■AAA『すこしかえりがおそくなる』■



「遠くの店まで行くので、少し帰りが遅くなるから」

数時間前、オルトは通信機でそうナユタに伝えていた。
機械の部品-欲しかった数種類の歯車-を買うのに、遠出していたのだ。
全ての買い物が終わり、彼は帰りの道を歩いていた。
ずいぶんと時間がかかってしまった。辺りはもう暗く、夜だった。
これから帰ることを伝えようとしたのだが、どうも調子が悪い。
歩き疲れた所為か、通信機を起動するための魔力が安定していないようだった。
服の中に紐で下げているホイッスル型の通信機を取り出してみた。
オルトは軽く瞼を伏せ通信機を耳を当てる。そこからは砂嵐に似た雑音が聞こえた。
どうやら通信機自体にも、何か問題があるような気がする。
帰ったら休んで、通信機のメンテナンスもしなければ…オルトは思った。
横目に路地が見えた。

…近道しようか?

此処を通ればかなり早く帰れる。
もう疲れているし、さっさと帰りたかった。
オルトは路地を通って行くことにした。
建物の壁に囲まれているが、薄暗いながらも小さな電灯がついているのが救いだった。
しばらく歩いていると…

カチ。
背後から硬い物を弾く様な、軽く叩く様な音が聞こえた気がした。
その音にオルトは足を止め、振り返る。
しかし、彼の後ろには何の姿も見えない。

…気のせいだろうか。

オルトはまた歩き出した。
カチ。
やはり聞こえる。
機械音のようだ。
オルトの耳は良い。特に機械類に関しては、稼動する部品の音を聞き分けられる。
それはオルトの特技でもあった。

カチ。

…近づいてきている。かすかな音だが、確かにだんだんと大きくなっている。
それにこれは一つではない。いくつかの音が重なっても聞こえる。
嫌な予感がした。
分からない、分からないが此処に居てはいけない、そうオルトは感じた。
彼は足を速めた。
それに合わせ、その音もついて来る。
自分を追ってきている。オルトはさらに足を速めようとした。

「痛っ」
突然の痛みにオルトは止まり、自身の足を見る。
スラックスが綺麗に切り裂かれており、隙間から少量の血が流れているのが見えた。
ふくらはぎ部分が浅く切られ、5cmほどの一直線の傷が出来ている。
動揺したオルトは地面辺りを見回した。

「う…うわっ…!」

足元にいるのは3体の白い物体。
赤く光る6個の瞳、細かい何本もの小さな足、光沢のある平べったく長い体。
メインの手といえる部分には、鋭い鎌を持っている。
蜘蛛とムカデを合成したような姿の、虫型メカニマルゴーレムだった。
「カチ」「カチ」「カチ」と、金属の歯をかみ合わせる音を小さく響かせている。
あの音の正体は、このメカニマルゴーレム達だったのだ。
オルトは傷つき痛む足をかばいながら、後ずさりした。
少しでもこの不気味な者達から離れたかった。
コレは明らかに戦闘用のメカニマルゴーレム。鎌を高く上げ、威嚇している。

「ぼ、僕に何の用だ!」
しかし、メカニマルゴーレム達は答えない。言語機能は持っていないのか。
そのうち一体が同士の方に身体を向けた。
赤い6個の瞳が小刻みに点滅し、何やら合図を送っているように見える。
その隙をついてオルトは走った。
足は痛むがそんなこと気にしてはいられない。
走りながらオルトは悔やんでいた。
なんでこんな時に通信機の調子が悪いのか、と。
近道をしようなんて思わなければよかった、と。
この道は昼間でもほとんど人が通らない。夜にもなればなおさらだった。
元々、路地を通るのは危険だとサイファーにも言われていたのに…!
メカニマルゴーレム達は足音も立てず、オルトを追ってきていた。
ただカチカチというあの音だけが聞こえる。

壁に囲まれた細い道や袋小路の多いアンダバギー街はまるで迷路だった。
街に長く暮らすものでも、迂闊に歩き回れば道に迷ってしまう。
ましてこの街に来て日の浅いオルトには、なおさらだった。
目の前は案の定の袋小路。
逃げる甲斐もなく、すぐにオルトは追い詰められてしまった。
側には、メカニマルゴーレム達が居る。
壁を背に呼吸を整え、考えた。何か手は無いのか。
彼は思い出した。制服の裏ポケットに手を入れる。触れたのは金色の小さな銃だ。
この銃は護身用で、相手を脅かす程度の威力しかない。
生身の人体に当たればしばらく動けなくする事くらいは出来るが、
とてもじゃないが金属のメカニマルゴーレムにこんな銃が通用するとは思えない。
とはいえ、彼にある武器といえばこれしか無かった。左手で銃を抜き出し握る。
「来るなあああぁ!」
オルトは銃を向け、引き金を引こうとした。


シュッ パ ン!


「あ…」
メカニマルゴーレムの一体が、鎌を大きく振った。嫌な音がした。
ボトッと、少しだけ離れた場所に何かが落ちた。
オルトは目を見開く。
「あ゛、ああああぁっーーー!!!!」
それは間違いなくオルトの左腕だった。
銃のグリップを握ったままの左腕だった。










To Be Continued…(この続きは漫画で挑戦。製作中…)



2008/10/24

どうやらオルトは左利きだったようです。これ書いてて知りました…!
アンドハーツに続きまた腕落とされてますが、ある意味シリーズお約束ということで。(苦笑)
冒頭小説「とある機械都市の惨劇」にワザと被らせてみた表現がそこかしこに…。
時間軸的には、終盤入る直前辺りです。
オルトは仲間とうち解け合い、自然と笑顔も見せられるようになってます。
そんなときに起きた新たな惨劇です。続きは漫画(8+3ページくらい?)でいつか…。



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