異界の夜へようこそ。
私はファーブラ。導く者。

白銀に包まれし世界。
新たなΩ・姫乃。
黒き風とアイの心配する中、一刻と眠りについている疾風。
そして、疾風の背中に宿る偉大な武器が目覚める。
その武器は……


『聖坤 ―オメガやどりしちから―』


「ねえ……俺どうする気?取って食ったって俺は不味いよ」
「誰が取って食うと言った。馬鹿者が……」
姫乃は疾風の腕を引き、小さな椅子に座らせた。
「汝は核部だ。五大精神の我が汝に力を注げば、傷は治る」
「………」
五大精神の名前が出されたと同時に、疾風の表情が曇る。
疾風の脳裏に二人の姿が映る……
自分を憎み、攻撃を仕掛ける華雲。
自分をまっすぐに見据えながら、何処か哀しげな顔の永久。
「アンタも……アイツラと同じなのか?」
哀しげな表情を見て、姫乃がニコリと笑う。
「核部…汝が他に目覚めている意思達に何をされたかは我は知らぬが…
 少なくとも、我は核部…汝の味方じゃ」
その笑みに安心したのか、疾風の顔に安直が見えた。
「核部……いや、今はハヤテじゃったな…我は姫乃。心を司る者」
「………ヒノ?」
「姫乃じゃ……まあ良い。
 さて、そろそろ汝の傷を治さねば…外にいる二人が五月蝿いの」
「二人?」
「我と似たような服着た黒い男とちっこい女子じゃ。
 二人共、汝を心配しておったぞ?」
姫乃の言葉を聞くと、疾風はシュンとなった。
「どうした?心配されるのが嫌なのか?」
「そうじゃない………ただ…」
俺ガ護ラナキャイケナイノニ……逆ニ心配サレルナンテ……
「疾風……そう言う考え方はよくないぞ?」
まるで疾風の心を見透かしたように、姫乃が優しく言う。
「でも……」
「もういい加減にしろ。傷を治すぞ……」
姫乃はそう言うと、疾風の傷に指で触れた。
すると、姫乃指が光り、疾風の傷を癒していった。
「凄いね………」
「これくらい朝飯前だ……ほら。終わったぞ」
姫乃の指が離れると、腹部には既に傷が無く、血も消えていた。
「治った……」
「……早く、あの二人に会ったらどうだ?」
姫乃の促しを受けて、疾風は部屋を出て行った。


「疾風!」
部屋から出てきた疾風に真っ先に気づいたのは、アイ。
風も気づいていたようだが、名すら知らぬ疾風を呼ぶことは出来なかった。
「もうっ!馬鹿馬鹿!勝手にどっかいかないでよ!」
ポカポカ、疾風の胸板を叩いてるアイだが、その顔には安心の笑みが見えた。
「御免ね…心配かけて…」
「当たり前よ!勝手にいなくなっちゃって!」
アイの目尻には涙がたまり、今にも零れ落ちそうだったので、
疾風はそれを優しく拭った。
「もう泣かないでね……アイ……」
疾風は笑みを見せないが、それでも彼の優しさにアイは嬉しくなり、
服の袖でゴシゴシと涙を拭いた。
そんな和ましい光景が場に咲いたが……それもすぐに壊れてしまった。
「お前達!!今すぐ村を出ろっ!近くに住む化け物が襲ってきた!!」
姫乃の慌しい声を聞いて、場の空気が一気に緊張した。
「化け物って……何?」
「正体はよくしらんが……取り敢えずは凶暴な獣だ。
 しかも肉食だから人を丸呑みで食うのじゃ…
 我が追い払っておったのじゃが…アヤツ…今度は本気のようじゃ…」
リサの問いに、姫乃は冷や汗を流しながら答えた。
「村の者には避難をさせておる。後はお前らだけじゃ…さあ!早く逃げいっ!」
姫乃の誘導で一同は急いで家の外に出たが……もう間に合わなかった。
「ちぃっ!」
姫乃は化け物の方に振り返ると、持っていた薙刀で化け物の右腕を切り落とした。
「グガァ――――――!!!」
化け物は切られた場所を抑えつつ、姫乃に拳を向けるが、
それをサラリとかわし、ボケッとしているリサ達を見て
「主達っ!ボヤボヤせんと早く……っ…!?」
避難の言葉を言い終える前に建物の陰にある人物を見つけた。
その時に一瞬の隙が生まれ、化け物は姫乃に向かって爪を振り下ろした。
「グァッ…!」
幸い、姫乃が咄嗟に避けたので、爪が身体を貫く事は無かったが、
背中に大きな爪痕が残ってしまった。
姫乃は痛みに耐え切れず、地面に跪いてしまった。
「姫………っ」
「姉上っ!」
リサ達が声を掛けるより前に物陰から、一人の少女が現れ、姫乃に近寄った。
「シ…シェンナ………っ」
「ゴメンナサイっゴメンナサイっ!姉上が心配でっ……!」
シェンナと呼ばれた少女は姫乃の手を取り、ボロボロに涙を零していた。
しかし、化け物はアクマで化け物。
そんな様子に戸惑う事無く、まっすぐと爪を振り下ろし、
姫乃にトドメを刺そうとしたが
「はぁ………っ!」
いち早くリサが姫乃達の前に立ち、氣現術を放ったおかげでその場は間逃れたが
…しかし、氣現術がいつまで持つかは分からない。
早く対処を施さなければ、三人の命が危うい。
その事を知ってか知らずか、風は紅い銃を化け物に容赦無く撃ち込むが、
厚い毛が防具となって、銃弾を受けつけなかった。
魔銃を撃とうとしても、発動してない状況では無理に等しい。
そうしてる間にも、氣現術の威力はドンドン落ちてきている。
リサの体力も限界だ。
その時、姫乃が身を少し起こして疾風に顔を向けた。
「疾風っ!お前、棒を持っているか!?」
「棒………?」
姫乃の突然の問い掛けに疾風は少し混乱しつつも
服のポケットから小さな棒を取り出した。
「コレ………?」
「そうだっ!それを使……っ!」
言葉の途中で背中の傷が本格的に痛み出した姫乃はその場に蹲った。
シェンナの声が一層大きくなるが、疾風はそんな事どうでもいい。
使い方も分からないのに使えと言われても、それは無理だった。
ただでさえ、昔の記憶が抜け落ちて何も思い出せないのに、
そんな簡単に使い方が分かるわけもなかった。
それでも…アイの哀しそうな顔みて…風の瞳を見て…一心に何かしたいと思った。
気づいた時には……既に走り出していた。
しかし、棒の方が疾風の気持ちに連動したのか、次第に形を変えていった。
そして……
ザシュッ
鈍い音をたてて、疾風は化け物の左腕を切り取った。
斧に変形した小さな棒で。
少しの間、呆然としていたリサはすぐに意識を戻して、
姫乃とシェンナを安全な場所に避難させた。
それを見計らったかのように、魔銃に光が灯った。
「動いた……」
風の声を聞き取り、魔銃発動を察した疾風はアイとユウ、チョビも避難させる。
「ソイル、我が力!」
風の言葉に反応して、魔銃が壊れ、組み直されていく。
「魔銃、解凍」
解凍した魔銃の照準を風は化け物に合わせた。
「お前に相応しいソイルは決まった!」
言葉と同時に腰のベルトからソイルの入った容器を取り出した。
「大いなる時の流れ、『タイムグレー(灰色の時空)!』」
灰色の弾丸は魔銃の三つのうち、一つの穴にはめ込む。
「流れに秘める怒り、『アンガレッド(怒りの赤)!』」
次に取り出したのは紅い弾丸。
「そして、戒めを壊す力、『リバティブラック(自由の黒)!』」
最後にはめられたのは黒の弾丸。
「裁け!召喚獣…ゼクンドゥス!」
風の言葉が終ると同時に、魔銃から三つの光の弾が撃ちだされた。
それは混ざり合うかのごとく、化け物へと向かって行った。
三つの光は化け物にぶつかり、化け物は何も無かったような様子だったが…
次の瞬間、化け物の身体がドンドン小さくなっていった。
いや…正しくは退化していっているのだ。
次第に化け物は破裂し、小さな爆発が起き、閃光が舞った。
それは視界を遮る効果があり、手で光を遮った。
光の向こうには黒い翼を持った天使のような召喚獣がいて、
その召喚獣もすぐに姿を消した。


