「反抗期2〜きりとくものたいけつ〜」 二ヶ月に4日間ほど、雲達の種族には反抗期と呼ばれるものが存在していた。 それは大人になれば、少しづつ修まっていくらしい。 まだ幼い雲と、成長期の少年霧兄様は、丁度反抗期に入るところだった。 雲達の家の中で、大きな物音が響いた。 何かガラスのようなものが割れ、そんな音が続け様に聞こえてくる。 「兄様のバカー!あのような事で怒らなくててもいいでしょぅ!!」 涙目で小さな雲は、テーブルに置かれていたカップを放り投げているところだった。 霧兄様はそれを避け、カップは壁に激しくぶつかり、粉々に砕け散った。 「雲、物を壊すなと何度も云っているだろう!?」 ゴチッと雲の頭をグーで小突いた。 「何でだよ、兄様が酷いのではありませんか!」 怒り等で、雲の口調はバラバラであった。 「お前は兄様の作った食事を、食べようとしないからだろう」 「人参嫌い!人みたいなその名前からして、ふざけたものです!! あんなの、人の食べる物ではありませぬ!!!何故それが分からないのーー」 ただの喧嘩のように見えるのだが、この二人は反抗期くらいにしかこういう事は起こらない。 騒ぎはエスカレートしてゆき、ついに兄様はこんな事を云ってしまった。 「ちゃんと食べないと、そのうち身体を壊して死んでしまうぞ!・・・・いや、殺す! 兄様はそんなお前を見たくはない。だから今!直ぐに、殺してやる!!」 と、物騒な事を叫んだ。 だが雲は怯む事は無かった。 「出た、殺し屋ギャグ!笑えな〜い。殺すぞ!殺し屋だけに・・・・笑えな〜い」 生意気な口をたたく雲。 これには霧兄様もプッツンきた。 「そんな事を云う悪い子は、出ていきなさい!」 「兄様が出て行けばいいでしょう!」 「分かった、出て行ってやろう!!!」 霧兄様は金だけを持ち、さっさと家を飛び出した。 その時の雲は勝利に満ちた顔をしていた。 そして自分の部屋へ行き、コロリとベッドに寝転がった。 「兄様のバーカ、殺し屋バーカ!」 少し寂しげな雰囲気も見せたが、反抗期な為にあまり関係なかった。 サイドテーブルに置いてある、昨日兄様に買ってもらったペロキャンを取り、カリカリと食べ始めた。 兄様というと・・・・・・・。 とりあえず近くの飲食店へ足を運んだ。 「いらっしゃいませ〜♪」 営業スマイルな店員が兄様を席の方へ案内していく。 その笑顔にも、兄様は気にくわないご様子だった。 別に何かを食べたい為に来たワケではなかった為、軽くメニューに目を通しているだけ。 「あれ、霧じゃんか♪」 「珍しいですね、お一人だなんて・・・」 「・・・・」 兄様の前に、三人の少年が現われた。 一人は長髪の眼鏡をかけているおっとり型。 もう一人はおかっぱのちょっと恐めで、裏で何考えているのか分からないような・・・。 そしてリーダー各の、兄様によく似た・・・いや似せている熱血漢。 そんな霧兄様の友達三人は、兄様のテーブルについた。 「なぁ、雲ちゃんは?一緒じゃないのかよ」 「今その事を云うな!!」 ガシャンッとテーブルを叩いた。 三人は顔を見合わせて・・・。 「もしかして君達、反抗期中かい?」 眼鏡を上げ直しながら、ちらりと横目で霧兄様を見る。 「・・・・・無様なものだな、今の君の姿は酷いものだ」 と早口で喋るのはおかっぱの少年。 「って事とは、今雲ちゃん・・・一人っきりって事・・・だよなぁ? クックック・・・今から遊びに良行っちゃおうかなぁ?」 「それは楽しそうですね」 と、三人は笑いながら席を立つフリをする。 この三人は、雲にベタ惚れ中のようだ。 暇があればいつも、雲と遊んでいた。 霧兄様はそのへんは心配でたまらなかった。 今一番の悩みでもある。 友達でなかったら、追い払ってやるものを・・といつも思ってる事だった。 