異界の夕暮れにようこそ
私はイヴ……見守る者……
ルッフェンダリア…幻影世界と懐けられたその世界は、
遠い昔に消滅してしまった、美しく悲しき世界。
その世界は、懐かしい雰囲気が、
懐かしい香りが、
懐かしい音が
辺りを包んでいました…。

『光〜ウツクシキセカイ〜』

その世界の道を走る一人の少年がいた…
その少年は片手に紙袋を持ち、
黒い髪と黒いマントをたなびかせて、
とある建物のなかに入っていった……。


「ただいまぁ!!」
少年が勢い良く部屋に飛び込んできた。
「おかえり〜、雨降りそうだったから、迎えに行こうかと思ったよ。」
奥の部屋から紅い髪をした女性が出てきた。
少年は『金色の光』、女性は『紅き影』
2人はこのルッフェンダリア一の戦士といわれている。
「いやぁ…ホント運が良かったよ!
いつ降られるかソワソワしながら歩いてたもん。」
光は紙袋をテーブルに置くとマントをその近くの椅子にかけた。
「お前は運が良いからな…
それに加え悪運も強いけど……。」
「貶すか誉めるかどっちかにしろぉ!」
からかうように言った影に、光は苦笑しながら言った。
2人は二日前に、遠征から帰ってきた所で、
しばらくはなんの予定もない。

暗い空から車軸を落すような雨が静かだった街を切裂いた。
「うわぁ〜…降ってきた降ってきた…。
雷鳴ってくれないかなぁ〜?」
「やっぱり変わってるなぁ?」
電車窓から空を見上げた影に、光が笑って言った
「ただいま。」
「ただいまぁ。」
外からずぶ濡れになった二人の男が、
雨をぬぐいながら入ってきた。
一人は右目の下と右耳に金のピアスをつけている
『黄土の大地』と言う男と、
もう一人は、蒼い目が印象的で、深緑色の髪を首の後ろで束ねている
彼は『蒼い草』と言う男だ。

「おかえりぃ〜。光ィ、タオル持ってきてやんなよ。」
「そのつもりだよ。」
二人の様子を見て、影が光に言った。
『大地』も『草』も、二人と同じ戦闘部隊『幻影石(ルッフェンロック)』の戦士達で、
四人は仲がよく、まるで兄弟家族のように振舞う為、
指揮官などからは『幻影家族(ルッフェンファミリア)』や、
『最強家族(ストレンジファミリアス)』と呼ばれることがしばしばあった。

「いやぁ〜、今回の遠征は大変やったなぁ?」
タオルを首にかけてソファーに座った大地が、話しを切り出した。
「確かに、あんな山奥にまで行くとは思いませんでしたよ。」
と、草が笑う。
何時もこんな風な感じで会話が始まる。
四人は全員同じ部屋で生活している。
それが『幻影家族(ルッフェンファミリア)』と呼ばれる原因でもあるのだが…。
四人は遠征を終えると、決まってリビングに集まり、
遠征時の話しをしている…。
そして何時もリーダー的存在の光が綺麗にまとめて終わるのがオチだ。
今回もまた何時ものように、光が綺麗にまとめて話が終わった。

「じゃあわいはもうそろそろ寝るわ。」
「じゃあ、私も…おやすみなさい。」
ソファーから立ち上がりながら言った大地に、
草も一緒に立ちあがった。
「オゥ、おやすみ〜。」
「おやすみ〜。」
そんな二人を光と影が見送った。


外は話を始めた時よりも酷く、雷も頻繁になり始めていた。
影は大きな電車窓の近くに座り、稲光の走る空をボケ〜っと見ていて、
光はその電車窓の前の長椅子に座り、本を読んでいた。
…あたりには雷と雨の音しか聞こえていなかったが、
気まずい雰囲気の沈黙ではなかった…。


「なぁ……影……。」
「!?…なに?」
唐突に、光が本と閉じ影を呼んだ。
「…………ちょっと…聞いて良いか?」
光が少し後ろを向きながら言った。
光がこんなにも静かに話しを始める事はあまりなかった。

「なんで自分は戦ってるんだ?って考えた事無いか…?」
光が静かに言った。
光がこんな話題を投げ掛けることはこれが初めてだった。
「…………ある…。」
影が電車窓のそとヘ視線を戻しながら言った。
「そうか…俺もあるんだ。」
光が長椅子に寝そべって言う。
「なんで俺はここで戦ってて、
戦って得るモノはなんで、戦って失うモノはなんだとか……
俺は戦う事で、一体何を護っているのかとか…。」
長椅子に寝そべった光は、今まで読んでいた本を胸の上に乗せ、
腕を頭の後ろに組んで、天井を見ていた。
「なぁ影……お前の戦う理由ってなんだ?」
寝そべった状態で光が聞いた。
「戦う理由ねぇ……。」
影がポツリと言った。
「お前には親族なんていないんだろ?
じゃなんで戦ってるんだ?
『悪魔』なんて言われて意味嫌われてるハズなのに…。」
「光!!!!!!」
影が起き上がった光の方を向き、大声で言った。
影に対して『悪魔』というのは禁句だったのを、光は忘れていたのだ。
「………ゴメン…。」
光が目線をおとして謝った。
「………確かに俺は『悪魔』と言われて忌み嫌われてきた……。
俺にも、なんでこの世界の為に戦ってるのかわかんねぇんだ…。
でも、ただ1つ確実に言えるのは、
俺は今ここに『存在』していて、俺はこの『世界』の為に戦ってる…
ただそれだけだ……。」
影が電車窓の外に視線を戻して言った。
「俺にとっての『戦い』は、俺の『存在理由』みたいなモンなんだ…。」
影が最後にそう言い、少しの沈黙が流れた。

外は、相変わらず稲光が走り、雷の轟音が鳴り響き、
風と雨が、窓を叩いていた。

「で、光……お前はどう思ってるんだ?」
沈黙を破ったのは影だった。
影は「自分だけ言わせるな!」
と言うような顔で光に聞いた。
「俺は……。」
影に聞かれて、光は少し考えた。
「俺はこの世界を護るためだけじゃなくて、
この世界で出会えたお前とかと、
どれだけ楽しい人生が送れて、
どれだけ潔く戦士として死ねるかって言うのが、
戦ってる理由かな…。
…マ、人間死んじまえば何も出来ないがな…。」
そう言うと、光はまたソファーに寝そべった。
「…光…人間ってな?」
「?」
影が窓の外を見ながら光に語り始めた。

「人間って言うのは不思議なモンでな?
人間が本当に『死』ぬときは、
身体が朽ち果てることでもなく、
墓標が立てられることじゃないんだ…。
その周りに居た奴等や家族、恋人とかに忘れられる事なんだよ……。」
稲光が照らし出した影の顔は
何処か淋しく優しい表情だった。
「……そうだな……。」
ソファーに寝そべりながら影の言葉を聞いていた光が微笑みながら言った、
そのすぐ後に、大きな振り子時計が一時の鐘を打った。

ルッフェンダリア消滅の時が近い事を…
知らせるかのように……。





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