「遠くの店まで行くので、少し帰りが遅くなるから」 数時間前、オルトは通信機でそうナユタに伝えていた。 機械の部品-欲しかった数種類の歯車-を買うのに、遠出していたのだ。 全ての買い物が終わり、彼は帰りの道を歩いていた。 ずいぶんと時間がかかってしまった。辺りはもう暗く、夜だった。 これから帰ることを伝えようとしたのだが、どうも調子が悪い。 歩き疲れた所為か、通信機を起動するための魔力が安定していないようだった。 服の中に紐で下げているホイッスル型の通信機を取り出してみた。 オルトは軽く瞼を伏せ通信機を耳を当てる。そこからは砂嵐に似た雑音が聞こえた。 どうやら通信機自体にも、何か問題があるような気がする。 帰ったら休んで、通信機のメンテナンスもしなければ…オルトは思った。 横目に路地が見えた。 …近道しようか? 此処を通ればかなり早く帰れる。 もう疲れているし、さっさと帰りたかった。 オルトは路地を通って行くことにした。 建物の壁に囲まれているが、薄暗いながらも小さな電灯がついているのが救いだった。 しばらく歩いていると… カチ。 背後から硬い物を弾く様な、軽く叩く様な音が聞こえた気がした。 その音にオルトは足を止め、振り返る。 しかし、彼の後ろには何の姿も見えない。 …気のせいだろうか。 オルトはまた歩き出した。 カチ。 やはり聞こえる。 機械音のようだ。 オルトの耳は良い。特に機械類に関しては、稼動する部品の音を聞き分けられる。 それはオルトの特技でもあった。 カチ。 …近づいてきている。かすかな音だが、確かにだんだんと大きくなっている。 それにこれは一つではない。いくつかの音が重なっても聞こえる。 嫌な予感がした。 分からない、分からないが此処に居てはいけない、そうオルトは感じた。 彼は足を速めた。 それに合わせ、その音もついて来る。 自分を追ってきている。オルトはさらに足を速めようとした。 「痛っ」 突然の痛みにオルトは止まり、自身の足を見る。 スラックスが綺麗に切り裂かれており、隙間から少量の血が流れているのが見えた。 ふくらはぎ部分が浅く切られ、5cmほどの一直線の傷が出来ている。 動揺したオルトは地面辺りを見回した。 「う…うわっ…!」 足元にいるのは3体の白い物体。 赤く光る6個の瞳、細かい何本もの小さな足、光沢のある平べったく長い体。 メインの手といえる部分には、鋭い鎌を持っている。 蜘蛛とムカデを合成したような姿の、虫型メカニマルゴーレムだった。 「カチ」「カチ」「カチ」と、金属の歯をかみ合わせる音を小さく響かせている。 あの音の正体は、このメカニマルゴーレム達だったのだ。 オルトは傷つき痛む足をかばいながら、後ずさりした。 少しでもこの不気味な者達から離れたかった。 コレは明らかに戦闘用のメカニマルゴーレム。鎌を高く上げ、威嚇している。 「ぼ、僕に何の用だ!」 しかし、メカニマルゴーレム達は答えない。言語機能は持っていないのか。 そのうち一体が同士の方に身体を向けた。 赤い6個の瞳が小刻みに点滅し、何やら合図を送っているように見える。 その隙をついてオルトは走った。 足は痛むがそんなこと気にしてはいられない。 走りながらオルトは悔やんでいた。 なんでこんな時に通信機の調子が悪いのか、と。 近道をしようなんて思わなければよかった、と。 この道は昼間でもほとんど人が通らない。夜にもなればなおさらだった。 元々、路地を通るのは危険だとサイファーにも言われていたのに…! メカニマルゴーレム達は足音も立てず、オルトを追ってきていた。 ただカチカチというあの音だけが聞こえる。 壁に囲まれた細い道や袋小路の多いアンダバギー街はまるで迷路だった。 街に長く暮らすものでも、迂闊に歩き回れば道に迷ってしまう。 ましてこの街に来て日の浅いオルトには、なおさらだった。 目の前は案の定の袋小路。 逃げる甲斐もなく、すぐにオルトは追い詰められてしまった。 側には、メカニマルゴーレム達が居る。 壁を背に呼吸を整え、考えた。何か手は無いのか。 彼は思い出した。制服の裏ポケットに手を入れる。触れたのは金色の小さな銃だ。 この銃は護身用で、相手を脅かす程度の威力しかない。 生身の人体に当たればしばらく動けなくする事くらいは出来るが、 とてもじゃないが金属のメカニマルゴーレムにこんな銃が通用するとは思えない。 とはいえ、彼にある武器といえばこれしか無かった。左手で銃を抜き出し握る。 「来るなあああぁ!」 オルトは銃を向け、引き金を引こうとした。 シュッ パ ン! 「あ…」 メカニマルゴーレムの一体が、鎌を大きく振った。嫌な音がした。 ボトッと、少しだけ離れた場所に何かが落ちた。 オルトは目を見開く。 「あ゛、ああああぁっーーー!!!!」 それは間違いなくオルトの左腕だった。 銃のグリップを握ったままの左腕だった。 To Be Continued…(この続きは漫画で挑戦。製作中…) 2008/10/24 どうやらオルトは左利きだったようです。これ書いてて知りました…! アンドハーツに続きまた腕落とされてますが、ある意味シリーズお約束ということで。(苦笑) 冒頭小説「とある機械都市の惨劇」にワザと被らせてみた表現がそこかしこに…。 時間軸的には、終盤入る直前辺りです。 オルトは仲間とうち解け合い、自然と笑顔も見せられるようになってます。 そんなときに起きた新たな惨劇です。続きは漫画(8+3ページくらい?)でいつか…。 |