だがそれだけじゃなく、良いところもいろいろとある三人。 だから霧兄様は友達でやっていけるのであろう。 「待て、貴様等!そんな事をしたら・・・・分かってるだろうなぁ?」 チャキリと、腰のフレイム・ソードに手を掛ける。 「じょ・・冗談ですよ、そんな本気にしないでくださいよ」 「ちっ、つまらん」 と、其処へ・・・。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 店員がやってきた。 三人は注文をするが、兄様はまだのようだ。 後で・・・と、店員を行かせた。 その後、何度も兄様のところに来るが、まだ決まらなく・・・というより、 食べたばかりでとくに食べる気もないので、また店員は去っていく。 「ご注文はお決まりでしょうか?」 五回目の言葉だった。 霧兄様は、ドンッと水の入ったコップをテーブルに叩きつけた。 「煩い、少しくらい待てぬのか!!」 大きく叫びだした。 「あ〜ぁ、やっちゃったな」 「・・・お客様、お静かに願います」 笑顔で、短剣の先を兄の顔に向けた。 「・・・・・・・っう」 ゆっくりと、剣が下ろされる。 「では繰り返します、ご注文はお決まりで?」 霧兄様は適当に注文し、去っていく店員の後ろ姿を見送っていった。 時折雲の事を考えては頭の中で激怒し、肩を震わせていた。 「あぁ、何故我が家を出なければならぬのだ!」 「まぁ落ち着けよ。今は仕方がないだろう?アレの期間なんだし (ってか、雲ちゃんに追い出されたのかよ・笑)」 暫くすると、料理が運ばれてきた。 「お待たせ致しま・・・・・あっ!」 さっきとは違う店員が料理をテーブルへ置いた時、スープが霧兄様の服に飛んでしまった。 「す、すみません!!」 「スミマセンですむかーーー!!!」 霧兄様はついにキレてしまった。 「おい、霧!!」 霧兄様の友達は、少し後ろの方へ避難していった。 腰のミストを抜き取った瞬間、さっきの店員が素早く現われ、霧兄様を緑のキューブへと閉じ込めた。 「・・くっ、店員だと思って油断した!」 ざわざわと客が、霧兄様達の方へと集中する。 「お客様〜、お静かに願いますと申し上げた筈・・・、それができぬのならば・・・・・退場!!」 キューブに閉じ込められたまま、外へと飛ばされてしまった。 なんて強い、店員なんだろう・・・・。 それに続き、三人は霧兄様を追いかけた。 勿論、金は払ってから。 そして、雲の方はというと。 「兄様、帰ってこないなぁ、お腹すいてきちゃったよ。 ・・・・・・・まぁ、いいか。ペロキャンあるし、くま(ぬいぐるみ)もあるし♪」 霧兄様の事は特に気にしていないようだった。 煩い兄が居なくなり、ぐだぐだとしながらベッドの上で転がっていた。 その手にはしっかりと、ペロキャンが握られていた。 二日が過ぎ、三日めの夕刻。 霧兄様は、カラオケボックス内で一人歌っていた。 ”雲”という名がつく歌詞ばかりを選び、歌っては怒っていたが、 やがて虚しくなってゆき、勢い良くこの場から飛び出していった。 どうやら反抗期もおさまってきているようだ。 「雲ーーーーー!!!!!!!」 その名を叫びながら、霧兄様は急いで家へと向った。 ピピッ ピピッ ピピッ 通信音が鳴り、携帯電話のような物を取り出した。 「誰だー!この忙しい時に!!」 「此方、A地区の警備隊の者だ。・・・雲くんの、兄かね?」 ドキッと兄様は立ち止まり、真剣に耳を傾けた。 「は。はい!確かに我は雲の兄ですが・・・・・」 「君の弟について話したい事があってね、とりあえず、ご自宅の方へ向ってください。今すぐ!」 そう云い、通信は切れた。 霧兄様はぐんぐんとスピードを上げ、真下の自分の家を見下ろした。 其処にはいくつかの警備隊の車が止まり、近所の人々が集まっていた。 