『恐怖童話〜さんびきのこども〜』


 ある森に仲の良い・・・かは知らないが、三人の子供と母親が住んでいた。
 家はとくに、大きくはないが小さくもない。
 とても日当たりが良く、いつもポカポカ良い気持ち。
 そんな窓際に、一人の少年がウトウトとしていた。
 そして、母親は・・・。
「三人とも、ちょっとこっちに来い!」
 名をフングスと云う母親は、三人の子供を呼び寄せた。
「何よ、今いいところなの!」
 いつも反抗期気味の長女”アイ”は、テレビの前でくぎ付けで動こうとしなかった。
「どうしたの、お母さん」
 いつも良い子な次男”ユウ”は、すぐに駆けつけてきた。
 三男の”雲”はというと。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 真昼間だというのに、スヤスヤと顔に本を乗せながらソファーで眠っていた。
 フングスはテレビを消し、雲を叩き起こす。
 寝起きの悪い雲は、ちょっと不機嫌なようで・・・・。
「勝手に消さないでよ、今いいところなのにぃーー!!」
「いいから聞くんだ!お前達はもぅ立派な大人だ。そろそろ一人立ちの準備をだな・・・」
「いやぁーー!!わたしはまだ親のスネをかじりたい年頃なの!!誰が出て行くかッ!」
 フングスにパンチをお見舞いした。
 親を殴るなんて、いけないね。
「寝かせろ・・・・・・」
 雲はミストの入った瓶に手を伸ばした。
「雲!家の中でミストは使うなと何度も云っているだろう!」
 ごつんと雲の頭を叩いた。
 無言で頭を擦りながらソファーに座り、また眠りに入ろうとしていた。
「それって今日なの?だったら早く用意をしないとね」
 ユユはちょっと悲しそうにフングスを見上げた。
「あぁ、お前はなんて良い子なんだろう!」
 自分に逆らわないユウをギュッと抱きしめた。
 それって贔屓よ、とアイは頬をふくらませた。
「よ〜く聞くんだぞ、普通はもう一人立ちをしている頃だ。
 雲なんて末っ子なのに、こんなに背が高くなって・・。
 これも某が毎日バランスのとれた食事を食わせて、
 家に置いてあげているおかげだろう?」
 雲はまたしても叩き起こされた。
「さぁ今こそ一人立ちの時だーー!!」
 仕方無く身じたくをし、それぞれ違う家を捜す事にした。



「あ〜ぁ、こんなか弱き乙女が一人暮らしなんて、まったく何考えてるんだろう・・・」
 ぶつぶつ云いながら、アイは藁を発見した。
「ラッキー、丁度良いところに良いものが♪」
 アイは藁をたくさん集め、作っていった。
 数時間後、見事(?)なアイ専用の小さな家が完成した。
「さぁ、ゆっくりとテレビでも観よう♪」
 ところで、電気は?





「家かぁ・・・どんなのが良いのか見当もつかないよ・・・・・・」
 ユウは通りすがりの人に声をかけた。
 その姿は全身真っ黒のローブに身を包み、仮面をつけている男(?)のようだった。
「どうかしましたか?」
 その仮面男は、身体をクネクネさせながらユウに近づいた。
 世間知らずなユウは、そんな怪しさに目もくれず、家を探していると云う。
「それなら、あの店へ行ってみるといいですよ〜。
 きっと貴方にとって良い家が見つかる事でしょう」
 仮面男は静かに去っていき、ユウはその店へと向った。

「いらっしゃいませ〜!おやおや、これは可愛いお子さんがきたものですねぇ?」
 そこに居たのは全身が緑に近い青色をし、口が後ろにある変な人(?)だった。
 こういう人もいるんだなぁ、とやっぱりユウは動じなかった。
「初めまして、私はピストと申します。
 さて、どういった家をお求めで?あ〜予算の方はいくらくらいでしょうかねぇ?」
 ユウは今持っているお金を計算し、ピストに出せる分だけを伝えた。
「そうですねぇ、それでしたたら木の家が適当ですね」
 テーブルの上に、カタログを置いた。
 その本には、”木の家専用カタログ”と書いてあった。
 ピストはパラパラと捲ると、とある一つの家を指差した。
「これなんてどうです?日当たり抜群、部屋もなかなか広いですし・・・」
 自分ではどう選べばいいのか分からないユウは、ピストの指した家を購入した。








