溢れる果実。
異界に住む人々。
絶望。
絶望。
絶望。
花粉をばら撒く者。
凍てついた花。

「異界の夜へ、ようこそ。
私はファーブラ。導く者。
近づいてくる、それは霧と共に」


『魔剣士〜しろきエチュード〜』


白い霧が辺りを包んでいた。
自分自身を掻き消してしまう様に、濃い霧があった。
二人の人物がその霧の中を歩いていた。
その霧と同じくらいに白い姿をしていた。
一人は腰に一振りの白の剣を持っていた。
もう一人はベルトの所などに矢を数本所持している。
二人と捜していた。
ただ捜している『者』がいた。
どちらとも同じような『者』を。
一人は眠らせるため。
一人は決着をつけるため。
理由は違ったが同じ場所にいた。
好都合だった。
だから彼らのもとに行く途中だった。
ただそれだけだった。


「仕事熱心なお二人だねぇ、鴉(レイヴン)」
黒いローブに全身を包んだ女性が霧の中を歩いていく二人を見た。
肩には黒い羽の美しい鳥。
女性の顔は見えない。
黒いローブは顔を覆い隠している。
わかるといえばその瞳の色だけだった。
血のように紅い瞳と言う事だけが分かった。
その時だ、彼女の後ろに誰かがいる。
肩に乗っている鴉は後ろの人物に気づいた。
暗闇。
それが彼女の後ろに現れた女性の名前だった。
「久しぶりだね、蒼月」

   ピー!!!
鴉が鳴いた。
そして続く羽音。
突如に暗闇は神鞭を振るったのだ。
彼女のいた場所は黒い風が吹き荒れ切り裂かれる。
「怖い事をしないでほしい。」

声が白い霧の中に響く。
霧が少しずつ薄れてきている事が分かった。
彼女たちがもうすぐ目的地に到着するあたりだろう。

「相変わらず、怖いね。蒼月。いきなり攻撃だなんて。」
その声に笑いが含まれる。
「私より、君を追い求める彼女の相手をしてあげなよ」

いつしか鴉も消えていた。
その薄い霧の中には暗闇だけが取り残されていた。

薄い霧の中からある場所を目指す。
彼女たちが歩いていった道を進む。
あいつの言うとおりにまず彼女と会おう。
あいつ、いつも自分の知らない言葉を使う。
私が持ってない心を。記憶を。
何故、私をは追い求めるのだろう。


ナーブという人物にまた出会った。
コモディーンはどうやらこの果実の町の下に基地を造っていた様だ。
「また会ったわね、貴方がこの子の飼主?」
ミィレスが風に声をかけるが、風は黙っている。
ミィレスはこういうのは一人にさせておくのが良いと思ったのだろう。
彼女はため息をついてクイに手を振りそのまま集団の中に消えた。

彼女は今どこにいるのだろう?
「クゥ〜・・・」
風にクイは言った。
風はミィレスとは違って答えた。
「すぐ来るだろう」
そんな言葉を返した。


深い霧の中、クルルとクルクスが魔剣士と神弓士の所に降りて来た。
「彼等は・・・?」
魔剣士がクルルとクルクスに問う。
「くっくるゆー」
「くっくるー・・・」
二人はある一方を指差す。
「感謝する」
神弓士は一言放った。


シドと言う青年が風の銃を見せてほしいといった。
風はあまり抵抗もせず素直に紅い銃を出す。
クイはシドの作業を見ていた。
シドの眼鏡の様な機械は風の銃を調べている。
レンズが上下に行ったりして不思議だなと、クイは思う。
そんな時にある声が聞こえた。
「風・・・」
「風車のおじさん」




