前回までのあらすじ

ゲイトの口からガウディウムの目的が海達に聞かされる。
そしてその直後、四凱将の一人「ピスト」が現れ、海達を飛空艇のドックに閉じ込めた。
そこから出てきた人魚はソモサンの妹・・。
冒険は、始まったばかりである・・・・・・・・。

第6話 氣現獣〜もうひとりのつかいて〜

「貴様もガウディウムの者か!?」
ナーヴがソモサンの妹に向かって叫んだ。
「いいや、わらわはピストとやらに呼ばれただけ・・・。ガウディウムなぞ何の未練もない・・。」
ソモサンの妹は言った。
「・・・笑いを愛する・・・。とはどういう意味かな?」
ウォールはソモサンの妹の顔を見て言った。
「わらわをダジャレで笑わせてみよ・・・。」
「なんだとぉ!?」
ソモサンの妹が言うと同時に雨が声を半分裏返して言った。
「・・・・。そうか・・・ダジャレか・・・。」
海は不気味な笑みを浮かべながら呟いた。
「・・・げっ!!みんな!!手伝ってくれ!海を封じる!!」
雨は叫んだ。
「え〜なんで〜?」
アイは雨に聞いた。
「アッ・・・アイツは自称ダジャレの神とかほざいて常に寒いシャレをとばしまくって・・・げふっ!!」
雨は海の後頭部への一撃にうずくまった。
「アホか貴様はっ!俺は全世界で最もダジャレが面白い男だっ!「自称」ではなく「通称」だっ!!!」
海はさっきまでの冷静な時とは別人な程のハイテンションだった。
皆、この海の変わりように呆然としていた。
「・・・彼は・・・海さん・・・よね?」
リサはうずくまってる雨に聞いた。
「・・・うん・・・。全くの同一人物っす・・・。」
雨は涙目でリサの問いに答えた。
「ふふふ・・・。ソモサンの妹よ!この勝負!俺達の勝ちだっっ!!!」
海はソモサンの妹に言った。
「・・・なんという変わりようじゃ・・・。」
ソモサンの妹もその海の変わりように驚きを隠せなかった。
「一発でお前を笑わせ・・・むぐっ!!」
海はなんとか復帰した雨に取り押さえられた。
「この野郎!おとなしくしやがれ!!」
雨は海の動きと口を封じてシルヴィアの入り口に続く橋の柵に
あらかじめ持っていたロープと布巾で縛り付けた。
「むぐー!!もごげもごごげめ〜!!!」
海はじたばたしながら何かを必死で言っている。
「・・・さて・・・。始めようか・・。」
雨は言った。
「・・・そうじゃな・・・。」
ソモサンの妹はそう言うと長く伸びた爪で雨、ナーヴ、リサの3人を指差した。
「そこの3人のうち一人でも、わらわを笑わせる事が出来たら開放してやろう・・・。」
ソモサンの妹はニヤリと笑った。
「ダジャレか・・・。なら一番手は私だっ!」
ナーヴはいきおいよく言った。
「がんばって!」
「ソッコーで笑わせてくれよ!」
「がんばれーっ!!」
「がんばってよ!ナーヴ!!」
リサ、雨、アイ、ユウはナーヴを励ました。
「・・・・・・。」
「風・・・。海が・・・気になる・・・よな・・。」
風とウォールはじたばたとしている海のほうを向いていた。
「・・・威勢のいいことよのう・・・・。」
ソモサンの妹はナーヴを見て言った。
「では・・・いくぞ・・・。・・・・カエルにびびったから帰る!!!」
ナーヴはカエルを題材にしたダジャレをソモサンの妹に向かって叫んだ。
しかし
「・・・・・・・・・・・・・・・寒い!!!!」
ソモサンの妹は眉間にしわをよせて手を振りかざし、ナーヴを水に変えた。
「なにっ!!?」
「なんですって!!?」
雨とリサは弾けて水になったナーヴを見て、驚いた。
「・・・そうそう・・・。
 言い忘れておったがわらわを笑わせない者は水となってもらう。が、殺しはせぬぞ・・・。」
ソモサンの妹は不気味に笑いながら言った。
「くそ・・・。本当か・・?」
雨は怒った顔で言った。するとリサが
「ええ、本当よ。まだナーヴの「氣」が消えてない・・。」
「・・・次は俺だ!」
雨は言った。
「ほっほっほ・・・・・。」
ソモサンの妹はあざ笑った。
「あっ!!お前今笑ったなっ!!!!」
雨が叫んだ。しかし、その言動はソモサンの妹の怒りを買ったのか
「ふん!この笑いは別じゃ!!わらわはダジャレで笑わせろと言った筈!罰じゃ!!」
そして、雨も水にされてしまった・・・。
「・・・さぁて・・・。最後はおぬしじゃ・・・。」
ソモサンの妹はリサの方を向いた。
「・・・・。」
「ほれほれ、どうした?はよう答えてみい!」
ソモサンの妹は挑発するかのように言った。
「・・・もうダメなのぉ・・・?」
アイは絶望的に言った。
「さぁさぁさぁ!!・・・ム?」
ソモサンの妹はリサを挑発するが、その目は「偽りの笑顔」を浮かべたリサがいた。
「・・・見苦しいのう・・・。・・・あと1分、時間をくれてやろう・・・。」
ソモサンの妹は怒りの表情でリサに言った。
「こらぁーリサー!!ちゃんと真面目にやれー!!!」
「お・・・おねぇちゃん・・・・・・。落ち着いて・・・。」
怒るアイをユウは止める。その頃海は
「(・・・このままではいかん・・・。)」
そう思い、常に両手首に忍ばせてあるナイフでロープを斬り始めた。
「(・・・・・・こんなことになるならもっと早めに斬っておけばよかった・・。)」
海は間に合ってくれという念をこめてナイフを動かし続けた。
「(・・・ロープがかたいな・・・。これはいかん・・。)」
「・・・・・。」
この必死の海を見ているのは、風だけであった。
「・・・もう・・・駄目なのか・・?」
