前回までのあらすじ

支援組織「リベレーター」の本拠地に到着し、最初に出会ったあの2体の怪物やミドガルズオルム、
ガウディウムの刺客達の戦いでの疲れを癒す海達。
しかし、その安らぎも束の間・・・。
これから、あのゲイトや黒き風の宿敵、「白い雲」そして、
「ベルフェゴール」という男達の襲撃を受けるハメになってしまう・・・。
海達はまだ、その事を知らない・・・。
全ては、まだ始まったばかりである・・・。

謎〜あくまベルフェゴール〜

「・・・・ふわぁぁぁぁぁぁぁ〜。」
雨は気の抜けたあくびと共に起き上がった。
雨の朝は早い。外界の時間で言えば、朝の5時程に起きてしまう。
「・・・まだ寝てらぁ・・・。」
それに対して、海の朝は遅い。外界の時間で言えば、朝の10時程に起きる。
しかし、今日はそうではなかった。
「・・う・・・・・・・。」
海は右手で頭を押さえながら緩慢な動きで起き上がった。
海の右手には、青っぽい布が巻かれてある。
それは、人差し指の付け根より少し上から、手首まできっちりと巻かれてあった。
「おはよう、海。」
「ん・・・ああ・・・・・。」
髪を解きながら、海は言った。
海は寝癖をつけないため、眠るときは常に髪を全て後ろで結っている。
「早速だけど、俺、朝飯食ってくるわ。」
雨は寝巻きを脱ぎ捨て、少しの間その筋肉質だが華奢な、褐色の体をあらわにした。
そして、いつもの白い服に身を包むと、斧を入れてあるケースを取って部屋を後にした。
「・・・・。」
海も、よろよろと起き上がり、洗面台へ向かった。
勢い良く水を出すと、海は顔を洗い、後ろ髪を濡らした。
「・・・・・・・・・・・よし!」
海も、雨を追うぞと言わんばかりのすばやい動作で、いつもの黒服に身を包む。
すると

カシャン!

「あ。」
軽い金属の音がして、海は反射的に床に目をやった。
音の正体はあのコモディーンの隠れ家で海を縛っていたロープを切ったリストナイフだった。
「・・・(いかんいかん・・・。)」
海はそそくさとナイフを拾い、愛用の槍を入れてある黒い袋を手に取り、部屋を後にした。
部屋を出たと同時に、シドが隣の部屋から出てきた。
「あ、おはようございます。」
「ああ・・・。いきなりですまぬが、食堂は?」
「食堂ですか?僕も行きますから一緒に行きましょう。」
海は、シドのさそいにのり、2人で食堂へと向かった。
「・・・まるでホテルだな・・・。」
海は辺りを見渡しながら言った。
「そうですね。外界のホテルもこんなんでしょ?」
「まぁな。」
「そういえば雨さんってここに来るのは初めてでしょ?迷ってないかな・・・。」
「その心配は皆無だ。あやつは食堂を見つけるのが得意でな、今頃大量に食っておるぞ。」
こんな何気ない会話を交わしながらも、2人は食堂に着いた。
そこには海の言ったとおり、山ほどの食料を全てたいらげた雨の姿があった。
「・・・・・・・・・・・・。」
「はは・・・・。雨さんって、すごい大食漢ですね・・・。」
シドは苦笑いしながら言った。
「・・・さて、食うか。」
海は呆れた表情でテーブルへ向かった。

一方、ガウディウムでは・・・。

「じゃ、気をつけてね〜。」
「大手柄、待ってるわよ♪」
タイラント伯爵とヘルバは、まるで仲のいい友人同士のように声を合わせて言った。
「ふん、こっちに人間がいる限り、大手柄の可能性は薄いがね・・・。」
ベルフェゴールはゲイトのほうを見て嘲るように言った。
「・・・それはどうかな・・・。」
ゲイトはにやりと笑みを浮かばせて言った。
「・・・口だけは達者だ。」
「まぁまぁベルさん、ゲイトはただの人間じゃねぇって知ってんだろ?」
デスペイアはフォローをかけるように言った。
「まぁ、前回のように負け犬にならんように頑張るんだな。」
後ろの方でピストが皮肉るように言い放った、それを聞いたベルフェゴールは激怒し、
ピストのほうへ氣現術に近い技で攻撃した。
「うわぁっ!!!!」
水の飛び散る音と共にベルフェゴールが叫んだ。
「黙れ!!二度と「負け犬」などと言ってみろ!たとえ貴様が人間でなくとも容赦せんぞ!!!」
「ベルフェゴールさま、そんなにお怒りになさらず・・・。」
オスカーはベルフェゴールを沈めるように言った。
「大丈夫かい?ピスト?」
タイラント伯爵は困ったような顔で尋ねた。
「う・・・大丈夫です・・・。」
ピストは体を元に戻しながら言った。
「ベルフェゴールは君よりも強いんだから動物をバカにするような言葉は禁句だよ。」
「忘れておりました・・・・・・。」
「・・・時間を無駄にしてしまったな・・・。」
ベルフェゴールが独り言を言うとオスカーが答えるように言った。
「おっと、そうでしたね。では、もう一度ダーゲットを確認します。
黒き風とあと2人の魔神器使い、そしてナーヴとマーツです。」
「わかった。」
「・・・承知した。」
「そうか・・・。」
ゲイト、魔剣士、そしてベルフェゴールがほぼ同時に言った。
「では、行ってらっしゃいませ。」
オスカーがそう言うとテレポストーンの割れる音が3回、不規則な時間差で聞こえた。