カチャリとスポーンが皿のババロアを掬う。
「う〜ん、おいしいねぇ、このババロア」
「ソースが良いね。」と一言付け加え伯爵は味わいながら食す。
「『無駄な努力』と『果敢ない希望』を、裏ごしした物に、ございます」
オスカーは頭を垂れながら材料となった物を言う。
「う〜ん、また食べたいな」
どうやら気にいったのだろう。
「パティシエに伝えておきましょう」
「さてと、地下組織ねぇ〜。あのウザイ奴等でしょ」
椅子に深く腰掛けオスカーに目を向ける。
「地下組織は異界に秩序をもたらすとの事ですが」
オスカーの話の途中で伯爵のテーブルの上に虫が上がってくる。
ヘルバはグラスを持ちながら嫌気のさした様に舌を出す。
「そ〜んな所に潜り込んじゃったのね、あの魔銃ちゃんと暗闇のお姉様は」
いつのまにか暗闇の事を様付けしているが、
ヘルバのその性格は伯爵たちにはどうしようも無い事なのであえて言わない。
「ふん、ばかばかしい」と呆れた声を出す。
「秩序ってのは神が創るの。つ〜ま〜り、僕でしょ」
「頭悪いなァ」と付け加えて。
ドスン。
足音と共に現れた。
フングスだ。
「某、黒き風、暗闇の満月と地下組織どもを一網打尽にして参りましょう」
パイプと共に蒸気が上がる。
しかし。
「おっそ〜い。神弓士のお姉様と魔剣士ちゃんがもう行っちゃったわよ〜」
「そう」伯爵は付け加えて言う。
「ちっちゃくなって帰って来るんじゃあ、カッコ悪すぎ」
フングスは丸い球体の上に立っていたのだ。
「も、申し訳ありません・・・」
頭を垂れ謝る。
その姿は人形のようだ。
「ふん」
伯爵は呆れたような、怒ったようなため息をした。



リサはナーヴと話していた。
「知り合いか?彼等は何時の間にか此処にいてね」
「しかも」と付け加え。
「あの黒いチョコボは一度コモディーンに来た事がある。
 首輪等付けてはいなかったから、今は彼が飼主なのだろう」
「そうだったの・・・」とリサは声には出さなかったが思った。
「あの人。コモディーンの目的に、異界に秩序を作ることに賛同したんですか?」
「此処に来た以上はそうであって欲しいがね・・・」
「だとしたら、ちょっと嬉しい。
 何を考えているのか良く分からない人だったから・・・」
「ただ」と一言付け加える。
「誰かを捜していて・・・」
「君達と同じか」
「この銃は良いですね」と、声が届いた。
「面白いです、こんなのがうちにもあると良いですね」
シドが風の銃を持ちながらナーヴに話し掛ける。
風は黙ったままだ。
「お前にも作れるか?」
ナーヴはシドに近づく。
「やってみるですよ」
「はい、ありがとさん」と風に銃を返す。
風は黙ったまま紅い銃を左足のホルスターに入れた。
「それは何だ?」
ナーヴが風の右手の『魔銃』に気がついた。
「魔銃・・・」
「『マガン』?ちょ、ちょっと見せてもらって良いですか?」
と。シドが眼鏡のような機械で魔銃を調べる。
感心したような、驚いたような顔つきをする。
「俺の『心臓』だ」
立ち上がり言葉を出した。
『心臓』?
クイはその事を聞いた。
「どうだ?何か分かったか?」
「いや〜、ちょっと時間がかかりそうですね」
「お前にも分からん物があるのか?」
「世の中広いって事ですよ」
そんな会話の中、風は立ち去った。
クイはその後を追う。
ユウとアイもその後を追いながら言葉を出す。
「また、助けてくれたんだよね・・・」
しかし風は黙ったままある方向に歩く。
その方向には、暗闇が何時の間にかいた。
「お姉さん・・・?」
アイは声を出すが。
暗闇も黙ったまま。
そのまま通路の奥へ行ってしまった。
風とクイも追う様に通路の奥に行こうとする。
リサが風の前あたりで声をかける。
「あなたは助けたつもりは無いかもしれないけど。
 子供たちが感謝しているのは事実よ。何か言葉をかけて上げられない?」
風はその言葉で少し立ち止まっていたが。
黙って暗闇の向かった通路の奥へ行こうとする。
リサは少し呆れたため息を出し、言葉を出した。
「貴方、『生きている』のよね」
その言葉に風は振り向く。
しかし、そのまま奥へ向かった。
クイは慌てて風について行く。
風は黙ったままだ。


