異界の夕暮れヘ…ようこそ…
私はイヴ…見守る者…。
街の外れに迫り来る巨大な陰…
これからなにが始まるのでしょう?

星〜ワザワイ〜

海達の部屋の朝は騒がしかった。
雨と影が二人して、腹を抱えて笑い転げていた。

「そんな大笑いをするでない!二人共!!」
大笑いの原因は海だった。
眠りから覚めた二人の目に、物凄い寝癖のたった
海が映ったのだ。
その海の寝癖に見慣れているはずの雨でさえも
その寝癖に爆笑している。

「毎朝こんななのか?…海は…?」
ヒィヒィ言いながら影は雨に聞いた。
「だまれっ!昨夜後ろに上げるの忘れたんだ!!」
「そう怒んなよ海…。」
顔を赤らめて行った海に雨はそう言うと、
また影と大声で笑った。

「影、お前これからどうするんだ?」
笑いの嵐が過ぎさって、身支度を始めた雨が、影に聞いた。
「…すぐに街を出るよ。
街はあまり長居したくないからね…。」
影は静かに答えた。
「そっか…俺等はどうする?」
影の答えを聞いた雨は、髪が元に戻った海を振り返って聞いた。
「俺等は街を出て、西ヘ向かおう。」
荷物をまとめながら、海は雨に淡々と言った。

「じゃ、またいつか会える日まで…。」
「えぇ…また会おうぞ…。」
「またな!!」
宿を出てすぐに雨と海は影と別れ、
影は北ヘ、二人は西へと歩き出した。

街を一歩離れると、そこは深い森林で
数歩歩けば、もう街の姿は見えなくなっていた。
最初に気配を感じ取ったのは海だった。
「雨…うかつに動くでないぞ…。
何かおる…。」
「…やっぱ何かいるか…。」
海よりも前を歩いていた雨もその気配に気付いていたらしく、
海の言葉にそう返し、立ち止まって辺りを見回した。

二人を取り巻く森林は、
不気味なほど暗く、静かで…
鳥の羽音さえも聞えなかった。

「!!!?」
「あっ!!?」
暫く辺りを警戒していた二人は、
頭上を通り過ぎた円形の飛空挺を見つけ、驚きの声を上げた。
その飛空挺は、あの街に向っていた。
「雨!走るぞ!!」
「おぅ!!」
海がそう言うと、二人は一目散に走り出した。

「さぁ〜て…どこにいるのぉ?
魔剣銃ちゃ〜ん♪」
海達の頭上を通り過ぎた飛空挺のロッジが開き、
そこから女性の声が響いてきた。
女性は、淡いピンク色と緑をベースとした服を着ていて、
今にも花咲きそうな頭をしている。
「ヘルバ!!」
海がその女性の姿を見るとそう言った。
その女性の名はヘルバと言うらしい…。
「あら〜!魔槍ちゃんに魔斧ちゃんじゃな〜い!
けど…今回はあなたたちじゃないのよぉ〜」
ヘルバは二人の姿を見つけると、体をくねらして言った。
「何だとぉ!!?」
「伯爵様に、真っ赤な髪の女の子を、
混沌の餌にしちゃえ〜って言われたの〜!」
と、反応した雨を兆発するかのような口調で言った。

「じゃあ、ハグハグちゃん!よろしくねぇ〜!」
と、ヘルバが言うと、飛空挺からモンスターエッグが落ち、
その土煙の中から、無数の触手が二人に向ってきた。
「うわっ!!」
「っく!!…。」
二人はその触手をそれぞれの魔神器を解凍し、
その攻撃を受け流した。
がしかし、触手の数が多く、次第に二人は押され始めた。
「畜生〜…数が多くて埒があかねぇ!」
雨が魔斧で触手を斬って言った。
「雨!無駄口を叩く出ないぞ!」
「わかってるって!……うわっ!!」
海のセリフに雨が答えた途端、
触手が雨の足をすくい、大きな隙が生まれた。
「雨!!!」
「うわあぁっ!!」
向ってくる触手から自分を守ろうと、
雨が自分を庇うように腕を上げたその時、
何発もの銃声が鳴り響き、触手を打ち落とした。
「!!」
「えっ!!?」
「ふふふ…来たわね?」
撃ち落された触手は、雨の周りに落ちたが
ピクリとも動かず、再生はしなかった。
「ずいぶん手荒な呼び出しだな?」
触手を撃ち落した人影は
紅い髪と紫の外套を風に靡かせ、
両手の二丁銃からは、煙がたちのぼっていた。
「ふふふ…やっと見つけたわよ…
魔剣銃ちゃんvv」
「魔剣銃!!?」
倒れた雨を起こしながら、
海はヘルバの言葉に反応した。
「…なんだそりゃ?」
雨は海の反応に驚いた。
「…ガウディウムではもうその名で呼ばれているのか…
迷惑だなっ!」
影が静かに言うと紅いショットガンを右手に構えてヘルバに向けた。
しかし、影の右腕には肘から手の甲までを
すっぽりと全て隠すように、金の筒のようなモノがついていた…。
そう…『黒き風』の魔銃のように…。

