鴉(レイヴン)が鳴いた。
黒を纏った紅き瞳の女性は、下に起こる激闘を第三者の目で見ていた。
「どう出るの、君は?二人同時?それとも・・・。」

魔剣士は今一度ミストの子ビンに手を伸ばそうとする。
しかし。
それを見逃す暗闇ではない。
次の瞬間、魔剣士が大きく後ろに飛ばされた。
「がっ・・・!?」
黒き神鞭が魔剣士を一気に弾き飛ばしたのだ。
鈍い打撃音。
魔剣士が叩き付けられた壁にはひびが入っていた。
それほどの衝撃を受けた魔剣士はその場で膝をついた。
いや本来なら骨の3、4本は折れるほどの衝撃を受けた。
いきなりの衝撃と痛みで失神するのが普通なのだが、
魔剣士はギリギリの状況で意識を保ったのである。
が。
すでに動ける状況ではない。
「グ・・・、ゲホ・・・!」
口元を手で抑える。
赤い血が胃の中の異物もろとも出てきそうになるところを必死に抑える。
神鞭はただ魔剣士を叩き飛ばしただけではない。
鞭の先を超硬度の球体にし、それを超高速で魔剣士の腹部と胸部に
『何十回も』打ちつけたのである。
一瞬のうちにそこまでの『連続』攻撃を受けた魔剣士はただではすまされない。

「なんて速さ・・・、『人』を超えている・・・?」
リサは魔剣士に起こった事を瞬時とはいかなかったが、
神鞭が魔剣士に攻撃した『方法』は見えた。
本来あのような事は不可能である。
しかも鞭が『形と硬度を変える』こと自体可能すら謎である。
一瞬だけリサの思考にあることが浮かんだ。
しかし、それはすぐにリサの中で葬られた。
(そんなこと・・・、あり得ない)

その間にも、神弓士と暗闇は睨みあっていた。
「魔剣士、後は私がやる。お前はそこにいろ」
神弓士は怒りの表情を顔に少しだけ現していた。
しかし、辺りにはもの凄い殺気として感じさせていた。

暗闇は風のいる場所を見た。
クイが近くにいる。
その光景を見て、少しだけ思った。

お前は、あの事を思い出したのだね・・・。

激闘が、始まる。


願いを望む者。
決着を望む者。
その思いは様々。
今此処に、戦いが始まろうとしている。

「異界の夜に、ようこそ。
 私はファーブラ、「導く者」。
 私の友人。彼女の望み。彼女の役割。
 彼女は追い求める者。

 そして、彼女を追い求める者。
 彼女に与えられた屈辱を打ち捨てる為に。
 彼女は・・・」


『神弓士〜きんのノクターン〜』


「何故・・・、目覚めたのだ・・・」
神弓士は重い口調で話す。
暗闇はただ見つめているだけ。
「何故・・・、此処にいるのだ・・・」
その口調からは重いプレッシャーが感じられる。
一瞬だけ、リサは彼女の口調がプレッシャーをかけているだけではないと感じた。
どこか、哀しげな氣を感じたのだ。
暗闇の目はその闇にも近い黒髪に隠されている。
「・・・・・・・・・」
神弓士の瞳はゆっくりと閉ざされる。
「やはり・・・、貴方は・・・」
眼が完全に閉ざされた時、リサは恐怖を感じた。
何かはわからなかったが。
そう、上から感じた狂気(狂喜)を感じた。
誰もが、彼女たちの会話に気付いていなかったが。
リサだけが、その狂喜(狂気)を感じた。

「目覚めてはならなかった・・・!」
全てを止まらせるように、瞳を開いた。
竜眼。
神弓士の瞳は、竜眼だった。
その言葉は空間を響いて、その場にいたものを全て止まらせる言葉だった。
圧倒的なプレッシャーが襲う。

その高く上にいた黒のマントを纏った紅い瞳の女性は全てを見透かした様に鴉に言っ た。
「・・・・わざとか」
そう、呆れた風に言った。
  ピー
それに答えるように鴉が鳴いた。