通路の奥から戻ってきた暗闇たちは広場の隅の方で腰掛けていた。
風は床で、暗闇は木箱に、クイは暗闇の傍にと。
クイは少しの間、風に話し掛けていた3人を見ていた。
思ったら自分の同族の様子がおかしい。
酒に酔っているようで意識がうとうとしている。
シドと言う青年がある機械を取り出す。
・・・何故頬擦りしているかは謎であるが。
その機械を同族に向けると謎の光と電撃によって同族の悲鳴が聞こえる。
クイは暗闇の影に隠れるように見た。
恐ろしい・・・。
しかしそのあとに同族の様子が元に戻った事は付け足しておく。


霧の中、二つの足音が響いた。
巨大な花のつぼみの前に二人は足を止めた。
そこにクルルとクルクスが降りてくる。
「くっくるゆー」
「くっくるー」
「感謝する。此処からは私たちだけで良い。」
神弓士はそう答えた。
魔剣士が傍に落ちていた木の棒を拾う。
そして、マスクが開く。
目を閉じ、呼吸をする。
神弓士は少し離れ、クルルたちは空へと上がる。
木の棒を上に振り上げ、そして降ろす。
それと共に白い光が巨大な花のつぼみを砕いた。
爆発と。轟音が響く。

それはその地下にあるコモディーンにまで届いた。
風と暗闇は上の方を向いて感じた。
彼等が来たと言う事を。
クイも感じていた。
巨大な力を持った者たちが来ると言う事を。
その時だ。
イザナミが少し鳴った。
地下鉄の時間を表している。
「クイ〜」
どうするかと暗闇に聞く。
「此処で待つ」
その一言を言われ、クイは従った。
「クイ」

衝撃が走る。
ミィレスの声が響いた。
「ナーヴ!敵だ!下りて来るぞ!」
「何!?」
敵が来た事によって緊張がコモディーンに広がる。
暗闇が立ち上がり、人込みの中に消える。
風は黙っていた。
クイはその場で待った。
追っても暗闇の邪魔になると思ったから。

リサ達が通ってきた通路が破壊された。
突如、白い光に貫かれて。
破壊された通路から来るのだろうと入り口で守備を固める。
リサが風とクイに顔を向ける。
その時だ。
風が声を出した。
「真上だ」
「え?」
リサの表情が出たとたん。
天井が破壊された。
煙と瓦礫が降ってくる。
子供たちの悲鳴が聞こえた。
「アイ!ユウ!!」
リサは子供たちの場所へ向かおうとするが煙がそれを阻止した。

「アイ・・・?ユウ・・・?」
子供たちの名前を呼び、叫ぶ。
その時、白い霧の中に黒い影が浮かぶ。
風と、クイだ。
リサは風たちの向いている方向を見る。
「・・・あっ!?」
リサは見る。
『あの時』見た2体のモンスターを。
「あれは・・・!?」
一体は白い一刀獣。
そして、白い光と翼に金の文字を背負った竜を。
今でも覚えている。
四体のモンスターが戦い、そして一体を残して光と闇に飲み込まれたことを。
霧が少しだけ薄まる。
そこには二人の人物が立っていた。
一人は白い一振りの剣を腰の提げた青年。
もう一人は左手に金の腕輪をした女性。
どちらとも白い服装で、顔の形がどこともなく似ている感じがする。
姉弟?
リサはそう思った。

風と、白い青年が向き合う。
風の眼が少しだけ細め、足の銃を抜こうとする。

その瞬間。
コモディーンの攻撃が始まった。
攻撃は二人に向かう。

魔剣士が小枝を振った。
音が響いた途端。

周囲の大地に衝撃が走り、辺りのコモディーンの人々を吹き飛ばした。
瓦礫と煙があたりに広がる。
ナーヴがガトリング砲を放つ。
彼等の周囲に煙が舞う。
ナーヴが軽く笑った。
倒したのだと思ったのだろう。

