「異界の夜へようこそ。私はファーブラ導く者
 私の見えるもの。
 迷い込んだ者達。
 戦う乙女。
 蘇った男。
 捜し求める乙女。
 鳥に乗った老婆。
 魔銃と神鞭、放たれる時、異界は震える。

 次に地下鉄が辿り着く場所、そこは…。」


『果実〜あまいかおりのまち〜』


伯爵はおやつを食べていた。
プリン。それをスプーンで一口。味わいながら食べる
「混沌はどう?」
「また一つ外界をたいらげましてとても元気でございます」
伯爵の問いにオスカーは答える。
それを聞いた伯爵は「そう」と一言放つ。
「伯爵様」
オスカーが声を出す。
「な〜に…」
その声を聞いて伯爵は不機嫌で答える。
「魔銃なる銃を使う黒き風の男、そして神鞭なる鞭使う暗闇の満月。
 その能力から察するに・・・。ア〜ンリミテッドではないかと?」
アンリミテッドとオスカーは言った。
その言葉に伯爵は目を細め問う。
「アンリミテッド?」
「神をも超える力を持つ者の意味でございま」
スプーンがオスカーの仮面に当たる。
「神はこの僕だ!僕を超える者など存在するわけないだろう?」
「その通りでございます」
謝り、頭を下ろす。
「フン、そんな奴らとっととやつけて来ちゃってよ。ネ〜、魔剣士、神弓士(しん きゅうし)」
タイラントは自分の上にいる二人の人物に声をかけた。
男女で二人とも白い髪に白い服。
ガウディウムの外壁にいた彼らだった。
青年の方が「魔剣士」なのだろう。
腰の後ろ辺りに白い剣がぶら下がっている。
そしてもう一人の女性の方が「神弓士」なのだろう。
弓らしい物などは見えないが腰にあるベルトには矢のような棒がある。
魔剣士は眼を細く開けただけですぐに閉じてしまった。
神弓士は眼を伯爵たちに向けたがまた右手に持っている本に眼を戻す。
その様子を見るオスカー。
そんな時だ、ヘルバが伯爵の玉座に降りて来た。
「伯爵様〜、魔剣士ちゃんとお姉様がやっつけちゃう前に
 私も魔銃ちゃんと神鞭ちゃんを見てみたいわ」
「何だヘルバ、また遊びたいのか?」
「ええ、とっても」
そんな話をしている間、ヘルバの顔の周りに光る胞子がふらふらと漂っている。
「もう、さっきから邪魔よ。あっちに行って負け犬ちゃん!」
胞子はヘルバの指に弾き飛ばされフングスのパイプの所まで飛んでいく。
胞子がはじけ、その中からフングスが飛び出した。
「くは〜!死ぬかと思ったであります・・・」
「ハハハ、『不死身のフングス』でも死ねるのかい?」
笑いながら伯爵は言う。
「死ねないであります。バラバラにされようが粉々にされようが何度でも蘇るであり ます」
「ただ」を付け加えフングスは自分より巨大なパイプを持ち上げる。
「元のサイズに戻るまでは少々時間がかかるでありまする」
口に含み煙を出す。少々だけだが。
「サイテ〜」
ヘルバが笑いながら言葉を出す。
そんなやりとりを見ているのは頭上高くいる魔剣士と神弓士、その二人だった。


甘い匂いが辺りに漂う。
絶望者たちが所々にいる町。
そこは全てが果実で作られた場所。
暗闇はそんな町の中のつり橋を一人渡っていた。
風とクイとは別行動を取っている。
それには今回わけがあった。
彼女は会うべき人物がいる。
それは二人。
とある場所へ足を進めていた時に耳に入った声。

 あ、お姉さん・・・!

