異界の夕暮れにようこそ
私はイヴ……見守る者……
異界を旅する2人の前に現れた
謎の男…
彼は一体……?

『草〜カゲトノデアイ〜』

白い閃光の後、
大地にモンスターが倒れた音で、
2人は正気を取り戻した。
男の右側には、ミステリアなどで良く見られる
形をした黒い剣が見えた…
彼は一撃でモンスターを倒したのだ!

「怪我は?」
茂みから出てきた二人に、男が振り向いて聞いた。
男は20歳ぐらいで、身長は2mほどはあるだろうか?
マントは赤紫、髪は真紅…右頬に大きな傷があり……
「大丈夫です。」
(金紅二輪……)
男の目を見、海が心で思った。
「すっげぇ〜!!一発だよ!!」
冷静に返事をした海とは対象的に、雨が騒ぎ立てた。
男はそんな騒ぎ立てる雨を
笑ったような、だが何処か懐かしむような目で見て、
「……なら良かった……。
もうすぐ街が見てくる…もう少しの辛抱だ…。」
と言った。

「チ、ちょっと待てよ!」
さっさと歩き出してしまった男を雨が呼びとめた、
「………?」
「あんた、名前は?」
振り返った男に雨が聞いた。
「……影……紅き影……。」
影と名乗った男が静かに言い、歩き出した。

影の言ったとおり、まもなく海達は街に到着した。
前に歩いていたはずの影の姿も街に入るなり見えなくなってしまった。

「すごいヤツだったなぁ!!?一撃だぜ!?一撃!」
海と一緒に宿を探していた雨は、
一撃でモンスターを倒した影の事を、
まだ五月蝿く感心していた。
海はその後ろで色々と考えをめぐらしていた。
「(金紅二輪……)」
「如何したんだよ海?さっきっから黙っちまって!」
海の様子が変だという事をようやく掴んだ雨が、
立ち止まって言った。
「いや、紅き影のことで、思い出したことがあってな……。」
海がうつむいたまま言った。
「なんだよお前!!あいつに会ったことあったのか!?」
「イヤ、そうゆう訳じゃないが…。」
だったら紹介しろよ!と言わんばかりの顔をした雨に、
海が苦笑しながら言った。


「影の眼を見たか?」
ベットに座って海が言った。
「あぁ、面白い眼だよなぁ!?外側が黄色で真中が真紅(アカ)なんていう色の眼!?」
雨はなんの疑いも無く影の眼について、
自分の知る限りの事を言った。
「あの眼のことをなんと言うか…知っているか?」
「ハァ?」
少し暗いような表情で言った海に、雨が首を傾げた。
「『金紅二輪』と言うのだ…あのような眼をな……。」
「キンコウニリンっ!!!?……ってなんだそれ?」
雨の反応に、海は苦笑した。

「金紅二輪というのは、外側が金、内側が紅と言う
 奇妙な瞳を持つ人間のことだ。」
海は淡々と語り出した。


昔から受け継がれている種族のようで、
古い伝記にも『金紅二輪』の名が出てくるほどだ。
金紅二輪を持つ種族は、昔は冥界の王『ハデス』の子孫だと言われ、
長い間差別されてきたと聞いた…。
その子孫達は、差別されたことで『人間』を嫌い、
悪魔のような性格になり、『人間』を虐殺する事も多い。
しかも、そのハデスの血は飛び火するため、
普通の『人間』のもとに生まれることもしばしばあったそうだ。
『人間』を虐殺する前に、その瞳を持った子供を殺さなければならない
ともあった……


「………本当か?」
海の話しを聞き終わった雨が立ったままで言った。
「あぁ…古い伝記だが、書いてある事は確かだ。
『今は無き世界』に子孫の生き残りがいると聞いていたのだが…。」
ベッドに座って話していた海がうつむいた。
「そうじゃねぇよ!」
「!!」
うつむいて言った海に、雨が言った。
「金紅二輪を持つヤツって人を嫌うんだろ!?
 だったら何でアイツは俺達を助けたんだ!?」
そういえば…
と、海は思った。

通常なら人間を嫌うはずの種族がなぜ人間である
俺等を助けたのか…海は考えてもいなかった。

「しかし、影がその種族であることには変わりはないのだ…。」
海のそのセリフを最後に、
あたりは重い空気が支配し、
気まずい沈黙が流れた。

そんな沈黙を破ったのが海だった。
海は立ちあがり部屋から出ようとした。
「オ、おい!何処行くんだよ!」
「……散歩だ…すぐ戻る……。」
そう言って部屋から出て行った。


外に出た海の頬を夜風がなで、その冷たさに海は首を縮めた。
夜の街もまたにぎやかだった。
到る所にある酒場からは陽気な音楽と、明るい笑い声が聞こえていた。


「……ックシュンッ…」
「!?」
海は建物の間で動く物を見つけた。
よく見てみると、それはマントにうずくまった影だった。
「影!」
「!……。」
海の声に、影は海をチラリと見たが、
そのまま、またマントにうすくまってしまった。
「…ここで寝るつもりですか?」
海が周りを警戒しながら、建物の間の中に入り、海の真横に片膝をついた。
「……そうだ…。」
目を閉じたまま静かに言った。
「寒くはないのですか?私達の泊まっている宿に――
「お前達には関係ない……。
俺に関わるとロクなことはないぞ……。」
「!?」
海の言葉を影がさえぎった。
影は海を睨みつけていた。
しかし睨みつけたその金紅二輪の瞳は、
海を突き放そうとする目ではなく、
海が信じられるかどうかを見ているような目だった。

「一つ聞く……それに答えろ…。」
唐突に影が言ったその言葉に、
海は驚きながらも、首を縦に振った。
「何故………俺に対してそんな態度を取る?」
影からの問いは、海の考えているものとは
また違ったものだった。
「私は……。」
海は、その問いに答えるための言葉を慎重に選び、
こう言った…。
「私達は、貴殿に命を救ってもらいましたゆえ……。」
「そうか……。」
まだ続けようとした海に、影が優しい目で言った。


そのころの雨は――

雨はベットに座って、今朝助けてもらった
影の事を考えていた。
「金紅二輪?……あいつが?」
雨はうつむきかげんでポツリと言った。

自分の事を優しい目付きで見た、
あの目を雨は疑う事が出来なかった……。
ふと、雨はその時影の目には、
優しさ以外のなにかの感情があるかのように
見えた事を思い出した……
まるで誰かと照らし合わせるかのように…。

そんな事を考えていた時、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「!……おかえり、う……!!!」
開いたドアの向うには、海とドアよりも背の高い人物がいた……
それは誰であろう『紅き影』だったのだ。




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