華虹疾 勇鏡さんからの注意です。
『妙に優しい風が出て、何気にオリキャラ・疾風を甘い雰囲気を作っています』との事です。



異界の夜へようこそ。
私はファーブラ、導く者。
迷い人達の前に現れた4人目のΩ・永久。
辛き過去故に疾風を眠らそうとする一途な心。
でも、そんな思いはすれ違い、代わりに敵意を疾風に与える。
そして傷を負い、迷い人達の前から姿を消す疾風。
そんな疾風の行く末を知る者は……


『心(マインド)―くろしょうぞくのみこ―』


小さな砂漠にポツンとある小さなオアシス。
そこに風と疾風は居た。
風は懸命に疾風の傷の手当てをしていた。
慣れない手付きでの手当ては無意味に等しく、疾風の傷口からはドンドン血が溢れ出 た。
しかし、風の一生懸命な姿を見て、疾風は顔を強張らせた。
風だって酷い怪我をしているのだ。
身勝手な彼が自分の怪我より疾風の傷の手当てを優先してる。
それだけで、疾風は堪らない気持ちになっていた。
「もういいよ………」
いくら小さく呟いても、風は手を止めずに湖の水で疾風の傷を洗い流していた。
こうと決めたら動かない風に対して、
疾風は小さく吐息を吐いてから風の唇にそっと自分の唇を合わせた。
いきなりの事でビックリした風は激しく抵抗をしたが、
疾風の力は強く、そのまま五分間口付けを続けていた。
唇が離れた同時に風は疾風から少し距離を置き、唇を抑えたが疾風は平然としながら
「傷……痛まないでしょ」
確かに言われた通り、傷の痛みが何時の間にか消えていた。
「俺の氣を風に注いだ…後は傷の手当てするだけ……」
言い終わろうとする疾風の躯はグラリと傾き、風の胸に落ちた。
「……!?」
自分の胸に倒れ込んだ疾風にビックリした風は
急いで疾風の身体を抱えてオアシスから走り出した。
行くあてなんて何処にも無い。
今は疾風を救う事だけで風の頭は一杯だった。
急いで辺りを見まわしても、街なんか何処にもなかった。
元々、街が少ない異界である。
そう簡単に見つかるわけが無かった。
しかし、神は風に味方をしたのか、遠く北の方に煙が見えた。
それを見た風はマントを外してそれで疾風を包むと、急いで北の方角に走って行っ た。


その頃、リサ達は………
地下鉄発車時刻まで、ずっと疾風を探し続けたが、
いつまでたっても疾風は見つからず、ついに地下鉄発車時刻になってしまった。
最後まで愚図るアイを何とか説得して地下鉄に乗せたはいいが、
ずっとアイの表情は曇っていた。
そして、地下鉄の停車駅で三人と一匹は降りた。
もちろん双子の両親を探すために。
しかし、今のアイにはそんな気力すらも失せている。
あの少年の存在がここまでアイを突き動かしていたのだ。
不安の様子を隠せないリサとユウ。
そんな中、チョビが突然一声鳴くと、いきなり走り出した。
「あっちに村があるって!」
ユウがチョビの言葉を通訳すると、すぐにチョビの後を追って、走って行った。
リサはアイの腕を引きながら、その後を追い掛けた。
チョビを追って辿りついた先は…白銀の世界に佇む小さな村。
村の光は白銀を綺麗に灯し、そして黒い影をも灯した。
彼らは今までの経緯から、その影を風と思ったが………実際、その場にいたのは…
黒い巫女装束を着た美女。
雪も灯りも黒い服とは不釣合いだが、彼女の神秘さがそれを似合わせていた。
美女はすぐにリサ達に気づいて、ニコリと微笑んだ。
「今日は……客人の多い日じゃな…まあよい。汝らも入って来い」
美女はリサ達に手招きをした。
一瞬戸惑った三人だが、危害を加える気はないようなので、
大人しく、美女の言う通り、村に入り、促されるがままに家の中に入って行った。


「「「!?」」」
家の中に入った途端、視界に飛び込んできた光景に三人は驚きの声を上げた。
ベッドに横たわってる疾風と、その手を握り締めている風。
他人を寄せ付けない風が意外過ぎる表情に三人は息を飲んだ。
黒き風が…今にも泣きそうな表情をしていたから………
「我らも驚いた。急に銃声が聞こえたと思ったら、
 少年を抱えた黒い男が村の外に横たわっていたのだから…
 男はすぐに起きたが、少年は目を覚まさん。
 男の方は…まだ寝てろと言うのに言う事を聞かないのじゃ」
美女は小さく呟き、風の方に向かった。
「なあ…男よ。汝とてあの極寒をその姿で歩いたのだろう?身体を温めた方が……」
優しく差し伸べられようとした手。
しかし、風はそんな手を振り払い、代わりに疾風の白い手を痛ましそうに撫でた。
何時もの彼とは思えないくらい痛ましそうな表情。
リサは改めて疾風の凄さを知った。
彼はどんな相手にも心を許すわけではない。
実際、自分達と疾風の間には一線が引いてある。
彼が笑顔を見せるのは、誰でもないアイと風のみ。
確かに自分は彼を最初から疑っていた。それはユウやルーも一緒。
しかし、アイと風は違う。
二人はちゃんと疾風の声を聞いて、彼を戒めから解いた。
そして……彼の存在は人を惹き付ける。
あの風すらもこうやって惹き付けている。
それがリサには歯痒かった。
宿敵を倒す事・戦う事で己を突き動かしていた男が、
こんな小さな少年に心を開きかけている。
しばらくそんな事を考えていると、アイが小走りで疾風の傍に寄り、
風をキっと睨んだ後、優しく疾風の左手を取った。
「ねえお姉さん…疾風は起きるの?」
ユウは耐えきれなくなって、美女に疾風の容態を遠まわしに問い掛けた。
「今のところは何とも言えぬ……後で我直々に治療してやる。
 お前達もゆっくり休めば良かろうに……」
「疾風がこんな傷してるのに…呑気に休んでなんかいられないわよぉ…っ!」
アイの悲痛な声を聞いて、美女は小さく吐息を吐いた。
そして、疾風の寝ているベッドに近づき、二人の手を振り払うと、疾風の身体を抱え た。
「今から治療を施す……だからそんな顔をするな……」
美女は優しくアイを撫で、風に視線を向けると、一つの扉から出ようとした。
その寸で止まり振りかえると、少しニッコリと微笑んで
「言い忘れたが……我の名は姫乃(ヒメノ)…この少年と同じ…Ωじゃ」
姫乃と名乗る美女の言葉に一同は驚きを見せた。
風は、何となく分かっていたのか、何も言わない。
今までのΩは例外もあるが、全てが襲来を掛けてきた。
彼女が安全だと言う保障は無い。
しかし……彼女に敵意と言う名の氣は微塵も感じられなかった。
任せるしかないのだろうか?
刻一刻と……時のみが無情に過ぎて行った………


予言します。
疾風。
彼の背負う武器は形を変えて、全てを薙ぎ払う。
まるでそれは…疾風の心を表すかのように……

聖坤(セイコン) ―オメガやどりしちから―
次回もアンリミデットな導きを………





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