「…あれが…『魔剣銃』…。」
海が影の右腕を見ながら言った。
「だから!なんなんだよ!魔剣銃って!」
自分だけ取り残されたと思ったのか、
雨は半分怒って海に聞いた。
「『魔剣銃』は俺達の持っている『魔神器』に対のをなす
『黒魔神器』の一つで、
俺達の『魔神器』六つが一気に攻撃しても
勝てないほどの力を持つモノだ。」
海は手っ取り早く、かつわかりやすく雨に説明した。
「あ〜ら魔剣銃ちゃんたら、
魔槍ちゃんと魔斧ちゃんに、その武器の事話してなかったのぉ?
もうっ、恥かしがりやちゃんなんだからぁ〜。」
「五月蝿いっ!…さぁ、この訳のわからねぇ怪物をつれて、帰れ!」
影は砂煙が収まって全体の見えたモンスターを一瞥し、
ヘルバにみなおって言った。
モンスターはコスモスのような花を頭のように浮かし、
そのまわりを触手が何十本もうごめき、
時折、人の叫び声のような奇声を発していた。
「魔剣銃ちゃんったらひっどーい!
そんな事言うと、ハグハグしちゃうわよー!」
ヘルバが言い終るか終わらないうちに、
モンスターが奇声を上げ、その何十本もの触手をうねらせ、
雨、海、影の三人に攻撃をしかけてきた。

「うわっ!!」
「っく!!」
「!!」
雨と海はそれぞれの魔神器で触手を斬り、
影は二丁銃で触手を撃ち落していた。
しかし、触手の勢いは落ちるどころか、
ますます早くなり、三人はだんだんと
触手に囲まれて行った。

「さぁ〜…もう逃げられないわよぉ〜♪」
ヘルバが傘をクルクルと回して言った。
「!!」
「げっ!!」
「しまった!!」
三人は周りを触手で囲まれている事に気付くがもはやあとの祭り、
ヘルバの言う通り、逃げ道は無かった。
「さぁさぁ!…そのまま三人まとめて混沌のエサになっちゃえ〜!」
ヘルバが楽しそうな口調で、体をくねらせながら言った。
「そう簡単に…混沌のエサになるつもりはないっ!!」
影はそう叫ぶように言い、魔剣銃をズィと前につき出すと同時に、
魔剣銃が紅く光り出した。
「!!」
「魔剣銃が!!!」
海と雨が戦闘態勢を崩さずに影の行動に反応した。
「ソイル・ミスト!俺の力!!」
影は魔剣銃を『風』の様に、自分の前に構えて言うと、
魔剣銃を解凍し始めた。
解凍を始めてすぐに、影を中心にして凄まじい風があたりを吹き荒れた。
この凄まじい風は魔剣銃から出ている回転ブレードからだった。

「うくっ…(すっげぇ…。)」
「くっ…(これが…『黒魔神器』の力…。)」
海と雨の二人は、その暴風に飛ばされまいと
必死になりながらもそう思っていた。
一方、モンスターは暴風に驚き、攻撃をする事ができないようだった。