まだ希望の声持つ少女の声。
この絶望者たちの町から他より来た声。
絶望した声行き交う町の中。
その声が聞こえた。
その声の主を知っている。
一度会ったのだから。
しかし、彼女には今は関係ない。
ゆえに彼女はそのままある場所へ向かった。

 波の音と潮の香りある「貝の館」へ。

それを見ているクルルは無言で後を追う。
しかし。
「邪魔だ」
暗闇がクルルに向かって指をはじく。
いきなりクルルは風に巻かれた。
「クルッル・・・!?」
風に飲まれどこかへ飛ばされる。
それを確かめてまた歩んでいく。


少女が一人酒場に来た。
誰かを探しているんだろう。
風も探し『者』をしていた。
風は情報を探していた。
自分の故郷を破壊した『者』を。
絶望者たちでも知っているものを話してくれた。
いや、自分たちから話して来たと言ったほうが良いだろう。
風はただその言葉を壁に腰掛け聞き、クイは風の隣で壁の果実を食べた。
数々に行き渡す絶望の声。
クイはそれが嫌だった。
そんなこと考えているより何か行動すれば良いではないかと思った。
「逆らっちゃいけないよ・・・。伯爵には」
「あれはこの世のものじゃねぇ・・・」
「タイラント伯爵にはガウディウム四凱将がついている」
「探しものなら奴らに聞いてみればいい・・・、命が惜しくなければねぇ・・・」
クイはこの絶望者たちに蹴りを入れたかった。
自分たちは何もしていないのに最初から決め付けておく。
聞いていてムシャクシャした。
そんな中だ。
少女の声が響いた。
荷物を盗まれその盗んだ人物を探しているらしい。
クイは絶望者たちの言葉にムシャクシャしていて気づかなかった。
絶望者たちが一斉に悲鳴をあげた。
「何かを探すなんて無駄だ!」「一度無くした物は二度と手に入る事はない!」
「異界に来たら異界に従え!」「それが異界の『ルール』なんだ!」
「ルールなんだ!」「ルールなんだ!」「ルールなんだ!」「ルールなんだ!」
少女は怯え、酒場から飛び出す。
当たり前だ。
いきなりこんな絶望のコーラスなんか聞かされたらたまったものではな い。
そして探し物をしている者たちにとっては。
泣き、わめく声が酒場に響き渡るその中。
クイはおどおどしながら風を見る。
それに対して風はただ沈黙の中にいた。


少女はある意味絶望していた。
自分の荷物は盗まれる事や、絶望者達の声。
果実の液で汚くなった服。
ある意味絶望だった。
そんななかある音が聞こえた。
 波の音

淡く光る「貝の館」。
その中にいた人たち。
一人は知っている。
黒い服に長い黒髪。
暗闇だ。先程見たのは見間違いではなかったのだ。
そしてもう一人。
ローブを纏った銀髪の女性。
ある意味暗闇と同じ不思議な感じがアイの中にあった。
「私はファーブラ、導く者」


「そう、荷物を・・・。」
「みんな諦めろ、探しても無駄だ。っていうんだもの。
 自分たちは何もしてないでただ喋ってるくせにさ」
アイは暗闇や貝の館全体を見る。
「暗闇のお姉さんとお友達?ファーブラは。」
「ええ、ある意味でね」
「て言うか、ここにある物ってなんだか不思議。綺麗なんだが気も悪いんだかビ ミョー」
そのような事を言っている内に一つの真珠に目を止める。
真珠の中には生き物がいる様に見える。
ある意味生き物だが。
アイが真珠の中にいる生き物に指差すとその生き物は反応して口をカチカチと鳴ら す。
「これ怖可愛いかも〜」
「良かったらあげるわ」
「え、良いんですか?」
アイは真珠を持ち上げた瞬間。
真珠は消えてその中にいた生き物がいた。
「良いのか?」
「いいのよ・・・。その子はポシェポケ。大事にしてあげてね」
アイはポシェポケを首からかけてバッグのように腰にやる。
「ありがとう」
「貴方が望めば現実がついて来ます。だから負けないで」
そんなやり取りを見ていた暗闇は少しだけ口元が笑った。
ほんの少しだけ。
その場にいるアイにさえ分からない笑み。
そんな時、空から音が聞こえた。
アイが外に出てみた物は飛空船。
しかし前の飛行船とは違う。
タンポポの綿毛をモデルとした飛行船だ。

「貴方はどうするの?」
「・・・・・・・捜し続ける。それだけだ」
貝の館内では暗闇とファーブラが話をしていた。
「貴方はどうしても行くのね・・・」
「・・・・見つけなければならない。でなければ私は」
    ずっとわからないまま。
        何のためにここにいるかさえ。
             私にはわからない。
「・・・貴女はどうしても望むのね・・・」
「それが私の「望み」だから・・・」
「知らないのでしょう?・・・貴方は貴方の本当の何を望んでいるのか。」
ファーブラのある言葉で暗闇の顔が一瞬曇る。
「それでも・・・」
 それでも私は望む、それが私の『願い』だから。