光が完全に消えた頃には風の姿は無く、吹雪も収まっていた。
しばらく呆然としていたリサ達とは反対に姫乃はクスリと微笑んで
「疾風…使えたではないか……主の武器・『聖坤(セイコン)』が」
「セイコン…?」
「そうじゃ。それが主を守る唯一の武器…Ωの力を使っておるから普通の武器よりも 強力じゃ…」
「そうなんだ………」
疾風はまた小さくなった棒・聖坤をシゲシゲと見た。
「そんなのがさっきの斧なの〜?」
アイも不思議そうに聖坤を見た。
「不思議だよね……なんか風の魔銃みたい」
何時の間にかユウも疾風の傍に近寄って、アイと一緒に聖坤を見た。
その間に姫乃はリサを自分の近くに引き寄せる。
「なんですか?」
「主にだけ言っておく…Ωの武器はあれだけではない…」
「え?」
「他にも制御の持つ『黒鞭(コクベン)』に
 操作の持つ『魅了(ミリョウ)』、
 力の持つ『神慮神刀(シンリョシントウ)』
 …我の持つ『三日月(ミカヅキ)』……そして…
 まだ汝らが見ぬΩ五大精神の最後の一人…夢(ドリーム)の持つ『無心(ムシ ン)』
 …アヤツらはこれを習得してるだけに手強い…」
姫乃の言葉が終わると、既にリサの顔は少し青ざめていた。
「もしかして…疾風が使ったあの聖坤は……まだ未完成なの?」
「……まあ未完成と言うか…力が覚醒できておらんのじゃ………」
「そんな……」
少なくとも、あの強靭な化け物の腕を一振りで切り落とすほどの威力を見せた武器が
まだ『未完成』なのだ。
そんな武器の力が完全に蘇ったら一体どうなる事か……
「後……もう一つ、汝に言う事がある」
「何………?」
リサの返答を聞き、姫乃は一気に顔を曇らせて
「………疾風を…夢だけには絶対接触させるな……」
「…会ってもいないのに…?」
「核部である疾風が主らの傍にいる限り、
 意思はそれに引き寄せられる…他の意思にはもう会ったのだろう?」
「まあ……」
姫乃の顔はより一層険しくなり、リサを半端睨むようになっていた。
「ならば必ず夢も汝らと接触するはず…良いな!?」
「でも、なんで!?」
意味の分からないリサは姫乃に返答を求めた。
「………アヤツの思考は………危険だ!」
姫乃の威圧するような声にリサは後退してしまう。
「良いな……何としても疾風と夢は会わせてはならん……絶対に!!」


予言します。
負けないでリサ。
海パズルの謎を解いて
迷い人達を救えるのは貴方だけなのです。

『氣現獣 ―えがおのむこうに―』
次回もアンリミデットな導きを………




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