「・・・・・・・・・・・・・」
 眠そうな雲はとりあえず、ポカポカと気持ちの良い野原で、昼寝を楽しんでいた。
 日が落ちてくる頃になり、雲は家を捜しにいった。
 途中まで、どうやらその事を忘れていたらしい。
 器量の良い(?)雲は、店員に魔剣を突きつけ話を運ばせてゆき、
 安くレンガの家をゲットしていた。
「なかなか良い家だな、暖炉もあるし・・・。さぁ、寝るとしよう!」
 さっさと雲は就寝した。



 そして次の日・・・・・・・・・。

 黒のマントに身を包み、小さく歌を歌いながらアイの家へとやってきた。




 その頃雲は、レンガの家でフカフカのべっドで寝そべっていた。
 うとうととし出したその時、荒々しい騒音に眠気を妨害されてしまった。
 誰かがドアを叩いているようだ。
 その誰かとは、お気づきだろう。
 煙突掃除屋の風に家を壊された可愛そうな子供達だ。
「雲ーー!!ねぇ、お願いだからドアを開けてぇ!!」
 アイが泣き叫びながら、これでもかというくらいの力で、ドアをノックする。
 ユウはもう少し冷静に、雲を呼びかけていた。
「ちょっと、留守なの!?」
 するとドアがいきなり開かれ、
 ノックを続けていた手は運悪く雲のみぞおちに食い込まれた。
 雲はその場にしゃがみ込み、涙目でアイを睨みつけたが、
 そんな事はアイにとってどうでもいい事であった。
「つい勢いが余っちゃったね。とにかく入るわよ!」
 雲を置いて、スタスタと中へ入っていった。
「大丈夫、雲?肩かそうか?」
 優しいユウは雲の頭を撫ぜた。
 だが二人の身長差では、肩をかすのは難しいだろう。
 鍵を閉め、三人はテーブルについた。
「・・・・・で、どうしたんだい?私は眠いんだ、早く用件を云ってくれ」
 眠そうに眼を細めながら、肩肘をついた。
「大変なのよ、わたしとユウの家が、変な煙突掃除屋とかいうおじさんに壊されちゃったの!
 隙あらば殺そうと思ったんだ!せっかく作ったのにぃーー!!!」
「煙突があれば、僕達の家・・・助かったのかなぁ・・・・・・・・・って、聞いてる?」
 雲はユウが話しているほんの少しの間に、眠っていた。
 はっと我に返り、二人の顔を交互に見た。
「・・・煙突掃除屋の黒き風って男が私の眠りを妨げる敵なんだね。
 分かった・・・私に任せておけ」
 そう云うと、ソファーへと寝転がった。
「私はそれまで眠るけど、ゆっくりしていっていいからね。
 煙突掃除屋が来たら起こしてくれ・・・・・」
 パタリ・・・・・・・。
 雲はまた夢の中へと旅立っていった。
「まったくすぐ寝ちゃうんだから」
「此処にも来るのかな?」

・・・・・トン・トン・トン!

