「そう言えば、もうバリルと会って数百年は経つな・・・」 公爵がポツリと呟いた。 そのことに側に立っていたバリルと霧が公爵に顔を向ける。 「そう言えば、そうだな・・・」 顎に手を持ってきて懐かしむ。 霧は首をかしげ、バリルを見つめる。 そのことに、バリルが気づき、目を向ける。 「俺は道化師と同じほど公爵と付き合いが長いことは知っているな」 バリルの言葉に、霧は無言で頷く。 「それで、俺は数百年前まであるじいさんの弟子だったんだ」 バリルは道化師と同等、それ以上の腕を持つ人形遣い。 他にも魔法なども行使し、かなりの使い手である。 「ある理由で公爵と出会って、そのまま万魔殿、しかも公爵直属の存在として置かれた訳だ」 公爵も腕を組んで、頷いている。 「いや〜何か久しぶりに思い出しちゃってさぁ・・・」 「なんで、そんな昔のことを思い出したんだ?」 バリルが霧を肩に乗せ、今度は公爵に目を向ける。 「いやね、これを食べてて思い出したんだ」 公爵の目の前には鍋があり、その中に肉や野菜が煮込まれている。 バリルはそれを見て、少しの間考え・・・、 「・・・・・・・・・ああ!」 ポンッと手を叩き、声を上げた。 「どうした?」 霧はバリルの行動に首を傾げ、聞いた。 「「蘊蓄」(うんちく)か・・・」 「蘊蓄?」 聞いたことの無い言葉に、霧は少し首を傾げるが、 知識の伝承者、左腕に住む蠍座がそれを教えてくれた。 (蘊蓄とは、物を十分にたくわえる事、知識を深く積み貯えてあること。また、その知識の事を指す) 頭の中で蠍座が言いたいことだけを言って、眠る。 「・・・その蘊蓄がどうかしたのですか?」 霧は公爵に問い掛ける。 「いやね、蘊蓄というものは普通、此処に貯まる物なんだ」 指で頭を軽く叩く。 つまり、脳に貯まるという事だ。 「俺と公爵は俺の師であるじいさんの蘊蓄を」 食べたんだ 「・・・・えっ?」 「美味しかったよね、蘊蓄」 「ああ、塩辛かったが、そこが美味かった」 バリルの師匠さんは有名な魔法使いだった。 その脳には様々な知識が貯えられており、世界の秘法さえも知っているという噂さえあった。 そのひとつが、「食べる」という力だ。 それは食べるということによって、食べたものの力、 知識を自分のものにしてしまうものである。 そこで公爵が「一番蘊蓄を貯えている所って何処ですか?」と聞いた。 バリルの師匠は「そりゃ決まっているだろうが」と話し、頭を軽く指で叩いたのである。 「考え付いたことはすぐさま実行」ということ二人は理由にして、 バリルの師匠さんは公爵とバリルに食べられてしまいましたとさ。 「というわけなんだよ」 公爵が鍋の中にある肉を口に運ぶ。 霧は少し固まっていた。 そりゃあ、いきなりこんな話を語られたら固まってしまう。 「他にも色々と食べたよねぇ」 「特に美味かったのがブルードラゴンの肉」 「また食べたいねぇ」 何時からか話が変わり、食事のメニューの話になっている。 「もし、機会があったら一緒に食べてみるかい?」 霧に公爵はそんなことを言った。 霧はそのとき、賛同したいような気分になったらしい。 END・・・・? |