「…魔剣銃…解凍…。」
一瞬、影が激しく光ると、影の腕には、
『風』に似た銃が握られていた。
「いやぁ〜んvv魔剣銃ちゃんったら本気出しちゃって、コワ〜イvv」
ヘルバが体をクネクネと動かしながら言ったが、
影達はそれを聞き流していた。
「これが…『魔剣銃』…。」
「すっげぇ〜…『魔銃』みてぇ…。」
雨と海が影の『魔剣銃』を見、
それぞれがボソリと言った。
当の影は、ただヘルバとモンスターを睨んでいた。

いや、正しく言えば、ヘルバとモンスターの『方を向いている』と
言った方が良いだろう…。

影は『魔剣銃』を解凍する度、
『あの時』のことを思い出していた。

あの日、あの時…あの瞬間…自分は完全な『悪魔』だった…。
『アイ』する者を、自分はこの『魔剣銃』で殺した…
『あの瞬間』を…。

憎んでいるはずだ…自分の事を
怨んでいるはずだ…自分の事を
唯一自分を『アイ』してくれた『光』を殺した…

…今の自分に出来ること…
…今の自分が戦う理由…
…今の自分が『魔剣銃』を撃つ理由…

…今の自分が『生きる』理由――
――今の自分の…『存在』を…確立するためだから…

「貴様に相応しい召喚獣は決まったぜ!!」
影はそんな短い自問自答をした後、
ヘルバとモンスターを指差してそう叫び、
名を呼び始めた…。

「全てなる臨海点…バーニングゴールド!」
煌く金色をしたソイルが、鉄の弾ける音を響かせて、
魔剣銃のシリンダーの一つに入った。
「秘められし静かなる情熱…ディープバーミリオン!
灼熱の疾風…ウィンドクリムゾン!」
鮮やかな真紅と、焼けたような暗いオレンジのソイルが
残りのシリンダーに入り、シリンダーの側についた
円錐状のものが勢い良く回転し始めた。
辺りには、また風が吹き始め、影のその紅い髪や、
海のコートを降らしていた。
「そして…熱烈な曲により燃えるがいい…
白夜のコン・カローレ!!」
影は胸のホルダーから、微かにオレンジ色をしたミストの入った
ミスト瓶を取り出し、唄うと上に放り上げた。
「飛び散れ!召喚獣!!…ムンバ!!!」
影が魔剣銃を構え、ミスト瓶が丁度、銃口の前に来た時に
そう叫ぶように言うと、銃声が2度、少しずれて響き渡った。
一度目の銃声でミスト瓶が割れ、出てきたミストをまとうように、
二度目で出てきたソイルが螺旋運動をして
飛んで行くと激しく光り、
召喚獣ムンバがモンスターの前に姿を現した。

ムンバは鱗のある黄金の体をし、
三つの頭、鋭い牙、そして燃え盛る鬣と尾を持ち、
辺りに熱気を放っていた。
ムンバはモンスターを一瞥すると突進し、
モンスターをその炎で燃やし始め、辺りは火の海と化した。
「イヤ〜ン!あつ〜い!!」
ヘルバは燃やされては一大事と、
飛空挺を上昇させ、空の彼方へと消えて行った。

飛空挺が消え、その場には燃えるモンスターと三人が残された。
「海!止めだ!!」
飛空挺が消えたことを確認したかのように、
雨が海を振り向いて言った。
「わかっておる!」
雨のセリフに答えるように
海は自慢の脚力を利用し、勢いよく飛びあがった。
「桜華狂咲!!」
海の技でモンスターは両断され灰と化した。


「あ、影〜!!!」
街から離れ、森の獣道を歩いていた
雨と海は、森から出てきた影を見つけ、駆け寄った。
「おう…雨達か…。」
影は駆け寄って来た雨を見下ろすと、
微笑して言った。
「これから何処に行く?」
雨に追いついた海に、影が聞いた。
「このまま行って、エリザベートに乗るつもりだ。」
海が答えた。
「お前はどうするんだ?」
「俺か?…俺は…。」
雨に聞かれ、影は少し考えた。
「気ままに歩くさ…風の向くまま…。」
影がそう言うと、海達二人は『そうか』と言い、
また影と別れ歩き出した。

旅人はこれから何処へ行くのでしょう?
輝かしい未来を掴みに…?
残酷な過去を見かえる為に…?
それは誰にもわかりません…。

彼ら旅人に…
アンリミテッドな導きがあらんことを……





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