「ひぃっ、来たぁ!?」
 ユウは小声で叫んだ。
「とりあえず、これ持って」
 これとは、少し大きめのフライパンだった。
 アイの手には使い込まれた金属バットが握られている。
 どうやらそのバットは自分専用のものらしいが・・・・・・。
 いったい何に使ったのかは、あえて聞かない方がいいだろう。
 二人はそーとドアを開けると、其処には煙突掃除屋ではなく、
 ユウ達よりも少し小さめな子供が立っていた。
「貴方はオメガを信じますか〜?ボク達と共に、オメガを集めましょう!
 そしてボクはこの世界の神となり、君達を幸せな・・・」
「間に合ってます!」
 アイはドアを思い切り閉めた。
「駄目よユウ、あーいうヤバイのに関わっちゃ絶・・対に駄目ッ!!」
 まだ外では何かをベラベラと喋っているがあえて無視し続けた。


「オメガを信じない者は、混沌にのみ込まれてしまいますよ!」

「混沌に!」

「こーんーとーんーにぃぃ!!!」


 ・・・・・・・・暫くすると、諦めたのか静かになったので三人に安息の時が流れた。
「あの男、来ないわね〜」
「来ない方がいいけど・・・・・」
 雲は幸せそうに眠っていた。
「そういえば、お腹すいたなぁ〜〜」
 アイはテーブルに突っ伏した。
 ゆっくりしていって、と云われたのでアイはキッチンへと入っていった。
 冷蔵庫を開けると、中には野菜系や
 ウイダーインゼリー各種にアクエリアスばかりが詰め込まれていた。
「あのベジタリアンめ、ちゃんと肉や野菜や牛乳も飲めっていってあったのに・・・・・・」
 仕方無く、ウイダーゼリーを二つ持って戻ってきた。
「はいユウ、とりあえずこれでも飲んでおこう。
 曇ったら、簡単に食べれるもの何にもないんだもん」
 眠っている雲を横目で見る・・・・、とその時。

 ドン!
 ドン!!
 ドンッ!!!

 大きな音を立てて、ドアがノックされた。
 今度こそあいつかもと警戒しながらユウはドアを開け、アイは雲を叩き起こした。
「こちらは煙突掃除屋の黒き風。御用は?」
「・・・え・・え〜と・・・・・・・・あの・・・・・・・」
 ユウが戸惑っていると、目覚めた雲が身を乗り出した。
「是非とも頼みたい、丁度君を待っていたところだ」
「それはありがたい、早速掃除にかかろう」
 黒き風はスルスルと屋根へ登っていった。
 あいつをどうするの?と、二人は首を傾げる。
 雲の作戦はこうだ。
 煙突の下に熱湯を沸かしておき、そこへ風を上から落としてやるという恐ろしい事であった。
 三人は大きな鍋を運び、火を点した。


 黒き風は、煙突の中へスッポリと入り込み、身体を回転させていった。
 あのマントで汚れを拭きとっているらしい。
 だがらマントが黒いのだろう。
 噂(?)によると、元の色は白かったとか・・・・・・・。
「チムチムチェリ、チムチム〜チェリ〜〜♪おーれーはえんとーつ掃除ー屋さ〜〜ん♪」
 歌をうたいながら、とても楽しそうだ。
 だがその下ではまさか湯を熱しているなんて、思いもよらない事だろう。


「これであの男は、ジ・エンドだろうさ」
 新聞を広げながら、雲は足を組んだ。






「何か暑い・・な。少々張り切りすぎたか?
 さっさと終わらせるか。・・・・ついでにあの三人を食っちまおう」
 食うといっても、食べるという意味ではなく金品巻き上げの事らしい。
 この男の名は、悪名高き「狼の黒き風」と呼ばれているようだ。
 何故狼とついたのかは謎である。
 とその時。
「しまった!」
 足を滑らした風は・・・・・・・。


 ザッブーーーンッッ!!


