前回までのあらすじ

ガウディウムの2度目の襲撃、それはこれまで以上に苦戦を強いられた。
風の宿敵である魔剣士「白い雲」、ウォールの兄であるゲイト、そして人間嫌いの悪魔ベルフェゴール・・・。
海達は彼らに圧倒されるが、そこに海の兄「銅の波」が現れ、難を逃れる。
しかし、波自身は自分の記憶を失っていた・・・かのように見えたがそれは海を驚かすための演技だった。

第9話 黒怨〜べつせかいからきたもの〜

「・・・本当にお世話になりました。」
海がマーツに向かって礼を言った。
この日は海達が再びコモディーンやリベレーターと別れ、旅を続ける日となった。
「ああ、また困った事があったらいつでも頼ってくれ。
 既に帰ってしまったコモディーンの皆も快く受け入れてくれるだろう。」
マーツは笑みを浮かべながら答えた。
ウォールはリベレーター本部の一室に寝かされている兄、ゲイトを見張らなければならないので今はいない。
「でも、シドさんは過労でブッ倒れちまったけどな・・・。」
雨が唐突に苦笑いを浮かべて言った。
「おい雨!それはシドさんに失礼であろう!」
「わりーわりー。」
まるで親子のような海と雨のやりとりに、マーツも波も、そしてビックスもウェッジも苦笑いを浮かべていた。
するとビックスがいきなり海に近寄ってきた。
「長旅なら少ないだろうが、この金も何かに役立ててくれ。」
と言いながら海に5万ギルを渡した。
「ああ、ありがとうございます。これでだいぶ旅も楽になりそうです。」
海は受け取ったギルをポケットにしまいこむと、ビックスに礼をした。
「では、また・・・。ウォールにもよろしく言っておいてください。」
「ああ、元気でな。」
「いつでも力になるぜ!」
海がそう言って雨や波と歩き始めると、マーツとウェッジはそれに答えるように言った。
そして、数歩歩いたとき、海がまた振り返って、頬を赤くして言った。
「ああ、あと・・・・・・ルーちゃんにもよろしく言っておいてください。」
「フッ・・・・分かった。」
マーツは、その意外な発言に動揺したのか、少し間をおいて答えた。
そして、3人は異界の大地に消えて行った。
「・・・・オイ海ぃ〜・・・。」
「・・・なんだ雨、そんなにニヤけて・・・。」
「やっぱお前ルーちゃんのコレか?!コレになるつもりかっ??!」
雨がふざけた口調で、小指を立てて海に言った。
「ばっ・・・・馬鹿者!!」
「そうか・・・海・・・・ますます変な趣味を持ったな・・・。」
「兄貴まで・・・!」
動揺している海をますます焦らせたのは、波のその発言だった。
そして、海は話題を変えようと波に問いかけた。
「・・・・で、何故兄貴はこの異界におるのだ?」
「あ、そういやそうだな。なんで波君ここにいるのさ?」
雨も続けて問いかけた。
すると波は待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべて答えた。
「それはな、この異界に珍しい楽器があるって聞いて、休みを利用して来てみたのさ。ほれ。」
そう言うと波は上着の内ポケットから変わった形の笛を取り出した。
「何コレ?笛?」
雨がその笛らしき物を見ながら言った。
「らしいよ、「ヒューメルーン」ってヤツ。」
波はそう言うとその笛をまた内ポケットにしまった。
「・・・・くっくるゆ〜・・・。」
その風景を、ある人形が上空から見ていた。
そして、その人形の見ている風景は、ガウディウムの者達も見ている。

「ふん・・・・人間共が、そうやってヘラヘラしていられるのも今のうちだ・・・。」
ベルフェゴールがフラガラッハの手入れをしながら言った。
「あ〜ら、ベルフェちゃん、怖い♪」
ヘルバがとぼけ口調でベルフェゴールに言った。
すると、オスカーがタイラント伯爵のもとへ食事を運んできた。
「伯爵様、今日はクアールのステーキでございます。「彼」から湧き出る「怨恨」で味付けしております。」
「うわぁ〜美味しそう!それに彼の怨恨が味わえるだなんて、最高だよ!!」
タイラント伯爵は、はしゃぎながら言った。
「さて・・・伯爵様、楽しいショーの始まりッスよ。」
デスペイアがタイラント伯爵の方に向き直って言った。

