異界の海へようこそ。
私はファーブラ。導く者。

聖坤。
それは破壊の化身を武器にしたもの。
その武器は疾風の心にとても忠実な心の盾。
でも気をつけて…聖坤は諸刃の刃でもあるのだから…
そしてもう一つ…命護る者の諸刃の刃は……


『氣現獣 ―えがおのむこうに―』


「さあ、準備は良いですか?
 では、素敵なアトラクションをたっぷりお楽しみ下さい!」
ピストの言葉を合図に、海パズルが不規則に動き出し、そして眩い光がジェーンを包 んだ。
リサ達が眼を明けた時は、外には済み切った青空が広がっていた。
「シド、どうなってるんだ!?」
眉間を抑えながら、ナーヴは操縦席にいるシドに問い掛けた。
「どうもこうもありません…」
シドは画面を見ながら声を上げた。
「立方体の空間に閉じ込められています!
 これがピストとか言う奴のいっていた海パズルのキューブなのでしょう」
「陸に上がっちゃってるよ!」
「これじゃあ前に進めないじゃん!」
陸に上がっているジェーンの様子を見てアイとユウは驚きの声を上げた。
「んーなんか不気味臭い感じー」
ファンゴの言葉を表すように、天井から水柱が現れた。
水柱から現れたのは巨大な人魚。
「お前達…異界の海をはよう突破したかろう……?」
人魚はジェーンに向かって言葉をかけた。
「人魚…?」
「でっかい…」
アイとユウは突然現れた人魚に驚くばかり。
「貴様何者だ!伯爵の手下か!?」
「妾はソモサン。知恵を愛する者じゃ…」
ナーヴの怒鳴り声をなんともせずにソモサンと名乗った人魚は冷静に話した。
「知恵?」
「今よりお前達に謎を与える…一つ解くたびにお前達の目指すものに近づけてやろ う…
 じゃが、間違えればお前達は果て無き混沌の闇に落ちるのじゃ…」
ジェーンの下は黒い闇が何処までもあり、落ちたら助かりようが無さそうだった。
「混沌の闇?」
アイが呟くようにいった横では、疾風がその闇を鋭い目付きで睨んでいた。
「どうじゃ争わずに済む平和的解決法じゃろ?
 選べ…お前達の命運を託す…三人じゃ!」
ソモサンの爪が三本伸び、催促するように指を動かした。
「罠よ!きっと」
「だが、向こうが争いたくないといっている以上は…」
「私がやろう!これもまた秩序のために戦いだよ!」
名乗りをあげたのはミィレス。手には吹き矢を持っていた。
「風は?」
「無理無理。どう見ても知恵がありそうには見えないもの」
双子達は風の方を見ながら勝手な事をいっている。
「もしもの時のためにシドには残っていてもらおう」
ナーヴの言葉はもっともだった。
もし何かあったとすれば、誰よりジェーンを動かせるシドがいないと話にならない。
「というわけで、我々三人が受けて立とう!」
ジェーンの外に出たのは、リサ・ナーヴ・ミィレスの三人。
ジェーンの上にはコモディーンの戦士達が数十名いた。
「知性の匂いが香りだつようじゃて…」
三人を見て、ソモサンは嬉しそうに声を上げる。
「ねえ、アンタ。
 氣現術とか言う技を持っているみたいだけど…役にたつもんなんだろうね」
「そ、それは…あはは」
突然のミィレスの問いにリサは笑っているが、それに追い討ちをかけるように
「アンタのいた世界じゃそれが普通なのかい?」
「え?」
「なーんか気になるんだよねその笑顔。なんか誤魔化されてるみたいでさ」
ミィレスの視線を逸らしながら、リサは笑うしかなかった。
「一番手は誰じゃ?一人につき三問答えてもらうぞ」
「一番は私だ!どんな謎でも解いてみせよう!」
一番手を申し出たのはナーヴ。
「オッホッホッ…頼もしい限りじゃ…では!第一問!」
「最初は四本足、次は二本足、最後は三本足、この生き物なーんだ?」
ソモサンの『謎』の内容に呆然となる一同。
「謎って……」
「ナゾナゾの事なのぉ〜?」
「ハイハイハーイ!私答え分かるよ!」
項垂れるユウ。手を挙げるアイ。
だが、疾風だけは険しい顔をしていた。
「ふっふっふっ…どんな難問が出ると思えば他愛の無い…答えは人間だー!」
「違うね……」
自信満々に答えるナーヴとは反対に疾風は冷たい表情を未だに崩さない。
「なんで?これであってるんだよ?」
疑問に思ったアイは疾風の顔を見ながら意外そうな表情を作るが…
疾風は表情を変えずに
「そんな簡単な答えじゃないよ。
 …それにこれは敵が用意した迷宮だよ…確実に俺らを混沌に落とす気でいるんだ」
疾風の声がナーヴに聞こえるはずもなく、
答えの説明をして自信ありげにソモサンを見るナーヴだが……
ブーッ
「ハーズーレーじゃっ!」
疾風の予想通り、ナーヴの答えは見事にハズレた。
「なっ!?」
「答えは異界バクテリア、ヘモラじゃ!」
「なにそれ!?」「そんなの知らないよ―!」
謎の生物の名前を挙げるソモサンに双子が講義の声を上げる。
ゴゴゴゴゴッ
そして、ジェーンの乗った岩は下に向かい、画面にもそれがわかるようになってい た。
「ほんとに空間ごとパズルの下の方に向かっている!」
「これが海パズルなんだわ…私達が助かるには答えるしかない…!」
「では!第二問!」
今度こそはと挑むナーヴしかし………
「ハーズーレー!」
その後、第二問目・第三問目も不正解のナーヴは身体が弾けて、水となってしまっ た。
「「ナーヴ!」」
「オホホホ!言い忘れておったが、三問とも不正解の者は
 そのように水溜りになってしまうのじゃ!」
ナーヴが水になった後、岩はまた下がった。
「ほれほれどうじゃ?心して掛かるがよい…」
「ナーヴが…」
「死んじゃったの?」
「大丈夫だよ……生きてる氣は感じるから……」
不安そうな二人の心を解すように、疾風は冷静に言った。
「さあ…次は誰じゃ?」
「私が…」
「いや!この戦士!ミィレスが相手だ!」
目尻にたまった涙を拭かず、今度はミィレスが名乗りをあげた。
「頼もしいぞよ…娘。仲間を思い気を張って…健気よのぉう…では参ろうか?」
「来い!」
しかし……ミィレスも全て答える事は出来なかった。
ブッブッブー
「ナーヴ!ミィレス!」
水となったナーヴとミィレスを見て、リサは悲痛な声を上げた。
「オホホホホ…お前一人になってしもうたのぉ…後少しじゃのう…
 落ちたら混沌の闇の底…二度と浮上はできんぞ」
「混沌の…」「闇の底…」
ソモサンの言葉を聞いて、思わず底を見るアイとユウ。
その暗さに思わず身のよだつ思いを感じた。
「どうやら次の問題がお前達の運命を決めるようじゃの…」
ソモサンの言葉にリサの顔は緊張に強張る。
「リサー!頑張ってー!」「負けないでー!」
ジェーンの上でリサを応援するアイとユウ。
そして、その様子を上空からクルクスが見ていた。
「では…もーんだーい!!」
そして、運命を決めるクイズがスタートした。