 ついに風が煮えたぎった湯の中へと落ちてしまった。 
  「よっしゃぁーーーッ!!」
 アイがガッツポーズをとり叫んだ。
 雲はチラリと風の方を向いた。
 ところが風は、煮えたぎる湯の中、のんびりと浸かっていた。
「悪いな、風呂まで沸かしてもらって・・・・・って、ちがーう!
 お前等、さては俺を殺す気だったのだな!」
 風に熱湯は効かなかったようだ。
 怒りに狂った風は、お決まりの台詞を云いだした。
「お前に相応しいソイルは決まったー!」
「雲ー、もぅ駄目よ!早く逃げよう!!」
 アイが涙目で雲を見上げた。
 顔色一つ変えない雲。
 雲は二つ、ミストの瓶を取り出した。
「どうするの?」
「此方からも攻撃するのみ!デュエット!!」
 ついでに口からミストを吐き、部屋中はミストで包まれた。
 雲はアイとユウの手を引っ張り、外へと逃げ出した。
 一人取り残された風はまだ傍にいると思い、召還獣を呼び出した。
「ギガ・フェニックス」
 なんと、零式版を放つ風。
 だが、雲が呼び出した召還獣が風の腹を目掛け、勢いよく貫通していった。
 ミストで見えなかった事もあり、風は避ける事ができなかった。
 標的が何も無いギガ・フェニックスは、困りながら天へと昇っていくしかなかった。





「家・・・・壊れちゃったね」
 ユウが悲しそうに、ボロボロになった家に目を向ける。
「・・・・よし、行こう」
「行くって、何処へだい?」
 ”決まってるでしょ!”とアイは、ニヤッと笑った。

「私”達”の家」














「あいつ等、今頃どうしてるかのう?」
 フングスは窓際で茶をすすりながら、空を眺めていた。
「こんなにのんびりできるのは、久しぶりだ・・・・。
 少々寂しいが、やっと某にも平和が訪れた」
 そんな風に思っている時。

 ドンッ ドンッ ドンッ!!

    ドドドンッ!!!

 ドアを喧しく叩く音が聞こえた。
「煩い!なんて下品な叩き方だ・・・・」
 よっこいしょっと立ち上がると、ドアの方へ向った。
「誰だ!・・・・・・・グフッ!!!」
 ドアを開けた瞬間に、フングスの鳩尾に、拳が食い込まれた。
「ごめんね〜、つい手が滑っちゃった♪」
 そこにいたのは、アイ・ユウ・雲の三人だった。
 アイは今までの事情をそれはもうなんとも簡単に話すと、
 雲とユウの手を引っ張り家の中へと入った。
「だから、私達は”三人”で此処に住む事にしたから
 ・・・・・・・・・じゃぁね」
 フングスを外に置いてアイは勢い良く、ドアを閉めた。
「おい、貴様等何を考えている!!こら、開けんかーーーー!!!」
 しかしアイ達は、取り合おうとしなかった。
「コレだけ渡しておくね〜」
 窓から、リュックが投げ出された。
 中には、金とフングスの私物が詰め込まれていた。
 雲は窓から身を乗り出すと、

「我がミストに包まれ眠るが良い・・・・・・」

 雲の技がフングスの身体を包み込んだ。
「な、何だコレは!!??」
 すると辺りは濃い霧に覆われた。
「ギャァァァァアアアーーー!!!」
 叫びが響き終わると、ミストは一瞬にしてフングスと共に消えていった。
「雲、今の何て技なの?」
 心配そうに、ユウが雲のマントを引っ張った。
「・・・・・違う場所へ移動させただけだよ。
 さぁ、眠るとするか・・・・・・・・・・・・」





 そして三人の子供達は仲良く助け合い、のんびりとくらしだした。













「此処はいったい何処なんだーーーーー!!!!」
 フングスは別の森へ移動させられていた。
 すると、何処からか歌声が聞こえ出した。

「チムチムチェリ〜・・・チムチムチェリ〜〜〜〜♪
 そこのお前!俺は歌って踊れる煙突掃除屋の風だ。御用は?」
 前より歌がパワーアップしていた。
「そんなものなどない!!」
 ムキーとフングスは腕を振り上げた。
「何だと?煙突が・・・無いだと?・・・・・・・良い度胸だなぁ!!!」
 風は魔銃から召還獣を呼び出し、フングスへ放った。

 そしてボロボロになったフングスは、仕方なくこの迷いの森の中で暮らす事になった。





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