前回までのあらすじ

リベレーターを後にし、異界を旅する雨、海、波は途中、
デスペイアの魔法で作られたダハーカに襲われる。
絶体絶命かと思いきや、突如現れた黒服の男「黒怨」に救われる。
一向は黒怨に礼を言うが、黒怨は無愛想な返事をすると南東へと歩き出した。


第10話 ジハード〜ぜつぼうのしゅんかん〜


数分ほど歩くと、街が見えてきた。
決して大きいとは言えないが、市場でも開かれているのか、賑やかだった。
「・・・・。」
黒怨は少し顔をしかめ、街の人ごみに中に消えていった。
「待ってくれよ!」
雨達は黒怨のあとを追った。
黒怨は市場で売られている品々に目も留めず、武器屋へ入っていった。
「おおっ!!さぁ行くぞ雨、兄貴!!」
海は目を輝かせた。
「はは・・・・。」
波ははしゃぐ海を見て苦笑いを浮かべた。
黒怨は銃が中心においてある場所で、何かを探しているようだった。
海は相変わらず、目を輝かせて店内の武器を見ていた。
「おぉ・・・・フランベルジュにテブテジュ・・・ああっ!サイフまであるではないか!」
海は次々に武器の名前を言った。
「フランベルジュ?テブテジュ?財布・・・・・?なぁ・・・何それ?」
波は武器の名前を言い続ける海に問いかけた。
「良くぞ聞いてくれた!フランベルジュとはこのように刃が曲がりくねっていて
 儀式用に使われる剣なのだが殺傷力は極めて高い!
 何せこの刃のおかげで斬れば肉は飛び散るわ刺せば傷口が広がるわで・・・。」
「もういいっす。」
波は途中から何がなんだか分からなくなってしまい、海を止めた。
「・・・(ゴム弾は品切れか・・・しゃあない・・・。)」
黒怨の目的はカンプ・ピストル用のゴム弾だったらしく、
それが無いと分かると次は海達のいる剣や槍が置いてある場所に移動した。
そして、無造作に手を伸ばして、懐紙を手に取り店主に差し出した。
「2000ギルで御座います。」
店主はソロバンを弾いて言った。
黒怨は2000ギルを店主に、無造作に手渡した。
すると、懐紙を懐に入れ、さっさと店を出て行った。
海の話に気をとられていた雨、波は黒怨が出て行った後に黒怨がいないことに気付いた。
「あれ・・・?黒怨は?」
波がふと気付いた。
「あ、いねぇ・・・。さっき紙かなんか買ってたけど・・・行っちまったのかな?」
雨が言った。
「紙?・・・おそらく懐紙を買いにきたのであろうな・・・。」
海が顎に手を当てて呟いた。
「懐紙?アレで鼻かむのか?」
波が海に呆れた表情で聞いた。
「あほうぅ!あれは刀についた血を拭き取るために使うのだ!」
海がとぼけた波に答えた。
「ふ〜ん・・・・まぁ、今日はバザールみたいだし、何か買ってこーぜ。」
雨が提案した。
2人は賛成し、武器屋を出ると色々な品を見て回った。
すると、雨に一人の少年がぶつかった。
「うおっ!」
ふと雨が見下ろすと、髪の赤い、褐色の肌をした赤目の少年がいた。
手に何か持っているようだった。
少年は一瞬雨の顔を見ると逃げるように去っていった。
雨は少年の行動に疑問を感じ、自然とポケットに手を入れた。
「・・・・?・・・・・・あ・・・・あああああぁああ!!!」
すると、ポケットにいつも入れている財布がなくなっていたのに気付いた。
「どうした雨ぇ!!」
海が驚くべき速さで雨の方に向き直った。
波はビクッとした。
「財布スられた!きっとさっきのガキだ!!」
雨はそう言うと少年の走っていった方向へ走っていった。
「・・・くっくるゆー・・・。」

所変わって、ガウディウム本拠地―。
クルクスが見ている風景が、そのまま大ホールの大鏡に映し出されていた。
「なぁ・・・ベルさん、あの赤毛のガキ・・・。」
天井から張り付いて見ているデスペイアが呟いた。
「ああ・・・・あの人間共に・・・・あいつも一緒か・・・。よし、デスペイア、行ってこい。」
ベルフェゴールがテレポストーンをデスペイアに投げ渡した。
「あいよ!そんじゃあ行ってくらぁ。」
デスペイアはそのまま刀でテレポストーンを砕いた。

