霧の晴れない山脈。

視界は悪く、3m先ぐらいはもう何も見えない。
横は崖で、足を踏み外せば地上へ真っ逆さまだ。
そんな危ない所で、一人の少女が座って、ため息をついていた。

「にいさま、どこにもいないの〜・・・」


『遭遇(であい)〜くろとしろのしょうじょ〜』


「たまには、お山でハイキングも素敵ですね♪」
雪と影が、ちょうど先ほどの山脈の道を歩いていた。
山の下のほうなので霧も薄いが、あまりハイキングには似つかわしくない山である。
寧ろ、ロッククライミングのほうが相応しい。
「・・・・そうだろうか?」
「そうですよ〜?ハイキングは体に良いのですから!」
あまり乗り気じゃない影を無理矢理雪は引っ張っていく。
体には良いかもしれないが、崖から落ちたら取り返しがつかないと思う。
しかし雪はハイテンションで山道を歩いて行った・・・


2時間後。

「疲れましたね・・・・・」
雪の顔から笑顔がなくなり、半分死んでる顔になる。
霧も先ほどとは比べ物にならないほど濃く、
既にハイキングではなく遭難に近い。
「・・・先ほどまでの元気は何処へ行ったのだ?」
呆れた影が、しゃがみこんだ雪に手を差し伸べようとすると・・・

「!!!!?ああああああああああ!!!!!?」

突然雪がけたたましい声で叫び出した。
「!!?何なのだいきなり!!?」
影は驚いた。
どのぐらい驚いたかというと、思わず1、2歩引き下がったほどだ。
これは普通の人だったら倒れて意識不明の重体になっているほどだ。
「あそこにメチャ可愛い子がいますよ!!!!!?」
雪は向こうの方を指差して、言った。
「は?」
影が雪の指差す方に振り向くと、そこには灰色掛かった髪の少女が座っていた。


「?」
少女も気付いたのか、こちらを振り向く。
良く見ると彼女の頭には白い角の飾りが5つ付いている。
「(私の)影を奪いに来たに違いありませんよ!!!!!?」
今までの疲れを吹っ飛ばし、雪はダッシュでその少女の元へと向かう。
その姿は戦地を駆け抜ける戦士のように勇ましい・・・というか怖い。
「ゆ、雪!!?」
とんでもないことになりかねないので、影は雪の後を追った。
放っておけば、この山が血で染まるに違いない・・・


「そこのおおおお!!!!!!」
雪は神速とも言える速さで少女の元へと辿り着いた。
少女はあまりにも突然の出来事で、目が点になる。
「?・・・あなただーれ?」
少女の喋り方はどこかし舌っ足らずで、あどけない。
まだまだ幼さを残している。
しかし頭が混乱している雪には全く聞こえない。
「影に手を出したら私が・・・」

シュッ

ドサッ・・・

後ろからの影の手刀で、雪は止まった。
正しく言うと、気絶した。
「すまぬ。雪は少し・・・じゃなくて大分おかしい部分があるからな・・・」
影が下を見ると、雪は何故か幸せそうな顔で気を失っていた。
たまに「綺麗な川が・・・」と嬉しそうに呟いているが、まぁ気にしないでおこう。
「ふ〜ん・・・わたしアイアイ。ねぇ、ふたりともなまえなんていうの?」
少女は綺麗な瞳をパチクリさせながらそう尋ねる。
「ん?我らか?我は漆黒の影、影で良い。今寝てる(?)のは、純白の雪と言う。」
雪はまだ起きない。よほどきつかったのだろうか?
「じゃあ〜かげ!!にいさましらない?」
立ちあがった靄靄(アイアイ)は、また影に訪ねてきた。
「兄・・・・?」
「そう、にいさま!!あのねあのね・・・しろいくもとあかいきりってゆーの!! !」





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