異界の夜へようこそ・・

私はファーブラ『導く者』

タイラント伯爵に仕えるガウディウム五凱将

彼らの目的は伯爵を神の座へ就かせる事

その為に互いに競い合いながらも仕事をしていく

そんな彼らの前に現れた者達、その名は・・・


『四幻将〜あらたなるてき〜』


青い空、白い雲、太陽がサンサンと輝いている

ここが異界という事を忘れてしまいそうなほどに美しい花畑



そこに少し不釣合いな者がいた

元・ガウディウム五凱将の一人フングス

ちょうど今、何かを大きな風呂敷に包んでいるところだった

「よし、これぐらい集めれば伯爵閣下も許して下さるだろう!」

布は中に入っている物の量の多さが一目でわかるほどに膨れていた

中に入っている物は彼が必死の思いで集めたオメガの欠片

小さい物はビー玉程の大きさで大きい物はビーチボール大まで

どうやら、風を倒せなかったので代わりにオメガの欠片を集める事にしたらしい

「・・・死ぬ気になってやってみれば何だって出来るものだな」

ピーッとパイプを吹かすフングス

実際、オメガと戦い何回もやられていたのだか・・・

そこはフングスだけが持つ『不死身』の特権なのだろう

「さて、後はガウディウムに帰還するだけなのだがな・・・・・・・」

今の彼はガウディウムに帰る為の移動手段を持っていなかったのである

このままでは帰れない。そう思った時

上空を移動するタンポポの綿毛のような形をした物を発見したのだ

「あれはヘルバの飛行艇か! 丁度良い!」

すぐにフングスはヘルバに呼びかける

「おーい、ヘルバァ、聞こえるかー? 某も乗せて行ってくれぇー!」

その声に気付いたのか、ヘルバが飛行艇からゆっくりと下を見る

下の花畑にいた者は、大きく腕を振っているフングスだった

「あらぁ〜、フングスちゃんじゃないのぉ。
 オスカーちゃんの言うとおり、本当に生きてたのねぇん♪」

ヘルバはフングスに見えるように身を乗り出す

「おお、ヘルバ! 乗せて行ってくれるか!」

あのヘルバが珍しく自分の頼みを聞いてくれたと思ったフングス

しかし、返ってきた答えは

「ダァ〜メ! 負け犬ちゃんを乗せる場所なんて私の飛行艇には無いものぉ
 負け犬ちゃんは、負け犬ちゃんらしく一人で歩いて帰れば良いでしょ〜♪
 ・・・あと、私の花畑に勝手に入らないでくれる?
 私の可愛〜いお花ちゃん達がぁ、カビ臭くなっちゃうじゃない!」

