「反抗期〜しられざるせいたい〜」 最近の雲は痩せすぎだ! あの腰、その腕、足に首。 全てに置いて細かった。 それというのも雲の好き嫌いの激しさに、どんどんと体重が減る一方。 タイラント達は、それをとても心配していた。 とくにフングスは、何か自分にできる事は無いかと一生懸命である。 毎日毎日、白のかっぽう着に身を包み、雲の為に献立を考えていた。 だが、雲は認めなかった。 「おい、魔剣士!食事の時間だぞ、下りて来い」 いつもの指定位置に、雲はいた。 だが、いらないと一言云い、下りようとする気配はまったく感じられなかった。 「いい加減にしろ!!!さぁ、早く降りてくるんだ!」 仕方無しに、しぶしぶとフングスのところへ来た。 雲はフングスが手にしているトレーの中身を覗くと、ほかほかと湯気が雲の顔を包み込んでいく。 それはフングス特製のクリームシチュー。 素材にこだわった、天下一品の料理だ! 雲はシチューをじっと見つめ、溜息をついた。 「・・・・・・こんなのいらないよ。もっとましな食べ物を作ってくれなきゃ、私は食べないよ」 べしゃっ!とフングスの顔面に投げつけた。 「あっちちちいいーーーーー!!!」 できたてのシチューはさぞかし熱かろう。 「こらー魔剣士!また食べ物を無駄にしやがったなぁ!いったい何が気に入らないんだ?おら、云ってみろ!」 怒りまくったフングスは大暴れしながら、ビシッと雲に人差し指を向ける。 「・・・私は・・・・・・猫舌だと云ってるだろ?それと、ニンジンが嫌だね。次からは抜いておいてくれよ」 つんっとそっぽを向き、フングスから去っていく。 その態度にフングスは更に怒り度を増していった。 「あぁもう、嫌だいやだーーー!!!何で某がこんな事をしなければならないんだ?」 大きくパイプを鳴らしながら、せっせと床にこぼれたシチューを拭いていった。 「面白い姿だねぇ、フングス?」 タイラントがクスクスと笑っていた。 「ぼくもやっていいかい?」 まだ残っているスープの皿を、フングスに投げつけようと構えだした。 「お止めください、食べ物を粗末にしてはいけませんぞーーーー!!!!」 またクスクスと笑いながら、わざと上品にスープを飲み出した。 「・・・冗談だよ、だってこれぼくの大好きなものだもん♪」 フングスは胸を撫で下ろし、次は雲に何を作ってやろうかと、懲りずに考えていた。 「魔剣士、さっさと下りて来い!」 いつものようにフングスは叫び、雲は自分の特等席に座りながら、うとうととしていた。 眠たい目を擦りながら、ちらっとフングスの方に目を向ける。 (・・・・・・・・・またか) 雲は瞳を閉じ、また眠ろうとする。 「マジでこっちに来い!まだ今日は何も口にしていないだろう?そんなんじゃ近いうちに身体壊しちまうぞ!」 「いいもん・・・・・、私なら別に平気・・・・・・・・」 ぼそっと雲は呟いた。 頭に怒りマ−クを飛ばしながら、雲を睨みつける。 「今・・・・何て云った?」 「何も・・・・・・。で、今回は何だい?」 フングスが諦めないので、よっこいしょ・・・と気だるそうに身体を起こし、飛び下りた。 ・・・・・・が、バランスを崩し床に足をつけた瞬間、しりもちをついてしまい、 それを見たタイラントは腹を抱えて笑いだした。 別に雲はそんな事どうでもよかった。 「おかしいな、何かフラつく・・・・・・・・・・」 フングスは後ろから雲を軽々と持ち上げ、立たせてあげた。 「ほらごらん、ちゃんと飯を食わないからこんな事になるんだ!さぁ、今日こそ食べてもらうからな。 今回はな、美味しい美味しい生クリーム入りのケーキだ!たくさん食えよ」 くんくんとケーキの香りをかぐ雲。 「さっ、受け取りな」 そしてまた雲は溜息をつき、ドキドキしながらフングスはケーキを勧める。 「・・・・・・これで、分からないと思ったのかい?まだまだだね、ニンジン・・・入れたでしょう? ってか、これニンジンケーキってやつだよね。嫌いだって云ってるだろう?」 バシッとトレーを叩き、ポンッとケーキが床に転がっていた。 ガ〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!! フングスはショックを受けた。 「こんなもの、食べ物じゃない!!」 