異界の夜へようこそ。
私はファーブラ。導く者。
公爵に仕えるΩ・四季。
彼女は敵?それとも味方?
不可解な行動が引き起こす疾風の心は混乱する。
そして、今日も夢にあの思いでが蘇る………


『記憶 ―かこなきおもい―』


『お前は良い子だ』
ソウナノ?
『とっても良い子だよ…………』
ジャアホカノコハ?
『他の奴らは私の言う事なんて聞きやしない。その点、お前は聞き分けの良い子だ』
ナンデホカノコハイウコトキカナイノ?
『アイツラは勝手に意思を持ち始めてる……
 でも、お前は意思を持っても私の言う事を聞いてくれるね』
ソンナニボクハイイコナノ?
『ああ。良い子さ。そうだ!お前に名前をつけてやろう』
ナマエ?
『そう、名前だ。なにが良いか……………』
ナマエ………ミンナホシガッテタ
『お前以外にはやらないよ。お前みたいに良い子は他にいないから』
ボク。ナマエナンテイラナイヨ
『いらなくてもあげる。いつかやくにたつからね』
ヤクニタツ……………?
『そうだな…………Ωにしよう!』
オメガ……?
『そう、Ωだ。最後と言う意味だよ』
サイゴ?ナンデサイゴナノ?
『Ωみたいな良い子が最後かも知れないからだよ』
ソウナノ………
『そうさ…だから何時までも良い子でいるんだよ』
…………ウン


「疾風!起きなさいよ!」
アイの声が疾風の耳に響き、思い瞼を持ち上げながら、疾風は目を開ける。
「そろそろ出発するんだから!何時までも寝てないのっ」
アイは疾風の頭を軽く小突くとユウやリサの方に歩いていった。
その後ろ姿を見つめながら、疾風は小さく溜息を吐く。
(何時も………何時もここで途切れてしまう………)
小さく舌打ちをしながら、疾風はすぐに起きあがった。
(あの夢………なんなんだろう?俺はあのどちらかなのか?)
いつも途中で途切れる夢。
生まれたままの姿でいる髪の長い少年と
その少年をまっすぐに見据える、漆黒の翼と白い翼を生やした男。
夢の主役はいつもこの二人。
あの会話から、いつまでも次に進まない。
いや、どちらかと言えば進んだ方だった。
クリスタルから解放されてから間も無い頃は、一言。二言で夢が途切れるのだが、
会話が終了するまで夢が途切れなくなったのはつい最近のことだった。
続きが知りたい。この後は一体どうなるのだろうか。
その事が疾風の思考を半分も占めていた。
巨大な世界を食い尽くす化け物・Ωとなって世界を破壊していた事は分かる。
しかし、その時の記憶もうろ覚えだし、
以前一緒にいたルーに『何故故郷を滅ぼした』と問われても返し様がなかった。
覚えてないのだ。
化け物になる前の自分なんて。
「俺………何が憎かったんだろう………」
ただはっきりと覚えている事……それは『憎悪』
それだけが自分を突き動かしていたのかもしれない。
そして、自分は身勝手だ。
以前。華雲に言われた事を鮮明に思い出す。
『貴様は………自分だけ逃げた!我らを作って勝手に消えた!その罪……死で償え! !』
俺は何に彼らを巻き込んだのだろう……………
それくらい覚えが無いのだ。
しかし、そんな事を華雲に言っても無駄であろう。
華雲には記憶が大量にあるようだが、疾風は全然記憶が無い。
教えてくれと頼んでも教えてくれるような者ではない事は疾風も充分に承知だ。
一つわかる事がある…………確か何処かの世界を壊した後に『何かを拒んだ』
たったそれだけしか、しっかりとわからない。
思い出す事を拒んでいるのかもしれない。
夢に出て来る翼を持つ男……あの眼を見るのが怖くて溜まらない。
「は〜や〜て!!おいてっちゃうよ〜!」
そんな時、アイの怒鳴り声が疾風を現実に引き戻した。
「アイ……………」
その声を聞いて、疾風は悩んでいる事を心の隅に追い遣った。
悩んでいても仕方ない………過去をどうこういったところで変えられはしない。
今の自分には、仲間がいる。
かけがえのない大切な仲間が…………
そう実感した後、疾風は急いでアイの元に向かった。
自分にちゃんとした名前を付けてくれた幼き少女の元に。
何時しか、彼女と一番最初に会った日に彼女の目の前で誓った言葉を口に出す。
思い出せはしないけど、これも誰かに教えられた………名を付けられた時に誓う事。
「貴方が付けた名と引き換えに、我は貴方に誓います。
 ………この命尽きるまで貴方の御傍で貴方の命のみお聞きします。
 貴方の命御守りします………」
以前、アイの前で言った時は『恥ずかしいからやめてっ』と言われたが、
この誓いは絶対に壊せない。
この命が尽きるまで……例え貴方が先に逝ってもこの想いはこの命が尽きるまで続 く………
「俺は…………アイの事大好きだから………」
だから死ぬまで守り続けるよ。
誰にも聞こえないような小さい声で呟くと疾風は急いで駆けて行った。
自分を待ってくれる者達の元へ………………


予言します。
憎い 憎い
でもほんとうに憎いの?
ほんとの気持ちは他にあるのに、
憎む事で自分を保ってる。
それで本当に辛くないの?

感情 ―にくしみとこんらんのはてに―
次回もアンリミデットな導きを……





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