ウォールは呟いた・・。
「あと10秒じゃ・・・。」
ソモサンの妹の声が響く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
風が立ち上がろうとする時、横からブツッという音が聞こえた。
海のロープがやっと切れた。
「(よしっ・・!)」
海は布巾を取ると一目散にリサの方へ行った。
「・・・。」
風は、上げた腰をまた下ろした。
「・・・時間切れじゃ・・・。」
ソモサンの妹が冷たく言い放つと同時に
「笑うな。」
という声が聞こえた。
「(風・・?)」
リサはそう思って振り向くとそこには
海が立っていた。
「・・・今は何の意味も持たぬ・・・。」
海は冷たく言うともう少し前進した。
「まさか、おぬしが代わりに言うとでも?」
ソモサンの妹は海を見下ろしながら言った。
「・・・クックック・・・ァアーッハッハッハ!!!当然だアホがっ!しかし貴様も運がない!」
海はまたハイテンションになり、ソモサンの妹を指差して叫んだ。
「なぜかというと・・・。この通称ダジャレの神!
 またの名を「ポーカーフェイス崩し」と呼ばれるこのワシ様がいるからだっっ!!」
海は続けて言った。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
海や水になってしまった者を除く全員が海の変わりように呆然としていた。
「・・・あれって・・・海・・・?」
「でしょうね・・・・・・・・。」
シルヴィア内ではミィレスとシドのこんなやりとりもあった。
「面白い・・・。ではおぬしがその小娘に代わってわらわを笑わせてみよ!」
ソモサンの妹は扇子を握りしめて言った。
「ククク・・・。笑い死にするなよ・・・。
 では行くぞっ!!ピストのピストル、ピストン方式水鉄砲ー!!!」
海がそう叫ぶと辺りがまるで南極なのか錯覚する者も出た。しかし。
「・・・・・・・・・・・・・・・プッ・・・くくく・・・・・・・。ハァーッハッハッハ!!!」
ソモサンの妹はピストが「しゃーっしゃっしゃっしゃ」と笑いながら
その「水鉄砲」を乱射している光景を思い浮かべた。
「クク・・・わらわの負けじゃ・・・。」
ソモサンの妹は笑いをおさえながら言った。そして続いて
「しかし!ピストが言っておった!もし負けるようならば全員水死させよと!!」
ソモサンの妹はそう叫ぶとナーヴと雨を元に戻し、水のロープで全ての出入り口を塞いだ。
「・・・わらわを怨むでないぞ・・。怨むならばピストを怨め・・・。」
最後にそう言うとソモサンの妹は魔法「テレポ」を唱え、消え去った。
「うおぁ!あの野郎!!俺達をどざえもんにする気だなぁ!!」
雨が激怒しながら言った。
その傍らでリサは氣現術の構えを行っていた。
そして、リサの周りの水が淡い緑に輝く。
「ハァァ・・・・・・・・・・。
(あふれる水の氣よ・・・・・・・。私の命を氣の力に変えて!!)・・ハァッ!!!」
リサの氣現術で水が姿を変え、召喚獣のようになった。
その後、シルヴィアを縛っていた水も無くなった。
「い・・・今だ!」
シドはそう叫ぶとシルヴィアの発進スイッチを押し、その場でシルヴィアを飛空させた。
「・・・・・まさか・・・氣現獣?」
ウォールは呟いた。
そして、皆助かった。しかし、その後には悲劇がまっていた・・・。
「みんなぁ!大変!!リサがぁ!」
アイが勢いよく叫び、皆リサの方向に向きかえった。
皆の視線には倒れたリサの姿があった。
「リサ!しっかり!!」
側にいたミィレスがリサの上体を抱き起こした。
「・・・・・・・よかった・・・。みんな・・。生きてた・・・。」
リサは途切れ途切れに言った。
「よかったってちょっと待てよ!アンタは大丈夫なのかよ!?」
雨が叫んだ。
「・・・ごめん、私、もう・・・・ダメかもしれない・・・。」
「ウソでしょ・・・・・・・・・・・・・。ウソって言ってよリサぁ!!」
アイは大粒の涙をこぼしながら叫んだ。
当然、シルヴィア内の者も外にいる者も嘆きの顔をして、涙を流していた・・海を除いて・・・。
風も、その涙を隠そうと必死であった。
「(・・・・・・くそ・・・何故・・・何故こんな時にも涙が流せぬのだっ!!・・・)」
海はそう心の底から思っていた。
海は、泣く事が出来ないが、きっと心の中では泣いている・・・。
「・・・アイ、ユウ・・・・皆・・・。ごめん・・・・・。」
リサは涙を流しながら、微笑みながらそっと目を閉じた・・。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
ウォールはリサの頚動脈にそっと指をあてた。鼓動は・・無い。
「・・・もう・・・死んでいる・・・・・。」
ウォールは嘆きの顔で言った。
「やだ・・・・・・・やだぁあ!!!!!」
真っ先にアイが叫んだ。
そしてその直後に
「はあああぁあっっっ!!!!」
高い、少女のような声で氣現術特有の掛け声が飛空艇ドックに響いた。
そして、神々しい鳥のような半透明の氣現獣が現れ、リサの体に覆いかぶさり、消えた。
「・・・・・・うっ・・。」
リサがぴくりと動いた。
「・・・・まさか・・・・生き返った・・・・・・・?」
海が言った。
そして、リサは命をまた与えられた・・・。
「(・・・・・・・・・・・・。礼を言う・・・・。)」
海は少女の声のした所へ視線を向け、心の中でそう言った。