さらに追い討ちをかけられ、そのケーキを力いっぱいに踏みつぶした。 「ギャァァァ〜〜〜〜〜〜〜!!某のキャロットケーキがぁ!!」 ペッチャンコのケーキに駆け寄るフングス。 「やっぱりそうなんだ。自分で云っちゃったね・・・・」 雲はまた自分の指定席へと登っていった。 ってか、登るのか? フングスは大泣きしながら、ペッチャンコのケーキの処理に取りかかった。 「ごめんな、某のケーキちゃん」 仕方無く、これは捨てる事になってしまった。 「あ〜ぁ、勿体無い。魔剣士、食べないのならぼくに頂戴。それに、少しは食べたらどうだい? 初めて会ったときからだいぶ痩せてきているよ。そのうち死んじゃうかもね」 とりあえず、タイラントも心配をしている。 雲は何も云わなかった。 というか、眠っていた。 「次こそは、ぜっ・・・・・・たいに食わせてやるぞ!!!!しかし、何を作れば・・・・」 自分の研究料理ノートをパラパラと捲った。 何度も雲の為に作っているうちに、フングスの料理の腕は確実に上がってきていた。 そうだ!と手を叩き、食材があるかどうか探しに行った。 そのころの雲・・・・・。 「・・・・・・・少々小腹がすいたな」 腰のベルトにとり付けられた、ミストの入ったビンの隣りのものを取り出した。 それは、五秒チャージ!と書いてある銀色の外装をした、チューブ式のゼリーだった。 「ジューーーーーーーーーーーー、ジュジュ〜〜!!・・・・・・・・フゥ、美味美味。これでもう今日はいらないな」 栄養はあるが、ちゃんと食事をとらないとね・・・・・・。 「よ〜し、完成だ!!これであの生意気な小僧も、きっと食ってくれるだろう♪」 ウキウキ気分でトレーに一品料理と飲料水を置き、雲のもとへ・・・。 ・・・・・・・・・・だが、雲はいつもの場所にはいなかった。 「自分の部屋へ行ったのか?」 フングスは雲の部屋へと向った。 「魔剣士、いるのか!?」 ドンドンと荒々しくドアをノックする。 少し立つと小さな声で、何だい?とドア越しに雲が答えた。 「食事だ、食事だーーーー!!食えよ、今度こそ食うんだぞ!!」 しかし雲は、ドアを開けなければ喋りもしなかった。 「ドアを開けろ、冷めちまうだろ?」 ギャーギャーと煩いので、雲はドアを開け、中へ入れずに廊下へと出た。 「私は眠いんだ。大きな声を出すのは止めてくれ・・・・・。それに、五秒チャージしておいたから大丈夫さ」 そう云い部屋へ戻ろうとするが、フングスが雲の肩を掴んだ。 「お前はまたそんなものを飲んで、ごまかしているのか? 折角作ってやってるんだぞ。申し訳ないなとか思わんのか!?」 「君が勝手にやっている事だろう?私には関係無い」 ピー!!とパイプを鳴らし、トレーのフタを開けた。 「どうだ・・・美味そうだろう?」 フングスは怒りを抑えた。 じっと雲はそれを見つめる。 今回の料理は、マーボー豆腐。 「何だこれ?」 どうやら雲はこの料理を知らないらしい。 雲の為に、ニンジンは抜いてあった。 「これはマーボー豆腐といってな、どっかの名物料理なんだとよ。これは某も大好きでなぁ・・・・。 はっ、そんな事はいい。食え!!」 雲はムッとした顔で、フングスを睨みつけた。 また駄目なのかと、フングスは冷や汗をかく。 「私の服を汚す気かい?愚か者が!」 トレーに置かれていた水をフングスの顔にぶっかけた。 「これはテメェが食いな!」 そしてフングスの頭に、マーボー豆腐を流した。 「あちーーーーーーーっっっ!!!あっちちちぃ!!!!」 廊下を走り回りながら、フングスは叫んだ。 そのうちに素早く雲は、部屋と戻っていった。 「こら、魔剣士!何様のつもりだ!?」 「オレ様・・・・・」 ぽそっと雲は呟いた。 「ムキーーーーーーー!!」 フングスはキレる寸前だった。 ・・・・・・キレた方がいいのでは? 「アハハッ、フングスちゃんったら面白い♪」 パラソルをクルクルと回しながら、ヘルバが現われた。 「煩い!さっさと向こうへ行ってろ!!!」 「もぅ、私に当たらないでよ。貴方が魔剣士ちゃんに気に入られないからって・・・・・」 ヘルバはタイラントのもとへと去っていった。 「何故だ、何故食べてくれないんだ・・・・・・」 またまた泣きながら、自分と床を拭いていき、雲はスヤスヤと眠っていた。 