ニヤニヤと笑うヘルバの暴言に次ぐ暴言にフングスの口元が僅かに歪む

が、グッと怒りを抑え込みパイプを一吹きした後、

フングスはオメガの欠片が入った袋をヘルバに見せる

「それなら・・・・このオメガの欠片でどうだ?」

その量の多さに、ヘルバは眼を光らせる

実は彼女、伯爵のためにとオメガ探索に出かけたのだが

収穫が全くの『0』だったのだ

しばらく悩んだ末、彼女は口を開いた

「ふぅ・・・まったく困ったちゃんねぇ
 そのオメガちゃんの欠片に感謝した方が良いわよぉん♪」

ヘルバが溜息混じりにそう言った

『つまりOK』、そうとったフングスはヘルバの飛行艇に乗り込む

「よし、では急いでガウディウムに帰還だ。全速前進!」

発信の合図のようにパイプからは勢いよく煙を噴出すフングス。

その煙に咳き込むヘルバ

「ちょっとフングスちゃん! 張り切るのは良いんだけどぉ、
 そのパイプ、ピープーうるさいから止めてくれる?」

ヘルバ手に持っているパラソルでフングスの頭をポンポンと叩く

するとフングスはパイプをヘルバに向け

甲高い音を立て胞子混じりの煙をわざと噴き上げる

胞子に塗れ真っ白になるヘルバ、それを横目でニヤリと笑うフングス

ヘルバのパラソルがフングスの頭を叩き潰すのにそう時間はかからなかった

そんな二人を乗せ、飛行艇はガウディウムへ向かって行った





数時間後、飛行艇はガウディウムに到着した

飛行艇を専用のドッグに止め、二人は要塞の入り口へと向かう

妖しく豪華な装飾が施してある巨大な扉

扉を開けずに、只々前に立つフングス

中に入るのをためらっている様にも見える

それを後ろから見ていたヘルバ

おもむろにフングスに近づき、手に持っていた風呂敷を奪う

「こっこら! いきなり何をするか!!?」

フングスは取り返そうとするが、ヘルバはそれを軽くよける

右なら左、左なら右へと、そんな単調な動作を何回も繰り返す二人

「あ〜あ、フングスちゃんたら臆病者ねぇ。
 伯爵様に会うのがそんなに恐いのぉ?
 あぁ、なるほどぉ! 何回も魔銃ちゃんに負けてたからぁ、
 性格まで負け犬ちゃんになちゃったのねぇ♪」

「な、何だと!?」

「伯爵様に会わないならぁ、このオメガちゃんの欠片はぜ〜んぶ
 ヘルバちゃんが貰っちゃうわよん♪」

扉を開け、風呂敷を持ったまま中に入って行くヘルバ

何を思ったか、途中まで歩いた所で急に振り向き落ち込むフングスに軽く言い放つ

「あ、伯爵様の事なら心配しなくてもいいわよぉん♪
 伯爵様にはぁ、このヘルバちゃんがついているもの
 どこかの負け犬ちゃんよりは、お役に立てるハズだもの♪」

そこまで言って再びヘルバは歩き始めた

嫌味の連続攻撃に呆然とするフングス



・・・反論などせぬ・・・・

ヘルバの言った事は間違いではない、某は閣下に会う事を恐れている

オメガの欠片を集めたからといっても、今までの数多い失態は決して消えるものでは ない

だが・・・



「・・・だが、伯爵閣下につかえる事! 某に出来る事はそれしか残っておらんのだ !!」

フングスは両手で自分の頬を2,3回叩くと口のパイプから煙を吹き上げる

気合を入れ終わると、急いでヘルバの後を追った

欠片が入った包みを片手にテンポ良く歩くヘルバ。

その後ろから聞こえてくる重い足音

足音に気付きヘルバはそぉ〜っと振り返った

後ろから来るのは落込んでいた先程とは違いいつもの調子に戻ったフングスだ

「コラァー! 待たんかヘルバァー!!」

「あらぁん? フングスちゃんたらもう元気になっちゃったの!?」

ヘルバに追い着くと持っていた包みをすぐさま取り上げた

「これは某が死ぬ思いをして伯爵閣下の為に集めた物だぞ!
 お前如きにやる物ではない!」

『お前如き』と言われたのが気に入らなかったらしい

ヘルバは口を『ヘ』の字に歪ませる

「もう、私の飛空挺に乗せて行ってあげる代わりに
 オメガちゃんの欠片をくれる約束でしょう?」

「む、そうだったな・・・・・・・しょうがない」

不本意そうな顔をしながらも袋の中から欠片を取り出す

「ほれ。これでいいだろう」

と言ってヘルバの手に乗せた欠片はテニスボール程の大きさ

期待していた大きさとあまりにも違い過ぎたのか、ヘルバは言葉を失う

「・・・あら・・・これって・・・・・・え?」

目を点にしているヘルバをそのままにしフングスは中央の大広間へと向かった

「ちょ、ちょっとぉ! 待ちなさいよぉー!!」

フングスの後を歩きながら次から次へと不満を言い続けるヘルバ

よくそんなに口が動くなと思いながらも、あえてそれを口に出さないフングス

薄暗闇の中、長廊下を歩く事約10分

二人はやっと大広間の扉前まで来た

扉を開ける前に深呼吸をするフングス

大きく息を吸って、吐くと同時にパイプからは長く静かに音と煙が出る

それを見ていたヘルバが横から文句を言ってくる

「まったく、入るなら早くお入りなさいよ! 臆病ちゃんねぇ!」

何を言っても反応しないフングスにヘルバは更に好き勝手な事を言う

「黙り込んじゃって、魔銃ちゃんに負けたのを伯爵様に
 なんて言い訳するか考えてるのかしらん?」

「バ、バカ者!!」

途端に顔を真っ赤にして怒るフングス。

パイプから怒涛の勢いで煙が吹き上がる

「黒き風に負けたのは某の力量不足の為、言い訳など誰がするものかッ!!」

手に持っていた包みをヘルバの眼前に突き出す

「見ろ、このオメガの欠片を! これほどの欠片を伯爵閣下に謙譲すれば
 某の五凱将復帰は確実!!
 運が良ければ、お前やピスト、オスカーよりも上の地位に就けるかも知れぬのだ ・・・」

