異界の夜へようこそ。
私はファーブラ。導く者。
破壊の化け物が持つ憎しみの心。
それは孤独の憎悪。
捨てられた苦しみに焼け尽くす思い。
眠れる制御を誘う者は……


『操作(コントロール)―うつくしきあやつりびと―』


「四季(シキ)…四季……」
広めの部屋に男性特有の低い声が響いた。
その声と同時に、フワリとエメラルドの砂が巻き上がり、
その真ん中から露出した服を纏い、薄いピンクの布を回りに浮かべた女性が現れた。
四季と呼ばれた女性は声の主である青年の肩に擦り寄り、腕に自分の腕を絡ませた。
「リンス様ぁんvわらわに何の御用ですんv」
「伯爵の様子を見てきてくれ…
 最近、お前や永久と同じΩ五大精神が伯爵の元についたと聞いてね」
「わかりましたわぁんvあとぉんv魔銃の男を見に行ってもいいん?」
「好きにすれば?」
「リンス様は優しいわねぇんvv」
四季はリンスと呼んだ青年の頬に軽い接吻をすると、
エメラルドの砂と共にその場から去って行った。


「ねえ……まだΩは見つからないの?」
ここ、ガウディムでは、伯爵の冷たい声が響いていた。
「ここ最近持ってきたのは魔剣士と華雲くらいじゃないか」
「そのへんで勘弁したら?」
伯爵の怒りが最高潮に達する二歩手前に静止の声をかけたのは華雲。
華雲は持っていた皿を伯爵の前に置くと、そのままスタスタと歩いて壁際に腰掛け た。
「これは華雲が作ったのかい?」
伯爵は華雲の持ってきたデザートらしき物をスプーンで突付きながら、問い掛けた。
「お気に召さなければ下げるけど?」
伯爵の顔色をうかがわないで、華雲は小さく言い捨てた。
「美味しそうだね〜これなんて料理?」
「ん……以前壊した世界の名物料理みたい……名前は忘れた」
「へぇ〜君はそんな事も分かるのかい?」
「記憶が壊れてない限りは覚えてるよ」
「ふ〜ん」
伯爵は料理の名前について興味を失うと、デザートを上品に食べ始めた。
「あらんv制御はこんなところで雑用なのぉん?」
突然、上から高音の声が響き、全員は一斉に上を向いた。
上にいたのは四季。
四季は華雲の前に降り立つと、ニコニコと悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「貴様は……!」
いち早く四季の正体に気づいた華雲は鋭い眼光を四季に向けた。
「いやぁーんv制御は怖いわねんv」
「操作(コントロール)…お前も復活していたのか……」
その台詞を聞くと、四季はキョトンとした顔になった。
「『お前も』ってことわ…他にも復活してるのん?」
「既に核部(コア)が覚醒している……」
「それじゃあvみんな蘇ったのねんv」
「みんな…他の者も復活したのか!?」
いっそう厳しい口調になった華雲を見ながら、
笑みを崩さない四季は馬鹿にしたような口調で言い放った。
「そうよんv力(ゲート)はわらわと同じ御方に仕えてるしんv
 心(マインド)と夢(ドリーム)は異界の何処かにいるのよんv」
「人に仕えてると言う事は…貴様と力は名を貰ったのか?」
「御名答vわらわは四季で力は永久(トワ)って言う名があるのんv
 制御も名があるんでしょう?」
「俺は華雲……核部はハヤテと言う名らしい」
「ふぅんv」
「貴様のようはそれだけか?」
「それだけよんvさぁてとvわらわは魔銃を持つ男を見に行くとするわんvじゃあね んv」
言葉と同時に、四季は砂に身を包み、そのまま消えてしまった。
「核部と五大精神が全て復活した………
 Ωの破壊活動は俺達の近くに集まる…俺達と融合して完全体になるために…」
華雲の小さな呟きは、静寂の場と化したガウディムに響いた。
「Ωはお前達がいないと完全体にならないのかい?」
「正確に言えば、核部か五大精神のどちらかを融合すればΩの力は完全になる」
「そうなの……じゃあ命令追加だね。その核部を捕獲してきてよ」
「結晶化させるのは?」
「良いよ」
「その任務……受け付けた」
華雲は伯爵に軽く会釈をすると姿を消した。