「もぅ我慢ならん!」 フングスは怒りながらも、やっぱり何かを作っていた。 「こうなったらあいつにクルクスを借りて探らせれば。否、オスカーにものを頼んだら何されるか分ったもんじゃない! ・・・・・・・・・・・・・・・さて・・と、伯爵様にも持っていくか」 丁度タイラントは食事中だった。 その前にはピストがなにやら謝っているようで・・・・・。 「・・・またなの?あれだけ自身満々に云っておいて、負けてくるなんてさぁ。君も駄目なやつだよねー」 チラっとフングスの方に目を向けた。 そんな目で見るなーと、フングスは心の中で叫んでいた。 「・・・・・は、伯爵様、これも召し上がってください」 「ただのオレンジゼリーですか。生クリームだけだなんて、飾り気が無いですねぇ」 オスカーが何処か馬鹿にしたように云った。 「で、ピスト?この始末、どうするつもりだい?」 パクッとゼリーを口に運んだ。 「はい、この経験をいかして、また風に挑み・・・・・・」 「それじゃいつもと変わらないだろ!!」 「はっはっはっは」 オスカーは笑い出した。 「うるさい!!」 タイラントがオスカーに、何かの赤いスープを投げた。 見事顔面に直撃! その傍らにいつの間にやら雲がぼ〜と突っ立っており、マントにスープが少しかかってしまった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 目を見開きながら雲は、染みのついた箇所を見続けた。 そんな事も知らず、タイラントはまだピストにあーだこーだと云っていた。 そして雲は、ゆっくりと部屋の奥へと消えていった。 漂白剤を手に取り、マントを手洗いする雲。 このマントは手洗いのみで、結構面倒なものだった。 「何で私がこんな事を・・・・・・・。私が・・・・・・・・・・・・・・・私・・・が」 プツン──────── 雲の中で何かがキレた。 「伯爵様、某のゼリーは如何でしょうか?」 「うん、ツブツブが入ってて美味しいよ。でも、チェリーが上に乗ってたらもっと良かったんだけどね。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?何か揺れてない??」 だんだんと床が揺れてゆき、心なしか地響きのような音が聞こえてきた。 そして・・・・・・・・・。 ドッガーーーーーーーーーー〜〜〜〜〜〜〜〜〜ンンッッッ!!! 少し遠くから、爆発音が響いた。 「ま、まさか!?」 バッとタイラントは立ち上がり、音がした方に顔を向けた。 「どうやら、始まってしまたようですねぇ。まぁ、いつもより一週間程遅れてましたし・・・」 クネクネと身体を動かしながら、オスカーは日付の入った手帳を眺めた。 「来てしまったのか・・・・・あいつの、魔剣士の・・・・・・・・・・・・二ヶ月に一度の反抗期が!!」 フングスは頭を抱えて叫んだ! 「だから某に何度も反抗的な態度をとってたのか。口調もおかしかったしな・・・」 「伯爵様、貴方の所為ですよ。魔剣士様の服を汚してしまわれるから」 「煩い、煩いーーー!!」 タイラントは食べ終わった食器をオスカーにぶん投げた。 だがオスカーは鞭を取り出し、向ってくる食器を上手く巻き取り、タイラントのところへと戻してしまった。 ムカッときたタイラントはまた投げるが、やはりオスカーは同じように鞭で巻き取り、 タイラントのところへと戻し、それをを繰り返していた。 いつしかタイラントは半泣きになってきていた。 それをオスカーはとても楽しんでいた。 「ばかぁ、オスカーの・・・オスカーのばかぁ!!」 隣りにいたヘルバに抱きついた。 ヘルバはよしよしと頭を撫ぜてあげた。 「オスカーちゃん、伯爵様をいじめちゃいやん」 「はい、失礼致しました。それに、こんな事をしている暇はないのでは?」 しまった!と皆は顔を見合わせる。 「フングス、キミ飼育係だろ?早く魔剣士のところへ行って、どうにかしてきてよ。 なんとかするまで、帰ってきちゃ駄目!」 「そ、某がですか?・・・・ってか、飼育係って??」 いいから行ってこい、とタイラントはフングスに命令した。 しぶしぶとフングスは雲の部屋へ・・・・・。 「あぁ、何でいつも某はこんな事をせねばならぬのだ・・・」 部屋に近付くにつれて物音は大きくなっていった。 