次の瞬間。
激闘が始まった。

最初に動いたのは神弓士だった。
後ろの腰から「矢」を取り出した。
それを一気に暗闇に投げつける。
白い光が空を切る。
暗闇に直撃する、一瞬にして。
次に暗闇が動いた。
神弓士が放った「矢」から避けるつもりなのだろう。
が、遅すぎる。
すでに「矢」は彼女の胸部に直撃するほどまで近づいていた。
貫かれる。
誰もがそう思ったが。
  破砕音。
神弓士が放った「矢」は直撃する前に砕けた。
神鞭が「撃墜」したのである。
先ほどまで魔剣士を叩き飛ばした神鞭はまた形を変えていた。
直角的に曲がりながら神弓士が放った「矢」に追いつき、
先端を槍の様に尖らせ「矢」を討ったのである。
そして、起こるのは白の光の爆発。
  轟音。
誰もがその閃光によって目を閉ざす。

目を開いた時は、彼女たちはお互いに向き合って攻撃態勢に入っていた。
暗闇は膝を着いていたが、神鞭を片手に持っていた。
神鞭は鋭い直角な曲がりが緩やかな曲線の曲がり方になっていたが、
その先端は三本に別れてその先端には槍の様に鋭く神弓士に向けられていた。
神弓士は両手の指の隙間に三本ずつ「矢」を持っていた。
神弓士はその瞳で暗闇を見ていた。
翠の竜眼が暗闇を映していた。

「貴方にはまったく驚かせてくれる」
神弓士が口を開いた。
「他の者は遠くに離れていた為に無事だが、貴方は至近距離であの閃光を直視した。
 普通なら一生盲目だよ。だけど貴方はあの閃光の中、目も見えずに私に反撃したのだ から。」
リサはその事を聞いて驚く。
あの光の中普通直視などできないはずだ。
しかも、その中で神弓士に反撃をする。
恐ろしいほど戦闘に長けている。
たとえ一生盲目を避けられても、まだ目は見えないはずだ。
それなのに彼女は戦闘を放棄しなかった。
どの様にして彼女を攻撃したのだろう。
「私も反射的に反撃したが、全て避けられた。恐ろしい反射速度だ」
リサは、驚愕しまた、彼女を見た。
神弓士の言葉が真実なら、彼女は目も見えずに神弓士に反撃し、
そして、あの神弓士の「矢」を全て避けたと言う事だ。
あの超高速の「矢」を避ける等と人ができるはずない。
ましてや視覚が使えない状況でどの様にして避けると言うのだろうか?
音を使った?
いや、不可能だ。
この瓦礫と地鳴りが響く空間では聴覚と言うものは頼りにはならない。
では気(氣)の流れを読んだの?
いや、それもあり得ない。
こんな乱れた気(氣)の中でどうやってあの神弓士の気(氣)を手繰るのだろう。
どうやって・・・?
こんな不可能な事ができるの?

   ピー
鴉が彼女に問う。
彼女はその問いに答える。
「ああ、鴉はちょっと分からなかったね。
 要するにあいつは今の時点では聴覚、視覚等の感覚、
 全てがこの乱れた空間では使い物にならないのは分かるね。
 それで何故あの子の「矢」を全てが避けられたわけはね。
 簡単に言えば「勘」だよ。」
勘。
その一言で彼女は答えた。
不思議そうに、首を傾げる。
「そう、「勘」。あいつは今あの子の攻撃全て「勘」に任せて闘っているのだよ。
 先ほど言っただろう?あいつはわざと闘うと。」

彼女が言った事は本来人間が成せる業ではない。
直感のみ超高速で迫る「矢」を誰が「勘」で避けられるだろか?
もし本当なら彼女はただ幸運が続いたのか、
それとも、本当に「勘」のみで動いているかである。
   ピァー
「本気で闘うなどとしたら彼女と彼女の弟はすでに死んでいるよ。
 それに、あいつから言えば彼女を試しているのだろう?
 私たちの願いを叶えられるかどうかと。」
少しだけ、その紅い瞳以外見えない顔が、ほんの一瞬だけ、そう。
ほんの一瞬だけ悲(哀)しみを表した感じだった。
が、それはまた、喜びを表した様に感じた。

そして、二人の激闘はひとときの終幕を閉じる。


「これで終わりにすろ・・・。」
神弓士の顔は哀しみに満ちた表情だった。
ほんの一瞬の哀しみ。
そして、すぐさまその顔には怒りが表れる。
神弓士の腕輪の青の宝石が淡く輝いた。
そして、腕輪が形を変える。

それは白金の弓。
しかし、それには大事な部分がない欠落した弓。
弓の弦が無いのだ。
弦が無くては「矢」は撃てない。
リサは思う。

何をするの?