・・・・所変わって・・・・ここはガウディウム城。
モニターには助かったコモディーン達の姿があった。
「え〜、失敗したの〜。」
プリンをほおばる小さな子どもの声、その声の主こそガウディウムを統括するタイラント伯爵。
「んも〜う!ピストちゃんならやってくれるって信じてたのにぃ〜!」
いやらしい声でピストを見つめ、そう言ったのは
タイラント伯爵の傍らにいる四凱将の一人、ヘルバである。
「も・・・・・・・・申し訳御座いません・・。」
ピストは頭を下げた。
「・・・もういいよ。今度は魔剣士とゲイト、それにベルフェゴールを使うから。」
タイラント伯爵はイライラした口調で言った。
「・・・感謝する。」
華奢な体つきで白いミステリアの民族衣装を纏い、魔剣士と呼ばれた男「白い雲」は言った。
すると柱の近くに立っている黒服の男、ベルフェゴールが言った。
「・・・腑に落ちんな・・。伯爵、俺が人間嫌いなのは知っているはずだ。
 なのに何故ゲイトなどという人間と同行させる?」
「フフフ・・・それはね・・・・。オスカー。」
タイラント伯爵は仮面の男を見て言った。
「はい。それはですね、伯爵様はベルフェゴール様を信用しているからです。」
丁寧な口調でオスカーは言った。
「・・・俺のそのイライラをコモディーンの人間共で発散させるというハラか。」
ベルフェゴールは言った。
「うん、その通り。このごろ君も退屈そうだからね。」
「しかし向こうには魔神器使いが3人もいるぜ。」
タイラント伯爵が言ったすぐ後にデスペイアも言った。
「・・・ふん、いくら強力な武器を持っていようと所詮は人間、宝の持ち腐れだ。
 ・・・風というウィンダリア人を除いてはな・・・。」
ベルフェゴールは笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ、次に備えて今日は早く寝るとするか、ベルフェゴールさんよ。」
デスペイアはベルフェゴールに向かって言った。
「・・そうだな。」
ベルフェゴールはそう言うと自分の部屋へ入っていった。
そして、その夜は血のように赤い満月となった・・。

続く




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