アイが振り返ったときには、もう何もなかった。
「貝の館」も、ファーブラも、そして暗闇も。




飛行船のブリッジの所ではヘルバが傘をまわしながら果実の町を見ていた。
そのとき、クルクスが飛んで来た。
「あら?もう一人いたはずでしょ?神鞭ちゃんを見張っていた子は?」
「くーくるゆー」
クルクスは首を横に振る。
「しょうがないわねぇ。今回は魔銃ちゃんだけで我慢しましょ。魔銃ちゃんは?」
「くっくるゆー」
クルクスの指差した所は町の広場だった。

「伯爵の手下だ・・・」「いよいよ混沌の餌にされる・・・」
「逃げてどうなる・・・」「でも死ぬのは嫌だ〜・・・」
絶望者達の声は広場中に聞こえる。
そんななかクイと風だけが違う意味で声を発した。
「クイ〜・・・」
「伯爵・・・」

「フフフ・・・」
ヘルバの笑い声はある意味残虐的な声だった。
獲物を見つけ楽しむ声。
まさにそれだった。

クリスタルが落とされた。
風はただ黙って左足にある赤い銃を抜き一発だけ撃った。

ガラスの割れた音が空に広がる。

クリスタルの残骸は粒となり、辺りに飛び散った。
頭が花で胸には棘が付いたモンスターたちが辺りに生み出され、地面から生えてく る。

風とクイの周りには絶望者たちが寄り添っている。
四方八方花のモンスターに囲まれてしまった為に逃げ場が無い。

一発一発確実に仕留めていく風。
クイは蹴りとくちばしで一撃で倒していく。
そんななか二人は気づいた。
 何かおかしい・・・。
その表情が見えたとたん、あたりで絶望していた者たちの声が変わった。
「もうお終いだ・・・!」「助けてくれー!」

アハハハハハハハハハ・・・!!!
ヒャハハハハ!!!!!ハハハハ!ヒャハハハハ!!!!
アハハ、アハハハハ、ハハハハハ!!!

突如笑い声に変わったのだ。
「クイ!?」
風とクイはあたりの絶望者たちを見回す。

「ウフフ・・・」

絶望者たちとは違う笑い声が聞こえた。
風とクイはその声の下方向へと首を向かせる。
空から降りて来た緑の女性。
四凱将の一人、ヘルバその人だった。
「どうしてそんな、しかっめつらしてらっしゃるの?」
そんな言葉を風は無視した。
「伯爵はどこだ・・・!」
「あら、あたしじゃダメ?」
その言葉を言い放ったヘルバに風は銃を放つ。
ヘルバはそれを傘で止める。
「んもう・・・、せっかちだ事。噂の魔銃ちゃんは撃ってはくれないの?」
風は何も言わない。
「早く魔銃ちゃんを使いなさいよ。さあさあ・・・」
風が魔銃を掲げるが・・・。
動かない。

広場の騒ぎに気づいたユウとリサ、そしてチョコボは風たちの様子を見ていた。
それにヘルバが気づいた。
実はヘルバは可愛い物には目が無く自分の物にしたいクセがある。
リサを見つめる。
「あら〜、かわいこちゃん。花粉をあげちゃうわv」
回した傘からは花粉が飛び出してきた。

アイは飛行船の真下にやって来たときはリサとユウ、チョコボは花粉を吸った後だっ た。
そのために笑い声を出している。
「ユウ、リサ・・・」
「きちゃダメ〜・・・」
「この花粉を吸うと・・・可笑しいよ・・・」

風とクイが何十匹目かのモンスターを倒したときには辺りは花粉だらけだった。
その中ヘルバの声が面白そうに響く。
「いいのよ。ドンドン倒してちょうだい」
クイはあっちこっちに周りながらモンスターを倒し、風は銃で撃ち倒していく。
「貴方たちが倒せば倒すほどみんなを楽しくする花粉は飛び散る。
 どう?楽しすぎて魔銃ちゃんが撃てないのかしら?」