そして、海達やコモディーンは朝食を終えて、
リベレーターの飛空艇ドックに停泊させてあるシルヴィアの方へと行った。
コモディーンのドックと同じく、外界のような青い空が見える。
「では、私達は一旦隠れ家へ戻る。」
「ああ、気をつけて・・・。」
ナーヴとマーツは短い会話を交わした後、ナーヴは皆をシルヴィアに乗るよう指示を出し、
マーツはシルヴィアを出航させるために、リベレーター兵士に合図した。
しかし、その瞬間

ズガァァァァン!!

何かが上から落ちてきてシルヴィアの動力部を破壊した。
「シルヴィアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」
シドは発狂したかのように目を充血させ、涙を滝のように流した。
だが、シドの顔つきは再び、あのデスペイアが雨の斧を蹴った直後の顔と同じ・・・
いやそれ以上の「鬼の形相」になっていた。
「こんっの野郎!!よくも俺のシルヴィアを!!・・・アルティメットハンマー!!!!!」
シドは背中から再び巨大なハンマーをコントローラーで出した。
「・・・なぁ、いっつも思うんだけどよ・・・。あのハンマーってどっから出してんだろうな・・・。」
雨が海にひっそりと耳打ちした。
「・・・・・・・・魔法だ・・・!」
海は小さくも確信したかのような声で雨に言った。
「うおおおおおおお!!!っりゃああ!!」

ガンッ!!!

「よっしゃあー!!」
ハンマーの巨大な音がして、シドはシルヴィアを傷つけた者を叩き潰したかのように見えた。
「!!?」
「クックック・・・こんなハンマーごときで俺を殺せるとでも思ったか・・・人間め・・・。」
その姿は、ベルフェゴールだった。
背中には悪魔のような翼が生え、それのみでアルティメットハンマーを抑えている。
「ふん!!」
「うわぁっ!!!」
ベルフェゴールは武術の技の一つ「抜き手」を放った。それは距離が離れすぎて手は届かぬものの、
ピストに放ったものと同じ、氣現術のような技でシドをはねのけ、気絶させた。
「シドっ!!」
吹き飛んだシドをミィレスが受け止めた。
「あれは!?」
「氣現術?!」
リサと海が同時に言った。
ベルフェゴールはそれに答えるように、そして無知をあざ笑うかのように言った。
「くっくっく・・・これは俺が氣現術を素に作った技だ・・・。」
「って、んなこたぁどーでもいいんだよ!!テメェ誰だ!?」
雨がベルフェゴールに向かって叫んだ。
「・・・チッ、初対面の者にいきなり罵倒か・・・これだから人間は・・・。
まぁいい、俺はベルフェゴール。人間嫌いの悪魔だ・・・。お前達の目標、ガウディウムの所属だ。」
ベルフェゴールは冷たい視線で言った。
「・・・・七つの大罪・・・。その一つの「怠惰(たいだ)」を司る者だな・・・。」
「ほう、よく知っているな・・・。」
海は少年時代、神話に詳しい人物と知り合いになった事がある。
その為、神話自体に興味は無いが、なかなか神話に詳しい。
「え?ベルフェゴールって便器に座ってる悪魔?」
「ああ。」
「プッ!」
雨の唐突な問いかけに海は冷静に答え、それを聞いたアイはこらえきれずにふき出してしまった。
「・・・ふん、相手の変わった部分を徹底的に侮辱する。これも人間の特徴だ。」
ベルフェゴールは眉間にしわを寄せ、海と雨を見て言った。
「・・・てめぇ、どうやら海以上に人間嫌いらしいな・・・。」
「黙れ。人間嫌いは真実だがお前如きに言われる筋合いは無い。」
雨が苦笑いをしつつベルフェゴールに言ったが、
ベルフェゴールは左手で持っている十字剣「フラガラッハ」を肩に乗せて言った。
「・・・その剣は・・・。」
海はフラガラッハを見て少し驚いたような口調で言った。
「ほう・・・お前はいろいろと知っているようだな。これは「太陽神器」のひとつ、
「十字剣フラガラッハ(復讐者)」だ。」
ベルフェゴールはフラガラッハに目を向けて言った。
「・・・・・。」
風は視線を横にやり、唐突に赤いショットガンをその方向に構えた。
「えっ?」
殆どの者が臨戦態勢をくずし、ショットガンの銃口の向く方向へ目をやった。
そして、その方向には魔剣士「白い雲」が立っていた。
「・・・誰?あの女の子・・・?頭から角生えてるし・・・俺みたいに白い服着てるし・・・。」
「・・・ミステリア人・・・。」
雨が言った直後、海が言った。
「雨さん、魔剣士は男だよ。」
「まじ!?」
ユウが言ってくれなかったら雨はずっと魔剣士を女だと思っていただろう。
「・・・・白い・・・・雲・・・。」
「・・・・黒き・・・・風・・・。・・・相変わらず、素敵だね・・・・・・。」
風と魔剣士は短い会話を交わし、それからわずかな間、にらみ合っていた。
「あああっ!!風様が危ない!!」
ウェッジの傍らにいたルーが叫んだ。
「ウェッジさん!鏡!」
「え?あ、おう!わかった!!鏡じゃねぇけど自分の目は見れるだろ。」
ウェッジは少し動揺したが、すぐに腰にあるナイフを抜き取り、ルーに渡した。
「狼になるつもりだろうが、そうはいかん!」