神弓士がベルトから抜き出した矢がナーヴに向かって、中指と人差し指の間から放た れた。
それは光の衝撃を連れてナーヴに放たれた。
リサがアイとユウをかばう。
「アイ、ユウ、しっかりして!」
声をかけるが返事はない。
気絶しているのだ。
「お前たちも・・・、どこかの世界から流れ込んで来たのではないのか!?」
ナーヴの声に、神弓士が答えた。
「伯爵は・・・、お前たちのかなう相手ではない。」

風が紅い銃を乱射した。
魔剣士は反射的に小枝を振り、防御した。

風は思い出す。
あの、自らが世界の終末の日を。

崩れる螺旋。
闇に飲み込まれる。

眼を見開いてあの時の光景が浮かぶ。

崩れる大地。
迫り狂う闇の衝撃。

あの時の光景を。

彼女の涙の顔。
姉が天に向かい咆える姿。
赤く染まる爆炎。


銃をかざし、言葉をぶつける。
「お前を・・・、捜していた」
魔剣士は言葉を重く放つ。
「君は・・・何故・・・」
腰に提げていた『魔剣』が外され、空中を回転しながら。
魔剣士の後ろに佇んだ。
「目覚めてしまったんだい・・・?」
目を大きく見開き、銃を乱射する。
しかし放った弾丸は魔剣によって全て弾き返されてしまう。
弾き返された弾丸はコモディーン内を破壊した。
「ダメよ、撃たないで!!!」
リサの声が響く。
「この人たちの・・・、コモディーンの理想を巻き添えにしないで!!」

しかし風は銃を撃つのを止めない。
代わりに声を出した。
それは非道の言葉。
「理想など知らぬ。こいつとの決着をつける為なら・・・。」
風の瞳はすでに魔剣士以外を通していない。
「世界がどうなろうと・・・!どれほどの血が流れようと・・・!」
それは追い求める復讐者の眼。
「構わん!!」
ああ、それはまさに修羅の眼。
「それでも・・・!」
瓦礫が降り注ぎ、破壊の時間が続く。
「『人間』なの!?」

轟く轟音、崩れる広場。
逃げ惑う者たち。
その時、ユウはかすれた声を出した。
「か・・・ぜ・・・。」
「・・・っ!?」

「ソイル!我が力!!」
魔銃は反応した。
が、それだけだった。
動く事はしなかった。
「・・・!?」
驚きと、怒りの表情が風に表れた。
風が吹く。

魔剣士のマントが大きく翻った。
「相変わらず素敵だね・・・、黒き風よ。」
腰にあるベルトから小ビンを取り出す。
「ミストが奏でるあやかしの唄に抱かれて・・・。」
小ビンを放り投げる。
「眠るが良い・・・!」
それは魔剣士の頭上で割れ、白い光が生み出される。
「白銀の練習曲(エチュード)!」
白の光から現れる、一刀獣。
それは白き刃となり、風に向かう。

貫かれる。
はずだった・・・!

バンッ!!!

風は魔剣士の攻撃を受ける直前。
横に跳んだ。
否。
横から何かが風を弾き飛ばしたのである。
それは黒い鞭。

風はそのまま横に飛ばされ、気絶した。
よほどの衝撃だったのだろう。
クイはすぐさま風に駆け寄る。

「お前は・・・!」
神弓士が重く、声を出す。

リサは、声が出せなかった。
彼女が、とてつもなく、巨大だった。
とてつもなく、恐ろしかったから。

彼女はただ見つめていた。
その蒼の瞳は一人の女性に向けられていた。

暗闇は、そこにいた。

それを遥か頭上で見ている紅き瞳の女性はただ笑っていた。
肩に乗る黒き鳥はそれを見て鳴いた。
これから始まる激闘を告げる鐘の様に。



ファイナルファンタジー:アンリミテッド
「予言します。
 二人の乙女は激突する。遥かな思いを胸に乗せ。
 願いは何?貴女達の。
    神弓士〜きんのノクターン
 次回もアンリミテッドの導きを・・・。」





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