アイは手で花粉を払っていたがもう限界だ。
咳の声が聞こえる。
ポシェポケだ。
それに気づいたとき、アイはある事を思い出す。

 望めば現実がついて行きます。

助けたい。
「お願い、みんなを助ける力をちょうだい!」
それに反応してポシェポケの口は笑いある物を吐き出す。
「スイカの種?」
それが緑色に淡く光り、炸裂した。

そのときちょうど暗闇はある言葉を出した。
「風よ吹け、滑らかに、そして力強く・・・、エアロ!!!」
手を町の広場に掲げる。
そして。
風が巻き起こった。

淡く光る緑の光が突如起こった風に巻かれ、ヘルバの花粉を蹴散らし降り注いだ。
その光を浴びて笑い声が止んだ。
「何!?私の花粉ちゃんが〜!」
ヘルバが驚きを隠せずに怒鳴る。

そのときだ。
風の魔銃のレンズが光った。
「動いた・・・。」

「ソイル、我が力!」
魔銃から黒い風車が現れ回る。
黒き風を巻き起こし。
一度分解され、また形となる。

「ジグソーパズル?」
ヘルバが魔銃を見て疑問を放った。

黒い心臓が脈打ち、形を現す。
「魔銃、解凍。」

「撃ってみなさーい、フングスちゃんとやっつけたみたいに私を押花にして〜」
笑いながらそう言い放つ。
「でも」という言葉を付け。
「やっつけてもやっつけてもドンドン生えて来ちゃうけどね〜」

「お前に相応しいソイルは決まった!」
ヘルバを指差し言葉を放つ。
「光無き魂の叫び、ダークグリーン」
暗い緑色の弾丸を指ではじき魔銃に装填した。
「生み出す事を許さない、バージンホワイト」
二つ目は白いソイルが詰まった弾丸。これも同じように装填する。
「そして全てを凍てつかせる、アイスブルー」
最後は青のソイルの弾丸を装填する。
黒い心臓は速く脈打ちドリルは回転する。

「おじさん・・・!」

魔銃は震える。

「・・・撃て」

「光れ!召喚獣、シヴァ!」
装填されたソイルが解き放たれる。
それは途中で形を生し、氷の女性が現れた。
召喚獣シヴァは花のモンスターの中に向かい白の光が炸裂する。

遠くでその光景を見ていた暗闇は呟く。
「召喚獣シヴァはあらゆる物を凍らせる。
 凍らせた花はガラスのように脆くなり、氷と化した自らの花の重みに耐えられない・・・。」

氷と化したモンスターたちは次々と形が崩れ最後には氷の山と化した。
その中、ヘルバは青くなった体でがちがちと震えていた。
「さぶ〜い・・・。ずるっこちゃん!!こんな寒いの反則ちゃんよ〜!!!」
ヘルバは上に飛び上がりある者に目が入った。
「あら?綺麗なお姉様?」
暗闇だ。
彼女は小声で呟く。
「火よ燃えろ。熱く、そして焼き尽くす・・・、ファイア!!!」
ヘルバが炎に包まれる。
「あつ〜い!!!!こんな熱いのも!反則ちゃん〜〜〜!!!」
そしてヘルバは自らの飛行船に飛び乗り空に逃げる。

風は飛び去った飛行船を見て小さく呟く。
「伯爵・・・」
「あの〜・・・・」
アイが声をかけ、風が振り向く。
「ありがとう、みんなを助けてくれて。探している人、少しは近づいた?」
風はただ黙っている。
ユウとリサの声が聞こえた。
アイはそれに反応して、声の方向に振り向く。
風はその場を立ち去った。
続いてクイも続いた。


「・・・・・・・・」
暗闇がブドウの果実の上に座り飛行船が降り、飛び立った空を見る。
「伯爵・・・・、混沌・・・・」

遠い懐かしい光景が浮かぶ。
白い空間の中、その空間と同じ色の服と髪をもつ女性が。
左腕に弓を持ち右手で白い矢を放とうとする光景。
それと同じ様に、誰かの姿がかぶる。
 やはりあなたは目覚めるべきではなかったのだ・・・!
その顔は怒りに満ちた、悲しみに満ちた顔。

「・・・・・・・・私は」
胸を抑え、青い空を見る。
「何処に行くんだ・・・・・」
風が暗闇をすり抜ける。
黒の髪が風に舞い腰にある神鞭が少しだけ震えた。
そしてこの後、異界を震えさせる事は彼女だけが知っている。




「予言します。
 彼は最強なる敵。
   魔剣士〜しろきエチュード〜
 次回もアンリミテッドの導きを・・・。」





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