海達は池のある草原を歩いていた。
すると、いきなり池の中からモンスターが現れた。
「!!」
「うわあ!!」
「なっ!!?」
海も雨も波も、いきなりの出来事に驚いた。
「こいつ・・・ダハーカか?!」
波が戦闘態勢に入りながら言った。
「なぬ〜!?聞いた事ねぇけど強そう!!」
雨も斧を構えて、動揺した。
「とりあえず逃がしてくれそうもないようだな・・。」
海も、槍を構えて言った。
するとダハーカはいきなりそのナイフのような鉤爪で海に斬りつけた。
「くっ!!」
海は間一髪で避けたが、ダハーカはまた斬りかえしてきた。
「海っ!!」
雨が斧でダハーカの爪を弾いた。
「そういや・・・ダハーカって黒い物に集まる習性があるらしいぞ・・・。」
波が言った。
「何ぃ!?」
ダハーカは海ばかり狙ってきた。
海も、それを全て間一髪で避けているが、もうそろそろ体力の限界だ。
雨も波も、自分に気をひかせようと攻撃を試みるが、全く相手にされていない。

「・・・・あの黒コートのいやらしい動き・・・黒竜騎士か・・?」
ベルフェゴールが画面越しに呟いた。
「海・・・だったっけ・・?・・・
 それにしても「いやらしい」はねぇだろう・・最低でも「しなやか」って言ってやったらどう?」
デスペイアがベルフェゴールに向かって言った。
「ふん・・・表現などどうでもいい。」
ベルフェゴールはまた呟いた。

ダハーカは尾で海をたたき付けた。
海は、フィードバックしてダメージを軽減させたがそれでもダメージは大きい。
「ぐは・・っ!!」
海はその場に崩れ落ちた。
「海ぃー!!!」
雨も波も、海に向かって叫んだ。
ダハーカの硬い皮膚は、3人の攻撃を簡単に弾き飛ばしてしまい、3人には疲労のみが残った。
すると、海の背後から銃撃が来て、銃弾はダハーカに命中した。
銃弾は、ダハーカの体内にめり込むことなく、その場に落ちた。
海はそれを拾い、背後を見た。
「・・・ゴム弾・・?」
銃撃をした者は、右手に「カンプ・ピストル」という特殊な拳銃を持っていた。
黒い服に身を包み、髪は総髪。
右目は潰れているのか、閉じたままで、左目はうっすらと赤みを帯びていて、瞳は獣のように鋭かった。
すると男はダハーカを挑発するように言った。
「来いや・・・。」
ダハーカはその黒服の男に突進した。
だが、男はその突進を軽々とかわし、カンプ・ピストルにまた弾を込めた。
「・・・?カンプ・ピストルはトップブレーク式のはず・・?何故スイングアウト式に・・・?」
海は、よろよろと立ち上がり、ひとりごちた。
「へ?」
雨も波もその発言に疑問を感じた。
 ダハーカと黒服の男は、未だに戦闘を続けている。
「・・・そろそろ・・・トドメやな・・。」
男は、関西弁でそう言うと、腰に携えた刀を抜き放ち、構えた。
すると、男の右腕から黒いオーラのようなものが湧き出て、刀身はまるで凝固した血のように赤黒く染まった。
「・・・糞ガウディウムの尖兵が・・・。」
男の目が赤みを増す。
すると、男はまるで独楽のように刀を振り回してダハーカに突進した。
「桜華凶咲!!!」
男の刀は、まるで豆腐を斬るかのごとく、ダハーカの身体を切り刻んでいった。
そして、ダハーカの肉片は魔法独特の光を放ちながら消えた。
「・・・・・?」
3人は、何故ダハーカが消えたのか不思議に思った。

「うわ〜・・・俺特性のダハーカが殺られちまったよ・・・。」
デスペイアが頭を掻きながら言った。
「アイツか・・・・。」
ベルフェゴールがその黒服の男を見て呟いた。
どうやら、さっきのダハーカはデスペイアがダハーカを真似て作り出したものらしい。

「あ・・・すまねぇ・・・危ねぇトコを助けてもらって・・・。」
雨が黒服の男に話しかけた。
「どうも。」
男は雨の方を向くことなく、刀を拭きながら言った。
雨は、男に不思議な感じを覚えた。
髪型や目つきなどは似ても似つかず、声も海よりも低めの声だった。
しかし、体型や身長が海そっくりなのだ。
雨だけではない、波も、海本人も、不思議に思った。
「ホントありがとうな、なんてお礼すりゃいいか・・・。」
「俺はこの世界が大好きや・・・この自由で平和な世界を荒らすガウディウムが憎いだけや・・・。
 あのダハーカはガウディウムの糞共が作ったんや。」
男は雨の方に向き直って言った。
「え・・・じゃあアンタも、コモディーンかリベレーターの人?」
波が男に聞いた。
「いや。」
男は無愛想な返事をした。
「・・・まぁ、ありがとな、俺、「金の雨」。こいつが「銀の海」で、こっちがその兄貴の「銅の波」君。」
雨は、男に3人の自己紹介をした。
「・・・黒怨(こくえん)・・・。「黒い怨み」って描く・・・・。」
黒怨はそう言うと、南東へ向かって歩き出した。







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