異界の海へようこそ・・・
私はファーブラ、導く者。
砂漠の小さな病院で出会った、命の灯火が消えかけている少年。
漆黒の影よ、貴方の力で・・・その子の夢の・・・


『実現〜しっこくのてんし〜』


漆黒の影と、純白の雪。
二人は乾いた砂漠を歩いていた。
彼らはとある剣を探していた。

その剣の名は『ラグナロク』
昔、神々を滅ぼした戦争と同じ名の剣。
その名の通りその剣は恐ろしい威力を秘めていて、まさに『神殺し』の剣だった。

なぜそんな物を探しているのか?
それは『壊す』ためだ。
彼らの世界は混沌ではなくその剣に心を奪われた愚かな人間に滅ぼされた。
そして彼らは心臓を貫かれ命を落とし、魔銃、魔剣の邪念となった。
陰陽師アベノ(何者かは不明)の力によって
命を得た(というか宿主の生命力を半分ほどパクった)
彼らは、二度とこんな悲劇が起こらないようにと、
異界の何処かに眠るラグナロクを壊すのだ。

「うぐ・・・」
砂漠を歩いていると、雪がその場にうずくまる。
それに気付いた影が、後ろに振り向く。
「だ、大丈夫です・・・」
雪は砂に突き刺した魔刀にしがみ付き、必死で立とうとしたが、
水分不足で弱った体は、彼女の思う通りにはならない。
「無理をするな・・・・」
影は雪に肩を貸す。
平気そうな顔をしているが、砂漠の暑さで疲れているに違いない。
「すいません・・・」
やっと起き上がれた雪は申し訳なさそうに謝る。
起き上がれたと言っても、足はガクガク震えているが。
「地図によると、町はすぐそこらしい。
 着いたら病院でゆっくり休むが良い。それまで辛抱するのだ・・・」
「はい・・・」
二人は広大な砂漠を歩いて行った・・・


30分後

二人は巨大なオアシスのある、小さな町に着いていた。
そこの病院のベッドで雪を休ませ、影はそこの院長と話をしていた。
「お連れの方はもう大丈夫ですよ、一晩休めば元気になります。」
人良さそうな白衣の老婆の院長は椅子に座り、にっこりと笑う。
「そうか、感謝する・・・様子を見てきても良かろうか?」
影は座っていた椅子から立ち上がる。
「いいですよ。・・・フフ、仲が良いですね、もしかして恋人ですか?」
院長は口元を手のひらで隠してまた笑う。別に悪気は無いようだ。
「そ、そんなものではない!!た、ただの相棒だ・・・」
影は顔を紅く染め、首を振り老婆の言葉を否定する。
まだ子供なので風のように感情を完璧に殺す事は出来ないようだ。
恥ずかしかったのか足早に影は雪の休んでいる部屋に向かった。
「フフ、可愛らしい事。」

「入るぞ。」
そう言ってから影はドアを開ける。
すると、眠っていると思っていた雪は着替えて魔刀を磨いていた。
「雪、寝ていなくても良いのか?」
心配そうに(でも無表情)影は雪に尋ねる。
「はい、もう大丈夫です。しかし・・・」
そう言うと雪は左側の壁を見る。
「しかし?」
影は言葉の続きを聞く。
「隣の部屋から、声が聞こえるんです。
 『雪が見たい・・・空に舞う白い粉雪を・・・』と言う少年の声が。」
雪は磨いていた魔刀を腰に直して立ち上がった。
「・・・・院長に尋ねて見ようか。」

「そうですか・・・あの子はまだそんな事を。」
院長は傷ついたような笑顔で笑う。
「隣にはですね、マルスと言う十歳の少年が入院しています。
 生まれ付き体が弱い子で、二年前、重い病でとうとう歩けなくなってしまったのです。
 その時私が読んであげた絵本の中で、雪が出てきたんです。
 マルスは砂漠で生まれましたから、1度も雪を見た事がないんです。
 だからあの子はこの町を出て雪を見ると言う夢を持ったんです。」
すると院長は、目から涙をこぼす。
「・・・どうなされたんですか?」
雪は手に持つハンカチを院長に渡す。
涙を拭った院長は、話を続ける。
「・・・・もう、その夢は叶いません。
 食物も口に出来なくなった彼は・・・
 今日中、長くても明日までの命なのです。」
院長はハンカチで再びこぼれる涙を拭く。
影は静かにマルスの部屋に向かった・・・