彼女は腰にある小瓶を取り出す。
その小瓶は魔剣士の持つミストの小瓶より小さい。
そう。
まるで香水を入れておく様な瓶だ。
「ミストの奏でる静かな音色と色彩の調和に抱かれて・・・。」
その小瓶の栓を外す。
その白くたおやかな指で。
そして、次の瞬間。
ミストが溢れた。
そして、神弓士の弓に変化は起きた。
ミストが神弓士の弓に、神弓に集まってきた。
そして、ミストは形を成す。
光り輝く弦。
これが神弓の弦。
そして神弓士は「矢」を持ち、放とうとする。
ミストの弦を引き絞る。
霧の弦に変化がおきる。
弦が「矢」に纏わり付く。
そして、「矢」は光り輝く。
黄金の光。
「眠るがいい・・・!金色の夜想曲(ノクターン)!!!」
矢が放たれた。



暗闇はある言葉を呟いていた。
ただ、誰にも分からないほどの小さな声で。

  暗き海に眠る獣。
  闇の中に目覚め待ちし竜。
  蒼きその瞳は全てのものを凍てつかせ、貫く力。
  今、此処に、その力の欠片に宿らせよ。
  如何なるものも貫き、如何なるものも凍てつかせる、
  その力・・・

リサは感じた。
圧倒的なその力が暗闇に集まっている事を。

これほどの恐怖が、凍てつくほどの恐怖が、ここにあるの?

そして、その次の瞬間。
神弓士から矢は放たれた。

  今、此処に、我は、答える。
  彼の次元から、彼の次元へと。
  そして、我が刻む、この次元、この空間、この大地へと。
  今、此処に今来たれ、早く(速く)来たれ。
  この次元、この空間、この大地へと・・・

神鞭が闇を纏った。
鋭く、凍てつかせるほどの恐怖を纏い。
彼女は立ち上がった。
そして、神鞭は金色の光に向かった。


闇と、光が激突した。
巨大な衝撃が生まれる。
その衝撃でコモディーンの壁や床に、亀裂が走る。
とてつもない亀裂が。

魔剣士は。
リサは。
コモディーンの人々は。
クイは。
そして、風は。
その激闘を見た。

風はかすれた声を出した。

「かつての・・・、戦い・・・。」

光と闇が激突する。
その光と闇は世界を揺るがす。
そう、そして世界は砕けていった。

「我が世界、終末の時。」

彼女は、あの時。
泣いていた。


光の方が優勢だった。
闇は徐々に。弱くなっている。
そして、闇は光に消える。
誰もが次の瞬間。光は暗闇に向かうと思っていた。
そして、予想の通りに光は暗闇に向かった。
が、それだけではなかった。
バシュン・・・!
光が暗闇を貫いた。
そして、闇が、神弓士の肩に突き刺さった。
『・・・!?』
神鞭は二つに別れていた。
闇を纏っていた神鞭は二つ別れていたのだ。
そのまま闇を纏うもう片方の神鞭は閃光の肩を貫き、 そしてすぐさま消滅した。
虚空へと消えたのである。

リサは、暗闇を見た。
暗闇はそのまま風とクイの方へと飛ばされた。
リサは驚愕する。
何故ならば。
彼女は笑っていたのだから。
口元だけだが、彼女は笑っていた。
満足するように。

次の瞬間。
風たちの地面から高密度のミストが噴出した。
そして、地面に亀裂がみるみると多くなり。
その亀裂にそって霧が噴出する。
風たちはその霧に呑まれ、霧と瓦礫の中に消えた。


「姉様・・・!」
神弓士を支える魔剣士。
身体中が悲鳴を上げているが、
それを何とか耐える。
やっと立てるぐらいが今の二人の状況だった。
神弓士の肩から赤い血が流れ落ちている。
肩から、手へと。胸へと。
そして、その地面へと。
「また・・・」
神弓士から言葉が漏れる。
「また、・・・・・・」

また、勝ち逃げか。

その言葉と共に、二人は霧の中に消える。


後に残るのは。
満ち溢れるミスト。
瓦礫の山。
空間に響く衝撃。


それを一部始終見ていた存在。

「そろそろ、行くか」
   ぴー

残るものは。
破壊の残骸のみ・・・・。


ファイナルファンタジー:アンリミテッド
「予言します。
 捻れ壊れた空間、それは何処にでもあり、何処にも無い空間。
  美しき拳闘士は、迷い人たちを狙う・・・。
 次回、猫(キャッツ)〜うつくしきほうせきつかい〜
 次回もアンリミテッドな導きを・・・」





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