ドン!!!

聞きなれた低い声がマーツ達の背後から聞こえると同時に風のショットガンの銃声に酷似した銃声が鳴り響いた。
声の主は、やはりゲイトだった。
ゲイトはいつものグロック17とはまた別の、
風のショットガンよりやや短い、そして緑色の異界製の銃「マシンガン」を左手に持っていた。
「きゃあっ!!」
銃弾はルーの右肩に命中し、ルーはその場に倒れた。
「兄さん!!」
ウォールはゲイトに向かって叫んだ。
「フフフ・・・そのウェアウルフの少女には、これが有効だろう?」
ゲイトはそう言うと上着のポケットから銀の銃弾をとりだした。
「なっ・・・!銀の銃弾ではないか!!」
海は叫んだ。
「そうだ。これが有効とは知っていただろう。彼女は1時間ほどで死ぬ。早く治療してやる事だな・・・。」
ゲイトは冷徹な笑みを浮かべて言った。
「ふざけるなこの外道が!!それでもウォールの兄か!
 こんな少女にそんな冷徹な事をしていいとでも思っているのか!!」
海は激怒し、ゲイトに向かって怒鳴り散らした。
「クックック・・・本来ならばそれは万死に値する罪だ。
 だが、人間共に手を貸すならばたとえウェアウルフであろうと容赦せん!」
ベルフェゴールが言った。
「許さん!!」
マーツが外套を脱ぎ捨て、ミスリルソードを抜き放とうとした直後、
「待ちなっ!!!」
上から青年の声が聞こえ、皆、上を見上げた。
「何者だ!」
ベルフェゴールが叫んだ。
その男は、短めの赤毛に褐色の肌、そして青いレンズの色眼鏡をしていた。
身長は海よりも高いくらいだろうか。
そして左利きなのだろうか、左手にメリケンサックをつけていた。
「・・・まさか・・・。」
海は呟いた。
「俺の名は「銅の波」!その背広の野郎に用がある!!」
「銅の波」と言った男は、立っていた所から飛び降り、ゲイトの近くに着地した。
そしてすばやくゲイトのほうへ立ち上がりつつ向き直ると指をさして叫んだ
「おいお前!それでも紳士か!こんな年端も行かないコに銀の弾なんてぶちこみやがって!」
「それがどうした、任務遂行の為だ!貴様も命が惜しければ立ち去れ!!」
ゲイトは波にマシンガンをつきつけて言ったが、波は動揺もせずに言った。
「ふん!そんなモンで俺を止められるとでも思ったか!俺はなぁ!魔神器のひとつ、「魔爪」を持つ男だぜ!」
波は左手のメリケンサックを突き出し、解凍させた。
「お前こそ命が惜しければさっさと立ち去れ!!」
波は「魔爪」を解凍した直後、ゲイトの背後に回った。
「なにいっ!?」
「・・・ほう、人間にしてはなかなか速い動作だ。」
動揺するゲイトを気にせず、ベルフェゴールは感心した。
「ん?なんだこりゃ?」
波もゲイトの首筋の青い物に気がつき、それを強引に剥がして、床に放り投げた。

ベリィッ!