「あの、この家の者ですが、何かあったのですか!先程通信を受けたのですが、・・弟は!?」 「貴方が、兄ですね。じつは・・・・・・・」 霧兄様は警備隊の車に乗せられ、本部へと連れて行かれた。 事の成り行きはこうだ。 雲は兄がいない間は食事をつくる者がいない為、雲は食べていなかったらしい。 そしてついには倒れてしまい、そこを近所の人に発見された・・・という事らしい。 ただでさえ身体の弱い雲は、意識不明にまで陥っていた。 今雲は病院の方へいるが、その前に兄に云っておかなければならない事があり、本部へと直行していた。 「まったく君は、弟を殺す気だったのかい!三日間も小さな子供を放っておくなんて、何を考えているんだ!!」 「すみません・・・つい頭に血が上ってしまい。それにどうやら、反抗期中だったようで・・・・・」 焦りながら、霧兄様は雲の事が心配で心配で心配で、いてもたってもいられない状態であった。 「こんな事件が起こるなんて、・・はぁ〜何という事だ。警備車の出動までの大事だぞ。 もっと保護者としての自覚を持ってもらいたいものだな」 数分後、霧兄様は本部から開放され、雲のいる病院へと急いだ。 雲は意識を取り戻し、自分の世話をしてくれる看護士と、兄について話していた。 「・・・でね、兄様ったら酷いんだ。私を一人家に残して・・・・・」 その時だ。 「雲ーーーー!!!!」 病院内だというのに、大騒ぎしながら霧兄様が乱入してきた。 「病院内はお静かに願います。雲くん、お兄さんが来ましたよ〜」 雲は、素早くフトンの中に潜り込んだ。 「兄様のバカ!殺し屋ギャグなんて受けませんよ!!」 「・・・・雲、兄様が悪かった・・・・のか?あ〜、とにかく身体は大丈夫か?」 すると看護士は霧兄様を見ながら云った。 「大丈夫な筈ありますか!発見がもう少し遅かったら、命も危ういところだったのですよ。 いいですか、次からはこんな事が無いように、注意してくださいね」 霧兄様は病院でもこっぴどく叱られた。 雲も体調を取り戻してきたので、今日のうちに退院する事になった。 「それにしても、回復力の速い子ですね」 「そうですね、将来には役に立つでしょう・・・・。さぁ雲、帰るぞ」 霧兄様は雲を小脇に抱えられた。 だがそれを看護士は引き止めた。 「そんな抱き方がありますか!いいですか、こう抱くんですよ」 抱き方を替えられて、姫抱っこにされた。 「では、帰り道を気をつけてご帰宅くださいね。お大事に〜」 「ばいばーい♪」 雲が小さな手を看護士に振った。 やれやれと、少し痩せてまた軽くなった雲と一緒に自分達の家へと飛んでいった。 なんとが無事、二人は家についた。 少々の口論もあったが、反抗期も終りを迎えていたので、それ程ひどくもなかった。 もぅ家の辺りは、警備隊やそれを見に来た人々はいなくなっていた。 雲をベッドへ寝かせ、霧兄様は部屋を出ようとドアノブに手をかけた時だ。 「・・・ねぇ、兄様」 「ん・・・どうした?」 雲は少し間を開けて。 「・・・おなか・・すいたよ」 霧兄様に雲は笑いかけた。 ”今作ってくるから待ってろ”と、霧兄様は腕によりをかけて、雲の好きな料理を作っていった。 霧兄様はそれをトレーに乗せ、雲の部屋へと向った。 「雲、持って来たぞ」 ”キャー キャー”と云う、喜びの声がドア越しに聞こえてくる。 中へ入り、トレーをサイドテーブルへと置いた。 「いっただきま〜す♪」 自分の好物ばかりで、雲はどんどん料理に手をつけていく。 「どうだ、美味いか?」 「うん、兄様の料理は世界で一番だよ♪」 「・・・そうか」 二人はコロッと態度を変え、楽しい夕食の時間を満喫していた。 そして夜、二人は一緒に眠る事に・・・。 「兄様・・大好きだよv」 「あぁ、我も・・好きだ・・・。おやすみ、雲v」 |