ドアの前に立ち、ノックをする。 「・・・・・ま、魔剣士!ちょと落ち着け!!」 ガンッ! ガンッッ!! バキッッッ!!! 雲がドアに何かを投げつけたようだ。 本格的に、反抗期に突入していた。 ドアノブを回してみると鍵はかかっておらず、ゆっくりとドアを開けた。 チラッと中を覗くと、すぐ近くで雲が四つん這いになりながら、髪の毛を逆立てていた。 「シャーーーーーーーーッッッ!!!!」 まるで猫が威嚇するような声を出し、それに驚いたフングスは一気に逃げ出した。 「何とかするまで、帰ってこなくていいって云ったよね」 「しかし、某の手にはとても・・・・・。それにこっちが殺されてしまいます!!」 「だいじょうぶだよ、君は不死身のフングスなんだろ?仮に死んだとしても、誰も悲しまないから大丈夫♪」 満面の笑顔で、タイラントは酷い事を簡単に云ってくれる。 その言葉には、大きなショックを受けた。 「では、私が行ってまいりましょう」 「頼んだよオスカー。役立たずで無能な誰かさんの二の舞にならないようにね」 雲はまだ部屋の中で大暴れし、言葉にならない奇声を発していた。 「魔剣士様、入りますよ」 シュルッと部屋の中へ入ると、そこは見事に荒れており、 物は壊れるわシーツは破けるわで、大変な事になっていた。 オスカーに気付くと雲は部屋の隅へ逃げ込み、フングスの時のように”シャーー!”と威嚇していた。 「おとなしくしてください、魔剣士様。でないと、お仕置きですよ?」 雲は物をぶんぶんと投げだした。 だがオスカーはまた鞭を取り出し、投げてくる物を巻き取り近くのテーブルへといくつも置いていく。 投げる物が無くなってしまった雲は、オスカーの行動にショックを受け、腰のミストが入った瓶を高く投げた。 そして自慢の魔剣で割ると、一気に部屋中を霧が包み込み、その隙に雲は廊下へと逃げ出してしまった。 「あらら、失敗してしまいましたねぇ〜」 他人事のように呟いた。 いなくなった雲を探しに、かっぽう着姿のままフングスは、ガウディウム内を探し回った。 だが、なかなか雲の姿や物音がする事は無く、もしかして外へ出てしまったのでは?といろいろ考えていた。 「まったく、世話を掛けさせやがって・・・・・・。そういえば、まだ武器倉庫へは行ってなかったな」 フングスは駆け足で、その場所へと向った。 雲に気付かれないようそっと扉を開けると案の定、雲は倉庫の隅っこで丸くなって眠っていた。 (やっぱり此処だったか・・・・・) やれやれとかっぽう着を脱ぎマントを外すと、薄着の雲に風邪を引かぬように、そのマントをかけてあげた。 「こいつにの反抗期には、困ったものだな・・・・・」 ポンポンと雲の頭を軽く叩いた。 「明日はちゃんと食ってくれよ。・・・無理だと思うが・・・・。・・・こんなに細くなっちまって」 フングスは雲の隣りに座り込み、自分もそのまま眠ってしまった。 次の日の朝、雲が起きる前になんとか目覚め、フングスは朝食を雲が眠っているであろう倉庫へ持っていった。 雲はちゃんとフングスのマントに包まれながら、スヤスヤと眠っていた。 「ここに置いとくからな。食えよ、絶対食えよ・・・」 そう云い残し、フングスはいつも通りタイラントのところへと急いだ。 「─────ん〜・・・・・・・・」 目を擦りながら雲は身体を起こし、自分にかけられているものを手に取った。 「・・・・・マント?・・・・・・・・・・・・あぁ、あいつのか」 ぽいっと投げ捨て、傍らにある食べ物に気がついた。 「また私の嫌いな物が入ってるね。余計な事を・・・・・・・」 手をつけずに、また身体を丸め眠ろうとする。 だがその食べ物を覗き込み、そのままの姿勢で手を伸ばした。 皿に乗せられたサンドイッチを一つ摘み、そっと口元へと運んだ。 「・・・・・まぁまぁだね。・・・・・・・・・・・私の事など構わなくても良いのに。お人良しなやつ」 とりあえず食べ終えた雲は、眠りに入っていった。 そんな様子を扉の隙間から、フングスは覗いていた。 (よしゃぁーーーー!!!!) 心の中でフングスは万歳三唱をし、その瞳にはキラリと涙を浮かべていた。 だが、雲の反抗期はまだ終わりじゃない。 今日も何かが起こるだろう。 |