地下鉄。 そこには、異界へと通じる列車が走っている――。 それは、ネット上の単なる噂の1つに過ぎなかったのかも知れない。 しかし今の二人――少女と少年――には、それが唯一の希望だった。 ピンク色の髪を高い位置でしばっている少女を“アイ”。 栗色の髪をした少年を“ユウ”。 彼等は、地下鉄がやってくることを信じていた。 それが、自分たちに残された、両親を捜す唯一の手段かも知れないから――。 そう、「異界へ行って来る。」と言葉を残して旅立った両親を捜すための――。 異界の夜に、ようこそ・・・。 私はファーブラ、導く者。 夜の地下鉄。それは、異界への道。 迷い人たちの旅は、今まさに始まろうとしています。 そして、彼等の知らないところで、大きな陰謀も動き始めようとしているのです――。 『 地下鉄 〜たびのはじまり〜 』 「ねぇ、お姉ちゃん・・・。」 真っ暗なプラットホームにユウの声が響く。 「何よ。」 アイが答えた。 「地下鉄なんて、本当に来るのかなあ・・・。」 その表情からは、疑惑と、焦りと、そして諦めの色がうかがえる。 「知らないわよ。でも、試して見なきゃ、わかんないでしょ!」 強い口調でアイに言われ、ユウは口をつぐんだ。 声が反響する音は、やがて消え、辺りはまた静寂に包まれる。 しかし、地下鉄がやってくる気配は一行にせずに、ただただ時間だけが過ぎていく。 「やっぱり駄目なのかなぁ・・・」 ユウが呟いた瞬間、 ・・・・・・タタン・・・タタン・・・・・・ 『?!』 突如、プラットホームに電車特有の振動が伝わった。 驚いている双子を尻目に、音は徐々に近づいてくる。 そして・・・ 「本当に、来た・・・!」 『地下鉄・・・!!』 ついに地下鉄は、その全貌を見せた。 同時刻――空中要塞、ガウディウム。 不可思議なオブジェやレリーフで装飾された謁見の間。 中央の浮遊玉座に座っているのは、一見、幼い少年。 この少年が、異界を支配しようと企む混沌の化身、 タイラント伯爵だと知っている者は少ないだろう。 ・・・カンッ・・・ 「ねえ、オスカー、また失敗したのぉ?」 不機嫌さをあらわにして、伯爵は言った。 彼の傍らには、先ほどオスカーと呼ばれた者がたたずんでいた。 「申し訳ありません、伯爵様・・・。」 オスカーは、上半身とおぼしき部分を垂直に折り、伯爵に頭を垂れた。 ・・・カンッ・・・ 「申し訳ないってねぇ〜。」 ・・・カンッッ! スプーンの先で、ひときわ激しく食器を打ち付けると、頬杖をついたままオスカーを睨みつける。 その瞳は、その姿に似つかわしくない冷徹さをたたえていた。 「もうこれで何回失敗したと思ってるの?・・・3回目だよ!」 伯爵は、今、異界のあちこちに飛び散っている『オメガ』の欠片を四凱将に探させていた。 オメガとは、存在するだけであらゆるものを破壊してしまう反物質のことだ。 しかし、そのオメガの力を抑えることが可能な物質が、異界には存在している。 テロス―――そこは、異界でも特に重要な場所として機能していた。 飛び水・・・・・・反物質であるオメガの力を封じることをできるそれは、 また、飛行艇の動力源となり、半永久的に使用できる。 かつて混沌がテロスを滅ぼさなかった理由としては、そのことが大きく関わっている。 伯爵はオメガが欲しかった。それ故に、飛び水が必要だった。 「しかし、あそこには少々厄介な者がおりまして・・・。」 身を起こすと、オスカーは言った。 「飛び水を手に入れようとする度に、その者に阻まれてしまうのです・・・。」 「それを何とかするのが君の役目だろう?早く飛び水を手に入れてきてよ! オメガを手に入れたって、あれがなきゃ意味無いんだから!」 伯爵は一気にまくし立てると、深々と玉座に体を沈めた。 「あ〜あ、もういらない。下げて。」 そして、パティシエたちに食事を下げるように命じた。 立腹のあまり、食事をとっていられるような状況ではなくなったのだ。 オスカーはしばし思案するような素振りを見せ、思いついたように、言った。 「ならば、カーラ様に任せてみてはいかがでしょうか?」 その提案に、伯爵の険しい表情は消え、喜々とした笑みが浮かんだ。 「そうだね。そうしたほうがいい。・・・カーラ。」 ・・・シュンッ 一人の少年が、どこからともなく伯爵の前に現れた。 その顔は、下を向いているため、伺い知ることはできない。 「カーラ。」 「・・・はい。」 伯爵に呼ばれ、跪いていた少年は立ち上がった。 「カーラ、ボクは今、飛び水が欲しいんだ。君なら手に入れられるよねぇ?」 口調こそは穏やかだが、その笑みは、手に入れられないと承知しない、と言外に語っている。 「・・・御意に・・・。」 カーラは片腕を折り、頭を垂れて礼をした。 そして現れたときのように、フッと消え去った。 その様子の一部始終を、オスカーは無言で眺めていた。 「さ〜てと、食事を摂り直そうかな。」 「はい、伯爵様・・・。」 ――予言します。 翼を持つ者。 彼は策略と計略に優れた伯爵の使者。 翼を持つ少年は、飛び水を手に入れるのでしょうか。 そして、テロスに待っているものとは・・・ 『 エア 〜テロスのかんりしゃ〜 』 次回もアンリミテッドな導きを・・・・・・。 |