「う・・・・・・ぐ・・が・・・・ぐあああ・・!」
ゲイトは首筋をおさえ、悶えた後に床に倒れた。
「チッ!おい魔剣士!奴がいては足手まといになる!退散だ!!」
「断る!」
ベルフェゴールが言ったが、魔剣士はすばやく拒否した。
「黙れ!!あのウィンダリア人との決着などこの場では無理だ!!一旦体制を立て直すぞ!!」
「・・・くっ・・。」
魔剣士はしぶしぶとベルフェゴールの指示に従った。
「待て!!」
風が魔剣士を捕らえようと走ったがそれよりも早く、2人はテレポストーンで逃げ帰った。
「・・・くそ・・・。」
風は不満な顔で言った。
「・・・ひとまず難を逃れたか・・・。」
マーツが落ち着いた口調で言った。
「兄貴!」
海が波に走り寄った。
「!」
波はその声に反応し、海のほうへ振り返った。
「ありがとう兄貴。・・・しかし兄貴が何故この異界へ・・?」
「・・・海さんに兄弟いたんだ・・・。」
ユウが言った。
「まぁね、あと、アイツらに妹がいるハズだけど。」
雨がユウに向かって言った。
「海さん・・・お兄さんなの?」
リサが海に近づいて言った。
「ああ、正真正銘の兄です。」
海がリサのほうへ向き直って言ったが、その直後の波の口からは想像もつかない言葉が出た。
「えっと・・・海くん・・だったよね・・・。すまねぇ、俺君と会うの初めてなんだけど・・・。」
「えっ?!」
皆、その波の発言に驚いた。
「まさか・・・。」
「ゴメン・・・俺、一週間ほど前の記憶ないんだ・・・。」
波は右手で頭を抱えながら言った。
「嘘だろう!俺はあんたの弟の銀の海だぞ!思い出さぬかっ!!」
海は波に向かって叫んだ。
「・・・マジかよ・・・。波君、記憶喪失かよ・・・。」
雨もその事にショックを隠せなかった。
「・・・ゴメン・・・。」
波のその言葉が出た直後、海は膝をつき、うなだれた。
「・・・嘘だろう・・・・兄貴・・・・。」
海は震える声で呟いた。
「うん!嘘だぜ!」
波は明るい口調できっぱりと言った。
「えっ!!!!?」
皆、さっきの数倍驚いた。
「じゃあ、まさか・・・・・・。」
海は顔を上げて言った。
「当然だ!!記憶はあるっ!!」
波は海にはっきりと言った。
「いや〜ゴメンゴメン、久しぶりに会ったからちょっと驚かそうとおもってよ〜。」
「・・・許さん・・・。」
「え?」
波が笑い上戸で言ってる途中、海が呟いた。
「そこへ直れ〜い!!成敗してくれる!!人を悲しませおってぇ!!」
海は冗談交じりの怒った声で波を追い回した。
「うわー!冗談だよ!!許せって!」
波は逃げつつ言った。
「・・・ははは・・・・・・・。」
リサと雨は苦笑いしていた。
「・・・早くお父さんとお母さん探して、海兄さんみたいにあんな風にしたいね。」
「うん・・・。」
雨とリサの傍らでアイとユウは言った。

また笑いのあふれる家庭に戻りたい。

それがこの双子の願いだった。
「・・・(でも・・・お父さんとお母さんが本当に記憶喪失だったら・・・。)」
ユウは一人で、不安になった。
「おい海!!はやくあのウェアウルフの女の子助けなきゃヤバイって!!」
波が言った。
「あ!!そうだった!はやく医療班をっっ!!!!」
海は波を追いかけるのを止め、焦った口調で言った。
「はやくせぬかっ!!!」
焦って頭に血が上った海はじだんだを踏みながら言った。
「・・・やっぱロリコンだ・・・・。」
雨は焦っている海を見て呟いた。
「・・・・・・。」
ウォールは倒れたゲイトをしばらく見て言った。
「・・・リーダー、兄さんも・・・・頼みます。」
「・・・・分かった。・・彼は恐らくその青い物で「人格改造」されていたようだからな。」
マーツはゲイトの側に落ちている、波の剥がした青い物を見ながら言った。
「・・・分かりました。」
ウォールはゲイトを担ぎ、青い物を手に取り、医務室へ急いだ。
「・・・まぁ、何とかなったな・・・。」
雨が独り言を言った。
「・・・でも、シルヴィアが・・・・。」
ユウがシルヴィアを見ながら言った。
「ああ。(・・・あのベルフェゴールって奴、かなり危ねぇな・・・。)」
雨がユウに答えるように言い、心の中でベルフェゴールを危険視した。
「おっと、みんな中に入ってく・・・。」
雨が独り言を言ってその場を立ち去った。

続く





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