「ハズレー!ハーズーレー!」
ピキピキピキッ!ズガァーン!
リサは二問間違え、そしてジェーンは混沌まで後一歩になってしまった。
「リサー!」
「次間違えたら闇の底に落っこちゃう!」
悲痛な双子の声を聞き、リサの中で焦りが生まれる。
「ウフフフ…いよいよ最後の問題じゃ…
 髪の毛から顔が生えて水を飲むと火を吐いて
 機械みたいで生物みたいなのなんだ?」
「分かる…?」「わかんない…」
既に意味不明なものと化しているソモサンのクイズに双子は絶望的な声を上げた。
「疾風……分かる?」
アイの問いに疾風はただ沈黙しているだけだった。
「さあ!さあ!」
「えっと……」
「さあ!さあ!さあ!」
「あ…あはは…」 ソモサンの催促にリサはもう笑うしかないのか、何時もの笑顔でソモサンを見た。
「醜い顔じゃ…そのような微笑みで誤魔化して…口ほどにも無い奴じゃ…」
リサの笑みを見て、ソモサンは述べた…彼女には分かっていた、
リサの笑みが偽りである事を……
「待って!もう少し時間を頂戴!今、考えを纏めるから…ちょっとだけ…お願い…」
笑いながらも、リサは必死で時間を稼ごうとする。
「リサー!笑って誤魔化さないでマジメにやれー!」
「お姉ちゃん!リサは少しでも時間を稼ごうとしてるだけだってばぁ…」
そんなリサに怒るアイだが、リサの意図が分かったユウはアイを宥めていた。
(無理だよリサ……いくら時間を稼いだって…ある事に気づかない限りは………)
そんな中、疾風は心で呟いた。
しかし助言はしない。それは彼女のためにならないのなら………
(そう…そうよ…私はいつも…)
涙ながらに笑いを崩さないリサの脳裏に昔の過去が蘇る。
村を救うために命をかけた母が残した言葉を思い返していた………
(それから私は隣の国に引越して、知らない土地で知らない人に囲まれても、
 いつも笑顔を作る事で自分を護ってきた…
 だからこの笑顔は作り物…困った時にしか見せない嘘の顔…)
「さあ!そろそろ時間切れじゃ…!」
とうとう、ソモサンからの宣告が出た。
(どうしたらいいの…?お母さん!)
完全に追い詰められたリサはまた苦し紛れに笑おうとするが……
「笑うな」
「風!」
突然の言葉に思わず笑みを止める。
「いつのまに…」「まさかおじさん。クイズやるき?」
「何の意味も無い事だ…」
双子の言葉を裏切って、風はただそれだけしか言わなかった。
「意味…?……ああそう…そうなんだ…私と同じカモフラージュなんだ…」
しかし、リサは風の言葉の意図を掴み…そして答えを導き出した。
「どうやら答えられないようじゃな!」
「…いいえ…答えなんかないのよ。はじめっから!それが答えよ!
 訳のわからない言葉を並べて正解にする気なんかない…
 全て誤魔化していただけなんだわ!」
「…よもや答える者がおったとは……」
リサの答えにソモサンは顔を歪め、扇子を握り締めた。
「リサ…っ」「すごーい!」
思わず歓喜の声を上げる双子。しかし、まだ疾風の表情は鋭いまま。
「私の勝ちだわ!さあ潜航艇を!」
「…童が負ける時はこのキューブが滅びる時…無論!お前達も道連れじゃ!」
ソモサンは絶望的な言葉を残し、光となって消えて行った。
「騙したのね!」
リサの声。しかし、その声ももはやソモサンには届かなかった。
ゴゴゴゴゴッ
潜航艇が大きく揺れ、天井からは水が溢れ出した。
「どうしても護りたい命…そのためになら止めません…貴方の命の氣を使う事を…」
母の声を聞き、リサは己の命をかける決意をした。
ポトン……
水の水滴が落ち、リサのいた場所が水に浮上する。
「ハアァァ……(溢れる水の氣よ…私の命を氣のエネルギーに変えて!)」
リサの氣現術に反応して、水が大きく姿を変えた。
それはまさに召喚獣の如く、ジェーンを水の上にと上げていった。
しかし、命を使ったリサは眼を閉じ、ユックリと水に身体を落とそうとしていた、
(ゴメンネ…アイ、ユウ…
 貴方達をお父さんとお母さんのところに連れてくまで頑張ろうと思っていたのに…
 ゴメンネ…)
リサの心の声…彼女に後悔はない……
ただ、命を護れた事を誇りに思ってるようだった……
そんなリサの身体は…誰かの手に受け止められた事をリサは知らない……