そして、あの赤毛の少年は、街からそう遠くはない森の中にいた。
「はぁ・・・はぁ・・・・・。・・・へへへ・・・・。」
雨から掏った財布の中身を見て、少年は笑った。
すると、背後からテレポストーン独特の光が発せられ、デスペイアが現れた。
「おいボウズ、人のモン盗っちゃダメだってかーちゃんに教わらなかったか?」
デスペイアが嘲笑して言った。
「ワレが言えるような立場かコラ!」
そのデスペイアの背後から黒怨の声と共に斬撃が来た。
「うおっと!!」
デスペイアは肩に乗せてた刀で黒怨の斬撃を防いだ。
「・・・!」
「見つけたぞこんガキゃ〜!!」
少年は今のうちにと逃げ出そうとしたが、雨が殺意のオーラを纏って現れた。
「「子供相手に大人気ないぞ雨。」」
海と波が声を重ねて言った。
「く・・・。・・・で、デスペイア!!なんでテメェがここにいるんだよ!」
雨は落ち着きを取り戻し、デスペイアに詰め寄った。
「決まってるだろ、おめーらを殺りに来たのさ。ついでにあのガキもな。」
デスペイアは刀で海達と赤毛の少年を指した。
黒怨は、怨恨を刀に送り込み、デスペイアにその黒い切っ先を向けた。
「オイコラ。そいつらもそのガキもお前らに関係無い筈やぞ。
 ・・・まぁそんな奴等も平気で殺すのがお前らやけどな・・。」
「関係あるのさ、特にその赤毛で赤目のガキはな・・・。」
デスペイアが笑った。
「・・・魔神器・・・だろう?」
海が呟いた。
デスペイアと黒怨はその「魔神器」という言葉に反応した。
「あたり。まぁそのガキは俺たちが求めるモノなんだけどな。」
デスペイアが再び赤毛の少年に切っ先を向けた。
「待てやオイ!まさかガウディウムってのは海みてぇなロリコン集団じゃねーだろうな!?」
「アホかてめぇ!!」
雨が放った一言に、デスペイアは逆上した。
黒怨は後ろで「ざまーみろ」と言わんばかりの笑みを浮かべてデスペイアに向かって中指を立てた。
海は雨を睨んでいた。
「まぁいい・・・・・。とにかく、テメェら死んでもらうぜ!」
デスペイアは刀を構えて突進してきた。
「ちぃ!!」
黒怨もデスペイア目掛けて突っ込んだ。
「兄貴!俺と雨でコイツを食い止める故、その子を守ってくれ!」
海は槍でデスペイアの斬撃を受けながら言った。
そのスキに雨と黒怨が攻撃を繰り出したが、デスペイアの読みの速さで弾かれてしまった。
波は赤毛の少年の側に走りよって自分の手を少年の肩にまわした。
「あ・・・・。」
少年は、少しまごついた。

 「・・・・3対1か・・・人間共のやりそうな事だな・・・。」
大鏡からその光景をみていたベルフェゴールは業を煮やし、テレポストーンを手に取った。
「行くのか?」
大ホールにはベルフェゴールと魔剣士しかいない。
魔剣士は、ベルフェゴールに尋ねた。
「当然だ。このまま見過ごすなら俺は人間と同じだからな。お前も行くか?」
ベルフェゴールはフラガラッハを背負い、魔剣士に問いかけた。
「・・・私の標的は・・・。」
「フッ・・・わかった。」
ベルフェゴールはテレポストーンを床に落とすと、踏み潰した。
独特の光がベルフェゴールを包み、消した。

「ちぃ・・・・・・・。」
デスペイアも、疲れてきたのか、防御に徹するようになった。
「勝負あり・・・。」
黒怨が刀を突き立て、デスペイア目掛けて突進した。
すると、デスペイアの前にまたテレポストーンの光が発し、
ベルフェゴールが現れると同時にフラガラッハで黒怨の刺突を止めた。
「おお!ベルさん!」
「ちぃっ!ベルフェゴール!!」
黒怨は即座に離れ、カンプ・ピストルを懐から出した。
「・・・ククク・・・・。3対1とは、随分卑怯じゃないか、黒怨・・・。」
ベルフェゴールは、黒怨に言った。
「フン・・・俺はお前らを潰すならどんな卑怯な事もやる気やぞ・・。」
黒怨は両足からも怨恨を出し始めた。
「やれやれ・・・・・。デスペイア、まだあいつを召喚する気力はあるか?」
ベルフェゴールはデスペイアの方を向いて言った。
デスペイアは、汗を拭いながら笑った。
「ああ、まだまだ残ってるぜ・・。」
デスペイアがそう言うと、ベルフェゴールが海達に向き直った。
「お前たちは幸福で不幸だ・・・。何せデスペイアの切り札で殺されるのだからな・・・。」
ベルフェゴールは薄ら笑った。
「さあ!見せてやれ!!」
ベルフェゴールが叫ぶとデスペイアは右腕に魔力を集中した。
「うおおおぉお!!!」
デスペイアを中心に、びりびりと衝撃が伝わる。
木々が激しく揺れ、葉が舞い散る。

「なっ・・・・なんだぁ!!?」
街の住民達も、その衝撃を見て驚いていた。

「うああああああああ!!!」
デスペイアが地面に収束した魔力を叩きつけた。
激しい砂埃が舞う。
それを避ける為、ベルフェゴールは砂埃が舞う直前に飛び上がっていた。
砂埃が収まってきて、視界も良好になってきた。
「・・・なっ・・・・・・!?」
海達は、デスペイアの他に砂埃の中に身長は少なくとも3メートルはある巨大な生物を見た。
全身が灰色で、翼があり、両手足には紫色の鉤爪が生えて、枷のようなものがついている。
顔は目と思しき緑色の球体と、赤い水晶のようなものがあった。
デスペイアは、全身から発汗し、疲れきった表情をしていた。
だが、にやりと笑うと海達を指差した。
「ふぅ・・・・・どうだ?コイツが俺の切り札、「ジハード」だ!!」
ジハードは、不気味な咆哮をあげると、海達を睨みつけた。

続く





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