彼は破壊者
彼は世界を食い尽くす化け物
運命は二人を結び付け、そして巡り合わせる。
そして世界を壊す化け物の………


『覚醒 ―はかいしゃとばけもの―』


タスケテ……タスケテ………
一つの声が風の耳に響く。
それは声にならない声。
だが、ハッキリと耳に響く。
その声は、風の傍にいたアイにも聞こえた。
リサ・アイ・ユウ・ルーは風を無理矢理連れてきて、地下鉄に乗り、ある駅で降りた のだ。
そこは花々が咲き乱れる美しい森。
人の氣は感じられないものの、森の美しさに惹かれて、
地下鉄発射時刻まで、一時の休息を得る事にしたのだ。
アイとユウの遊び道具と化していたチョビには花がたくさん付けられている。
ルーに抱き付かれながら、空を見上げている風は、突然に声を聞いたのだ。
しかし、口には出さなかった。
だが、同じくその声を聞いたアイは回りをキョロキョロと見まわした。
「ねえ。何か聞こえなかった?」
回りを見終わった後に、アイは近くにいた双子の弟・ユウに問いかけた。
「何にも」
アイの期待していた言葉とは違う答えをユウは返した。
「え〜確かに聞こえたんだけどな〜『助けて』って」
声にはなってなかったけど………ハッキリと胸に響いた。
心の中で言葉に付けたしをしたアイだが、
口に出さなかったためにユウは気づきもしなかった。
「誰か危ない目にでもあってるのかな?」
「そうかも!私見て来る!」
言うが、早く。アイは声が聞こえた森の方に走っていった。
「あ!お姉ちゃん!」
「アイ待って!」
「クエ〜」
ユウとリサとチョビは走り出したアイを急いで追いかけた。
「あ、待ってよ〜!風様、いきましょv」
ルーは風を立ちあがり、風の腕をグイグイ引きながら、3人の後を追いかけた。


声を辿って付いた所は、巨大なクリスタルが生えている森の中心部。
モンスターのクリスタルではなく、綺麗な輝きに満ちたクリスタル。
中には、そのクリスタルよりも一際美しい光があった。
しかし、光は弱々しく、それでも美しく輝いていた。
「あれかな…………」
アイは小さく呟いた。
あの光から、叫びが聞こえる。
声にはならないけど、確かに胸や心に響く叫びが。
「あの光から………おぞましい氣が感じられる……」
クリスタルに近寄ろうとするアイとは対照的に
リサは光から感じる氣に寒気すら感じていた。
「これはもしかして………Ω?」
以前、Ωの気を感じた事のあるリサは自分の考えに悪寒を覚えた。
もしこれがΩだったら急いで逃げなければ…………
そればかりを考えていたために、
クリスタルまで至近距離に近づいているアイには中々気づかなかった。
アイは恐る恐るクリスタルに手を伸ばし、片手でクリスタルに触れた。
そうすると、声無き叫びがよく聞こえた。
(寂しいの?)
アイが心の中で呼びかけると、
クリスタルはそれに反応するように光り、アイの心に直接言葉を送った。
(サビシイノ……ネエ…ダシテ…)
その悲痛な声は風にも聞こえ、
風は有無言わずに紅い銃を、クリスタルに向けて何発か撃った。
しかし、クリスタルは頑丈でヒビ一つ入らなかった。
しかも、その銃声がさらなる悲劇を呼んだ。
「…………Ω!?」
クリスタルの向こうから、Ωが現れたのだ。
Ωはクリスタルを庇うように立ちはだかると、風に攻撃を始めた。
風はその攻撃を避けて行くが、それにも限界がある。
その限界を見図ったかのように、魔銃に光が灯った。
「動いた………」
風はそう呟くと、Ωの攻撃を避けて、真正面に向き合った。
「ソイル、我が力!」
風は魔銃を解凍させると、銃口をΩに向けた。
「お前に相応しいソイルは決まった!」
風は言葉と同時に腰にあるベルトから銃の弾丸を取り出した。
「地に這う執念、『スチールグレイ(鋼の灰色)』!」
灰色の弾丸は魔銃の三つのうち、一つの穴にはめ込む。
「流れ出す鮮血、『ブラッディレッド(血の赤)』!」
次に取り出したのは赤の弾丸。
「そして、疾風(シップウ)を切り裂く『クラッシャーホワイト(砕く白)!』
そして最後にはめられたのは白の弾丸。
「切り裂け!召喚獣…フェンリル!」
風の言葉が終ると同時に、魔銃から三つの光の弾が撃ちだされた。
それは混ざり合うかのごとく、Ωへと向かって行った。
光はΩにぶつかる前に混ざり合い、光の中からは白い狼が現れ、
Ωとクリスタルを鋭い爪で切り裂いた。
それはほんの一瞬の静寂。
その静寂が終わると共に、Ωは爆発した。
同時に、クリスタルも破壊され、
中にあった光が地面に落下するのを見たアイは
急いで駆けようとしたが、風の手前でリサに止められた。
迫り来る、爆熱はリサの氣現術で何とか回避した。
爆発が収まった頃……いつも通り風はいないだろうと踏んでいた一行は
その場に立っている風に眼を丸くしたが、アイはそれに構ってる余裕などなかった。
急いで残骸の跡を少し退かして見ると、瓦礫の間に一人の少年が横たわっていた、
風と同じ髪をしているが、その髪も短く、アイよりは少し年上の少年が。
アイが恐る恐る少年の胸に手を当てると、鼓動が手に伝わってきた。
「生きてる………リサ!ユウ!」
少年の生死を確認すると、アイは大声でリサとユウを呼んだ。