「「リサッ!」」
リサが眼を覚ますと、ジェーンの中。
回りにはアイやユウ、コモディーンの皆がいた。
「リサー!」
嬉しさのあまり抱き付くアイ。
それを受け止めたリサは不思議な思いを口に出した。
「私生きてる…?命の氣を使ったのに…」
「恐らくリサさんの命の氣が異界の水と反応して大きなエネルギーを生んだのでしょ う」
その気持ちを教えるように、シドが明確に説明をした。
「召喚獣みたいだったよ!」「リサが作ったから氣現獣だね!」
「ありがとう」
「エヘッ…」
嬉しそうな双子の声、そしてナーヴの謝礼にリサは思わず顔を綻ばせた。
「あれ?その笑顔…出来るんじゃない。ほんとの笑顔。そっちのが良いよ」
「エヘッ…」
ミィレイの言葉を聞き、ますます嬉しそうに顔を綻ばさせるリサ。
「はっ…!風は!?」
黒き男がいない事に気づき、首を左右に動かすリサ。
「一緒だよ」「ほら、あそこ」
アイの指差した方向には壁に寄り掛かっていた風と
その風に寄り掛かるように眠っていた疾風がいた。
風はリサと眼が合うと、視線を逸らし、疾風を見つめ始めた。
「あの子……人が苦労したのに……寝てるなんて……」
そう思うと少し、腹ただしい気持ちになったが、アイがそれを否定するように
「リサーそれはないんじゃないの?疾風はリサに自分の氣を分けてくれたんだから さー」
確かにアイの言うとおり、命の氣が減った感じがしないし、
何より躯の中から別の氣を感じられる。
二人に感謝の気持ちをこめるように、リサはほくそえんだ。
そして……ジェーンは行く。海パズルの中を。
「ふん…第一ステージクリアですか…」
城では、ピストの残念そうな声が聞こえる。
「それでは!引き続きいってみましょう!第二ステージ!」
しかし、次のステージに誘おうと、再び海パズルは起動を始めるのだった………


予言します。
負けないで疾風。
海パズルの謎を解いて
迷い人達を混沌の吹雪から救えるのは貴方だけなのです。

『破壊 ―さつりくにんぎょう―』
次回もアンリミデットな導きを………




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