何時からだろう・・・。
この何も無い空間に自分が存在したのは。
白。
ただ真っ白な空間に、私が存在する事がわかった。
いや。
もしかしたら本当は何も無いのかもしれない。
私の見ている部分は本当は何も無いのかもしれない。


私はその場所は天国かと思った。
だが違う。
私はまだ死んでいない。
だから此処が天国であろうと私は此処から出て行く。
まだアイツと決着はついていない。


私に初めての敗北を与えた存在。
私に始めて屈辱を味あわせた存在。


手に力がこもる。
真っ白な空間の中、私だけが異質だと思った。


「何をしている?」

目の前に現れた存在。


マントで体全体を覆い隠している女性がいた。
全体の纏っているマントはこの白の空間には合わない色だった。
漆黒のマント。
いや、漆黒に近い。
違う。
その黒は、「闇」。
黒のマントは一定の色をしていない。
黒、黒灰色、さまざまな「黒」の色が不手際に混じったマント。
そして、一定の場所にとどまってはいなかった。
微妙に色の位置や形が姿を変えていっている。
まるで生きているかのように。

良く見ると彼女の肩には黒い鳥がいた。
赤い瞳に純粋な漆黒。
頭の羽の一つが羽冠の様で見事と言いたいくらいだ。

「なぜ此処にいるのだ?まだ君と私たちの遊びは終っていないぞ」

遊び?

「ああ、そうか。
 意識の混乱だね。
 まったく、アイツもいい加減に諦めろと言っておいたのに。
 君との遊びは色々と私は楽しいからな。
 しかしアイツが二つに分けてしまうなんて私は思わなかったよ」

何の事だ。

「どうやら私を覚えていないようだね。
 まあ仕方ないか、君はあの後私たちがどうなったか知らないからね」

あの後?

「まあ良いか、最初に戻るけどどうして此処にいる?
 此処は私とアイツだけの空間なんだが」

彼女の言葉に私は引っ掛かるところがあった。
それもいくつと。

「しかし驚いたよ。
 君がこの空間にいるなんて思いもしなかった。
 一瞬なんだと思ってしまったよ。
 何しろ私の視覚からでは君はこんなふうに見える」

一瞬にして白が黒に、光が闇に変わる。
そこには誰かがいた。
白い服を着た女性だ。
腹部からは赤い血が流れ出てきている。
その黒の空間には合わず彼女の周囲は白と赤が混じっていた。

あれは私だ。

「この空間は私とアイツの空間。だからアイツと私以外が入っちゃダメだよ」

「アイツの空間を汚しちゃうなんて、
 ホントはこのまま君の腹部から君の内臓とかを引きずり出す気分だったよ」

「でも、やめとくね。
 君は私よりアイツに傷つけられたものの方が後々と面白くなりそうだからね」

「たかが一回ぐらいの敗北でそんなに悔しがるなんて哀れみにも程があるよ。
 私ならそんな存在をいたぶっていたぶって最後は惨めに殺してあげるよ」

「至って君は私とアイツのお気に入りだから今は殺さない」

「だからあまり壊れるなよ」

「私は面白く壊したいからね・・・」

「だから」

  壊れるな

そのとき初めて彼女の顔を見る。
白い肌、黒い髪、そして血の様な紅の瞳。
アイツとは、反対の色の瞳。
私の追い求めるアイツは。
澄み渡った蒼の瞳。

「まだ分からない?」

そして彼女は黒の空間と共に消えた。
また白の空間に視覚が戻る。
そして残されるのは私一人。

眠い・・・。

重い・・・。

喉からの痛みがすでに無くなってきている。
体中の感覚はすでに消えている。
ただ痛みだけがそのまま残っていた感じだった。
だがそれも消えていく。


消えていく、この空間から、私と共に。


「そろそろ起きろ、待っている者がいる」



目を開いた。
そこには声が響く。

「イヤ〜ン、フングスちゃんウザイ〜」
「黙れヘルバ!!」

ゆっくりと首を下に向ける。
四凱将たちと、雲の姿が見える。

夢・・・?

しかしそれは現実の事。
私はあの空間である人物と会った。
それは懐かしい、惨酷な存在。

気が付くと全身が汗で濡れている事が分かる。

それほどの悪夢。
私はどれほどと彼女とその彼女の言うアイツと言う事が思いつかなかった。
覚えが無かった。
いや、夢で見る事ははっきりと分かっている。
だがその人物の顔などが思い出せない。
黒く覆い隠されているのだ。

思ったらあの空間にはぽっかりと黒い月が浮かんでいた。
まるで昼と夜が反対になり、白の夜に黒い月が浮かび、
黒の昼に白い太陽が浮かんでいた。
そう感じていた。

 夢の中の私はどれほど存在と言うものが小さく、弱かった事が分かった。
 それほど彼女の存在が大きかった。

 あいつは今どこにいるのだろう・・・。



遥か遠い異界の一端。
そこに彼女はいた。
黒いマントで全てを覆い隠した彼女はオメガと立ち向かっていた。
破壊衝動の塊であるオメガは異界の一端を破壊しながら彼女に近づいていった。

彼女の肩にいる黒い鳥は一声鳴いた。
そして、オメガの動きは止まった。

何故かは分からなかった。
だが黒の鳥の一声でオメガは止まったのだ。

そして彼女は笑う。
右手に鞭を持ち腕を振った。
オメガは一瞬で虚空に消えた。

荒野の真ん中。
オメガの後にクリスタルは残っていた。

彼女はそれに近寄り、それを摘み上げる。
そしてそれを口に寄せる。

パキン

彼女の口の中でクリスタルは砕けた。

それを飲み込む。

そして彼女は何も無かったかのようにその場から立ち去る。
何事も無かったように。

雲の隙間から閃光(光)(ひかり)が漏れる。

その光景を見てある言葉をつむぐ。

Vieni,o mio diletoo.

「おいで、愛しい人よ。
 私たちはこの異界で貴女を持つ。
 私は此処で貴女を待つ。」

黒の鳥は彼女の肩で一声鳴く。

「だから追っておいで私たちの後を。」

もしその時貴女と会ったら。


今度は惨めに虐めてあげる。
今度は惨めに殺してあげる。

だからそれまで壊れるな。




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