「マルスと言うのは、汝か。」
木製のドアを開け、影が入ってくる。
白いスーツのベッドには、痩せた青髪の少年がいた。
少年は驚き、影の方に顔を向ける。
「そうだけど、お兄ちゃんは?」
影はマルスの横に座る。
「我は漆黒の影、影と呼んでもらっても構わん。」
窓に影は目を向ける。白いカーテンで閉ざされ、外が見えない。
「汝は何故、雪が見たいのだ?」
マルスをベッドに寝かせて、影は聞いた。
「ん、院長さんに聞いたんだね・・・
 あのね、前絵本を読んでもらった時、その本に雪がでてきたんだ。」
嬉しそうに説明するマルスの言葉に、影は無言でうなずく。
「その雪がとっても綺麗だったんだ。
 まるで、『天使』のようで・・・だから本当の雪をこの目で見たかった・・・・
 でも、僕はもうすぐ死んじゃうんだ。
 部屋の外でお父さんとお母さんが院長さんと話していたのが聞こえたから。」
マルスはそんな話をしていても、にこにこと笑っていた。
影は目を疑った。
どこの世界に、死ぬと言われて笑っていられる子供がいるのだろうか?
『死ぬ』と言う事が、分かっていないのではない。
彼は覚悟を決めて、笑っているのだ。
「今日の七時、院長にカーテンと開けるように頼め。
 理由は秘密だ。いいか、絶対忘れるんじゃない。」
そう言い残し、影は部屋を出ていった。
「・・・・窓?」

六時

「ソイルはこんな事に、使う物では無いのだがな・・・」
マイナス10℃にもなる外で、影が青いソイルを取り出す。
砂漠の夜は気温の差が激しい。
すでに解凍されていた魔シン銃の中に、その青いソイルを詰め込む。
夜の暗い空を、雪がシャインの魔法で闇を完全に消さない程度に照らし出す。
「影は、優しいですね。」
雪が影の方に目を向けて言う。
「今回だけだ。勘違いするでない。」
影は空に魔シン銃を向けた。
「光れ、召喚獣・・・・・シヴァ!!」

七時

マルスは約束通りカーテンを開けてもらい、ひたすら外を見る。
院長も何が何だか分からず、外を見る。すると・・・

照らし出された空から、何かが降って来る。
白い何かが。

「雪だ・・・!!!」

そう、それは雪だった。
砂漠には絶対降らないはずの、白い天使。
召喚獣シヴァが奇跡を起こした。
シャインの光がその天使を、一層美しくする。

「凄い・・・本当に見れるなんて・・・!!」
マルスは雪に見惚れ、目を輝かす。
院長は驚き、言葉を失ってしまった。
「影も見てるかな・・・・?」

雪はじょじょに数が減り、そして消えてしまった。
しかしマルスには、十分すぎるほどだった。
「これであの少年も・・・・安らかに・・・・眠れるであろう・・・」
雪は影の目から涙が流れるのを、見て見ぬふりをした。


次の日

影と雪は町を出る時、院長からマルスの死を聞いた。
院長は悲しい涙だけではない涙を流して言った。
マルスは夢が叶って本当に良かったと、最後に言ったのだという。
「マルスというのはおある外界では最強の軍神。
 再びこの世に生まれ変わるのであれば、強く生まれて欲しいものだ。」
影はそう呟いて、砂漠の町に別れを告げた。


予言します。
その時異界のある雪国で生まれた、少年の命。
かれは数十年後、異界でも最強と言われる剣士となります。
ああ、その剣士の名は・・・

マルス




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