「この子………何者なのかしら…?」
リサは思わずそう呟いた。
少年はリサの手で瓦礫から救い出されて、
何故だかは不明だが風が地下鉄まで連れて来たのだ。
(人の氣も感じるけど…Ωの氣も感じる……
 でも、敵意も戦意がまったく感じられない………)
「う…んっ………」
アイの必死の看病のおかげか、少年は身を捩らせながら眼を開けた。
「あ、起きた!」
少年はアイの声にすぐ反応し、その翡翠の瞳でアイをじっと見た。
「……………俺に語りかけたのは貴方?」
「まあそうだけど………」
「俺の声が聞こえたの?」
「煩いほどね。露骨に『タスケテ』だの『サビシイ』だの言われたらほっとけないわ よ」
何気にキツイアイの言葉を受け止めても少年は無機質な表情を崩さなかった。
「ねえ。君は何て言う名前なの?」
そこにリサが少年に問いを向けた。
「俺の名前………確かΩって回りは呼んでた………」
一瞬にして場に緊張が走った。
「アンタ……Ωなの?」
ルーが恐る恐る問い掛けると少年は相変わらずの表情で
「わかんない………ただ、回りがそう呼んでた…」
「じゃあ私の世界を滅ぼしたのもアンタなの?」
今度は少しキツメに問いかけるが少年は相変わらずで
「それもわかんない………何かを壊してた事なら分かるけど……
 何を壊してたのか…覚えてない」
「なんか風みたいだね」
ユウの言葉に少年は少し反応してユウを見た。
「風って……誰?」
「あそこにいる人だよ」
ユウは少年の質問に適切の答えた。
少年は風を見まわすと、魔銃のところで視線を止めた。
「それが……俺を捕らえてたのを壊した……風にも聞こえた?俺の声」
「…………聞こえた」
風はそれだけを答えた。
「………………」
少年は言葉を閉ざして、椅子に座った。
「アンタおじさん並に無愛想ね」
アイが失礼な事を言っても、少年は口を閉ざしたままだった。
そんな少年の反応を見て、アイはむっとなったが
しばらく腰に手を当てて、考え事をしていた。
しばらくすると何か思いついたのか、小さく呟いた。
「ハヤテ……」
「?」
少年はアイの言葉に反応して、不思議そうな眼を向けた。
「決まり!あんたの名前は疾風(ハヤテ)!」
「ちょっ……アイっ」
「だって、アンタには名前ないんでしょう?
 Ωって呼ぶの嫌だし、これからは疾風って名乗りなさいよ」
横暴なアイの台詞に唖然となった3人だが、
少年はそれとは対照的に名前を繰り返し呟いていた。
10回くらい繰り返すと顔を上げて
「俺の名前は………疾風」
「そう!疾風よっ」
アイは自身満々に答えた。
少年は嬉しそうに顔を綻ばせて
「疾風………v」
喜んでいた。
しばらくすると、椅子から立ちあがりアイの前で片膝を下すと
「貴方が付けた名と引き換えに、我は貴方に誓います。
 ………この命尽きるまで貴方の御傍で貴方の命のみお聞きします。
 貴方の命御守りします………」
まるで兵士が忠誠を誓うような言葉を言った。
「何それ……恥ずかしいから止めてよっ」
アイは照れ臭そうに少年を起こした。
少年は身体を起こしたものの、ニコリと微笑んでいるだけで何も言わなかった。


予言します。
魔剣士の連れてきた少年。
彼は憎み人。
疾風を憎み、憎んで憎み。
混沌の感情を胸に抱え、名付け主に仕える。

制御(セーブ) ―ぞうおのかんじょう―
次回もアンリミテッドな導きを…………




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