「…………っ!」
「疾風〜どうしたの?」
「なんでもない……」
突然身震いを始めた疾風を心配に思ったアイは顔を覗き込むように声をかけてきた。
それに対して、疾風の態度は素っ気無かった。
「ちょっと!心配してあげてるだから、少しはそれなりの態度とってよ!」
アイの怒鳴り声も無視して、疾風は足を進ませた。
「素っ気無いの………」
アイが溜息混じりの声が終わった直後に巨大な爆発音が響いた。
「危ないっ!!」
疾風はアイを庇う様に力を放出してシールドを張り、一行を護った。
爆発が収まった事を確認すると疾風はシールドを解いた。
それを見計らったかのように、触手が疾風を縛った。
「見つけたぞ!核部!!」
巨大な植物を連れた華雲が腕を組んで立っていた。
「……誰?」
「白々しい……俺は五大精神の1人、制御だ!」
「だから誰?」
「貴様……俺達にΩ五大精神の名前をつけといて…ふざけるな!」
華雲の怒り篭った表情を見て、自分に対して怒っている事が分かっているのだが、
その原因は疾風に分かるわけも無かった。
「貴様は俺達を捨てた…その罪は重罪だ…その罪…死んで償え!!」
華雲の声を同時に、触手が疾風に襲い掛かった。
バンバンバン!
ザシュッ!
しかし、銃声と鈍い音が辺りに響き、触手が焼き切られた。
「風!」
ユウの声を聞いて、その場にいた全員は一斉にそちらを向くと、
そこには紅い銃を構えた風と、不可解な剣を構えた四季が立っていた。
もちろん四季とは初対面の一行は四季の姿を見ても、クエスチョンマークを飛ばすだ けであった。
「クスッ…vわらわは四季……Ω五大精神の1人よんv」
「Ωって…貴女もなの?」
リサの質問に答えるかのように四季は口を開いた。
「Ωの意思には種類があってねぇんv
 核部とその力をそれぞれ秘めた五大精神…それが意思なのよんv」
「意思……俺もその1人なの?」
「そうよんv貴方はぁ〜核部なのよんv」
四季の言葉に疾風はますます混乱した。
「ソイル、我が力!」
風は魔銃を解凍させると、銃口をΩに向けた。
「お前達に相応しいソイルは決まった!!」
風は言葉と同時に腰にあるベルトから銃の弾丸を取り出した。
「死を包む眠り『スチールグレイ(鋼の灰色)!』」
灰色の弾丸は魔銃の三つのうち、一つの穴にはめ込む。
「湧き上がる血の滾り『ヒートクリムゾン(熱い深紅)!』」
次に取り出したのは深紅の弾丸。
「そして、闇を貫く閃光『ライトニングイエロー(輝く黄)!』」
そして最後にはめられたのは黄色の弾丸。
「唸れ!召還獣…イクシオン!」
風の言葉が終ると同時に、魔銃から三つの光の弾が撃ちだされた。
光は交わる様に植物に近づいていき、
植物はそれに対抗するように触手を風に向けていった。
3つの光は植物にぶつかる前に交わり合い、閃光が轟き始めた。
その閃光は馬を形つくり、召還獣は唸り声を上げると勢いよく上に向いた。
それと同時に雷が植物を攻撃した。
植物はけたたましい声を上げて、光の中に消えていった。
同時に爆発が巻き起こり、疾風は急いでシールドを作り、
アイを庇うように立ちはだかった。


次に爆発が収まると、そこには風や華雲、四季の姿や召還獣もいなかった。
残っていたのは大きな焼け跡のみ。
疾風は混乱と不安で震えていたが、アイの抱擁で落ち着いたのか、体の震えをとって いた。
「ねえ疾風…ほんとにわかんない?」
「うん………」
アイの支えさえも足りないのか、疾風の顔からは不安がしばらく消えなかった………


予言します。
休息に現れる、辛き過去の断片。
語りかける男。
人形のような少年。
それは全て疾風の忌まわしき過去…

記憶 ―かこなきおもい―
次回もアンリミテッドな導きを……




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