほぼ同時に、他のモニターでも動きがあった。

異様で残虐な光景が彼等の前に広がった。
ほぼ全てのモニターに先程エランが見たものと同じと思える映像が映されたのだ。
鮮血が肉片が飛び散り宙を舞う。
硬いコンクリートと鉄の壁に、人間の首や腕が跳ね返り赤い模様を作る。
時折、キラリと鋭く光って見えるものは刃物だろうか?
血に濡れた鎌に似た刃先が目にも止まらぬ速さで、振られているように見えた。
獲物を握っているハズの殺戮者の姿はカメラの影に隠れて見えない。
それを真近で見てしまったエランは、もうパネルを操作する気力も無かった。
「せ、せせ生体反応が次々に消えていますっ!」
彼の言うとおりモニターのナンバー表示が一気に変化を見せた。
オレンジから灰色へとナンバーの色が変わってゆく。
それは職員達の死を意味していた。

なんとか通信機までたどり着き助けを求めようとした者も数名いたが
ほとんど会話する事も出来ずモニター室に叫び声が響き渡るだけ。
断末魔の声に二人は耳を塞いだ。

生体反応を持たない者が施設内を歩き回っているというのか。それも大量に。
生体反応が無い。おそらくは魔物でもない…それはつまり…。
ベロニーはうすうすと気付き始めてはいたが、それ以上はもう考えたくは無かった。
二人はこの惨劇の場から早々に逃げ出したかった。
しかし不用意に外へは出られない。扉の向こうにはすでに殺戮者がいるかもしれない…。

バチンッ

弾ける音が聞こえ、室内の全てのライトが消えた。
地獄の光景を見せていた全てのモニターも黒い画面を映すだけ。
「停電か…?」
「…モニターの電源コードが切られてしまったのかも…」
弱弱しい声でエランが答えた。
ただひとつ、生体反応を表示するモニターだけは無事だった。
ぼんやりとしたモニターからの灯りを頼りにするしかなかった。
しかし彼等は更なる絶望を見た。残っているナンバー表示は2つだけだったからだ。
見覚えのあるナンバー。
ベロニーとエランのネームプレートに与えられたナンバーだった。
他の職員達は全滅、彼等はついに二人きりになってしまったのだ。
ベロニーは愕然とし、声が出なかった。
いつ自分達が殺されたとしてもおかしくない状態となっていた。
巨大な施設内にただ二人だけ残された彼等に、成す術はなかった。
ベロニーは手は無いかと室内をウロウロと歩き回り。
エランはモニター前のイスに座り、ブツブツと神に助け請うていた。

何故…こんな事になってしまったんだ…!



少しの時間が経ちふとベロニーは気付いた。呟いていたエランの声が聞こえない。
「どうした、エラン?」
ベロニーはエランの肩に軽く手を置いた。
するとエランの上半身がグラリとずれ、ズシンッと重い音を立てて床に堕ちた。
彼の身体は右肩から左の脇腹にかけて斜めに切断されていた。
赤い肉と内蔵、骨の断面が露になっている。
それは鋭い刃物で一刀両断にされたような滑らかな切り口だった。
断面からじわりと滲み出した瞬間、血は噴水のように噴出した。

「う…ううわああぁぁぁ!!!」
ベロニーはその血を頭から被り、大きな叫び声をあげた。
エランが死んだ!
この部屋にはすでに殺戮者がいる!
エランの別れた上半身と下半身から流れた大量の血が、床を染めてゆく。
足元までその血がきたのを見たベロニーは、出入り口へと後ずさりした。
何処へいてももう同じだ…外へ出よう。
もしかすると逃げ切れる可能性だってあるかもしれない…!

ドアのノブに手をかけたその時、スピーカーからノイズ音が聞こえた。
ノイズの中にかすかに人間の話す声が聞こえた気がする。
その声に彼はハッと我にかえった。
誰か生きている人間が?
それとも、私は幻聴でも聞いたのだろうか?
この施設に残っている人間は私だけになってしまったはずだった。
モニターの生体反応は、今も自分だけしか表示されていない。
場所は中央ブロックからであった…。

…中央ブロック?

そこは立ち入り禁止となっている場所。入れるのは私を含め他数名の者達だけだった。
おかしいとは思ったが、彼にはもうその声にすがるほか無かった。
「誰だ!?誰か其処にいるのか!?返事をしてくれ!!!」
ベロニーは返答を待った。
またかすかにとぎれとぎれに声が聞こえる。

『ワ……  ヲ………テ… イ…   カ?』

よく聞こえなかった。
「聞こえないんだ!もっとハッキリ頼む」


『ワタシ ヲ オボエ テ イルカ?』


急に酷かった雑音が消え去り、クリーンに相手の声が室内に響いた。
今まで以上に背筋が寒くなる。
最初、相手が何を言っているのかさっぱり分からなかったが、ベロニーはある事に気付いた。
声が送られているのは立ち入り禁止の中央ブロック。
そこにはこの都市の核ともいえるメイン・コンピューターのある場所だった。
ベロニーには声の主に心当たりがあったのだ。
その予想は更に確信となった。
『ベロニー ハカ セ』
「そんな…まさか。お前の意識はもう消


風を切りさく音が鳴り、全ては静寂に包まれた。





DEAD END…?



2008/04/19

内容は結構ヤバげですが、コレが無いとこの後が始まらないという。
ストーリーはもしアニメなら、第1話OP前にやるような部分になっています。
魔法とか魔物とか出てくるファンタジー世界ではありますが、めちゃSFになってます。
アンドハーツの頃から技術発展しまくってます。技術隔たった乱雑未来世界みたいな…。
あまりよく知らないで書いてるので、単語とか間違っているかもしれませんが…。
ホラー的なお決まりZ級展開を詰め込みまくった感じで、どうぞ。(苦笑)



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