「そ、そぉんな事、私は断ッッ固反対ですぞぉ!!!」

フングスが言葉を言い終わらない内に扉の向こうからピストが大声をあげた

しかし、何かおかしい。フングスの事を言っている様子ではない

二人は不思議に思い、息を潜め扉に耳を当てた

「ピスト、それは君が決める事じゃないよ。僕が決める事だ!」

次に聞こえてきたのはタイラント伯爵の声、何かを見下しているかの様な冷酷な声

「し、しかし、伯爵様には私・・・・もとい、四凱将がついているのですよ!
 それなのに、あぁそれなのに、外界から来た
 何処の馬の骨とも知れぬ者達を新しく使わすなど・・・・

そんな事したら、私達の立場というものが無いじゃあないですか!!?」

「・・・・!!!?」

ピストの話を聞いた二人は息を呑んだ

ヘルバの緑色の肌が見る見るうちに青ざめていく

しかし、フングスは無言で大広間の扉を開け一声、

「閣下、五凱将フングス、只今戻りました!!!」

背筋をピンと伸ばし、敬礼をしながら大広間全体に行き渡るような大声で帰還を報告 する

その後からヘルバも出て来る

先程の青ざめた表情を隠し、何も知らない様な装いをしながら

伯爵の方にフワフワと飛んでいく

「伯爵様、た・だ・い・まぁ♪」

ゆっくりと伯爵の隣に着地しニッコリと笑う。

しかし伯爵はヘルバを氷の様な眼差しで睨みつけた

その視線にヘルバの表情は一瞬固まる。

が、あくまで『いつも通り』を演じるヘルバ

「まぁ恐いお顔、一体どうなさったんですかぁ?」

「それは後で私が説明します!!
 そんな事よりヘルバ、オメガの欠片は見付けて来たんでしょうねッ!!?」

隣からピストがヘルバに問い掛ける

一見彼も普段通りだが、焦っているのは誤魔化せない

「欠片? ちゃぁんと見付けて来たわよ。ホラ!」

と言いながら自慢するかの様にフングスから貰ったテニスボール大のオメガの欠片を 取り出す

「キシャァアアァアアアァァ―――――――!!」

バッシャーン!!!

ヘルバが取り出した欠片を見た瞬間、

ピストは奇声を発し車内に溜まった海水の中に卒倒してしまった

海水の飛沫が周りに飛び散り、近くに居たフングスはそれをもろに浴びる

フングスはビショビショに濡れながらオスカーに聞いた

「・・・・・何かあったのか?」

「これはこれは、フングス様、お帰りなさいませ・・・・・・
 御故郷の事・・・・残念でございましたねぇ・・・」

一言そう小さく呟き、オスカーは身体をペコリと『く』の字に折りフングスにお辞儀 をする

「フングス様、ヘルバ様。お二人に御覧に入れたい物があるのです。
 クローチェ、『箱』を此処へ」

そう言ってオスカーが指を軽くパチンと鳴らすと奥の扉から

2mはあろう巨大な人形が大きい箱を抱えてやって来る

『クローチェ』と呼ばれたその人形が箱を床に降ろす、

すると箱は自動的に四つ面を開いていった

「こ・・・これは・・・・・!」

「ウソォん・・・・・・!!」

その中身を見てフングスとヘルバは愕然とする

巨大な箱に入っていた物

それは、魔剣士が持ってきた物の2〜3倍の大きさをもつ特大のオメガの欠片

その周りにはやや小振りだが何千何百という数の欠片が散りばめられていた

二人の反応をしげしげと眺め、仮面の下で不適に笑うオスカー

オメガの輝きに気がついたピストが身体を起こした途端、

「・・・たりない・・・ヘルバの持ってきた欠片と私が集めた欠片・・・・
 魔剣士の分を足したとしてもあいつらにゃあ追いつきませぇ―ん!!!!」

頭(?)を掻き乱し甲高い声で叫びだす

それと同時にピストの顔には出来立てのシチューが皿ごとぶつけられた

「だっっちゃぁぁああ―――っ!!!」

「うるさいよピスト! 食事が不味くなったじゃないか!!」

「も・・申し訳ございません伯爵様・・・」

ピストは赤くなった顔を抑えながらゆっくりとリムジンの中に潜っていった




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